減税だけで弱い企業を救済するのは不可能だが、質の高い企業は減税に伴う予定外の利益を投資家のために有効利用することができる。
2024年11月の選挙でドナルド・トランプ次期大統領が選出された後、米国の金融市場は法人減税が実施される可能性によって短期間ながら高騰した。このつかの間の「トランプ・トレード」では、ダウ平均株価が記録した1日の上げ幅が過去2年間で最大となったほか、S&P 500指数や、テクノロジー銘柄が多いナスダックも過去最高値をつけた。そうした高騰は少なくとも部分的には、新政権で法人減税が実施され、それがおそらく企業の利益を押し上げるだろうという投資家の期待を反映したものだった。しかし、減税はすべての企業に等しく影響を及ぼす訳ではないため、投資家は税制よりもビジネス・モデルに注目することに時間を割くべきだとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考えている。
市場は以前、同じ状況を経験している。トランプ次期大統領が2016年に初めて選挙に勝利した後、株式市場は法人減税を期待して反発した。そして、最終的には2017年税制改革法(TCJA)が、法人所得税の最高税率を35%から21%に引き下げたのだ。なお、この全面的な税制見直しでは、法人代替ミニマム税の廃止、法人課税控除の促進、海外源泉の法人所得に対する課税方法の変更も実施している。
減税は米国企業が国際舞台で競争力を維持するのに役立っている。しかし、減税が良い企業を作り出す訳ではないため(以前の記事『米国株投資の新時代:トランプ政権に備える4つのポイント』ご参照)、業績が振るわない企業がTCJAによって魔法がかかったように魅力的な投資対象になるといったことはなかった。それどころか、法人減税は業績が好調な企業に利益をもたらし、一方では、弱い企業にダメージを与えてしまう傾向がある。現在の環境では特にそうである。
その理由を理解するには、まず最初に、企業が減税にどのように反応するのかを考察する必要がある。
競争が激しい市場では価格決定力が重要である
企業は値下げすることにより、税率の低下に伴う利益率の上昇分を顧客に還元することができる。しかし、どの市場でもそうだが、ほとんどの産業では傾向として、投下資本利益率(ROIC)が資本コストと同じか、それをやや上回る水準にある(以前の記事『利益と持続力~持続的な成長企業に投資する秘訣~』ご参照)。これは競争が激しいためだが、そうした環境では、最も非効率的なメーカーが製品価格を決定する傾向がある。また、質の高い企業にとっては、弱い競争相手がかろうじて維持できる価格でより高い利益を確保できるという利点がある。ただし質の高い企業は潜在的には高い価格決定力を有しているため、減税に伴う予定外の利益を顧客に還元せず、再投資のために確保することも可能だ。成長企業が再投資のための資金確保する経営戦略は、ABが概して支持する戦略である。
ただし、強い企業には弱い競争相手とは違って他の選択肢もある。現在は特にそうだ。長期間続いたインフレを経て、現在はこの数十年ほとんど見られなかった最も激しい価格競争期にある。インフレ圧力がまったく高くなかった2017年と現在とを比べれば大違いである。その結果、自身の利益を長期的に損なうこことなく値下げできるのは、最も強い企業だけになっている。そして、一部の質の高い企業は実際に行っている。つまり、意図的に価格を引き下げて弱い競争相手にダメージを与えている。例えば一部の運送会社は、弱い競争相手を廃業に追い込むような価格水準で利益をあげることができている。また、有利な立場にある大規模小売業者は、その規模を生かしてオンライン事業や配送センターへ戦略的に投資し、小規模安売り業者弱い競争相手からシェアを奪っている。
さらなる減税で強い企業がなお一層強くなる見込み
確かに最も強い企業は、市場が要求する値下げ幅の分だけ妥協するだろう。しかし、次期大統領が連邦法人税率を公約どおり21%から15%に引き下げた場合、少なくとも質の高い企業は競争相手と同じ水準まで値下げしながら、純利益を増加させ、ROICを高めることができるはずである(図表)。
ある産業の最も強い企業と最も弱い競争相手の間でROICの差が大きければ大きいほど、最も強い企業が減税から受ける恩恵は相対的に大きくなる。それによって強い企業はなお一層強くなることができ、弱い競争相手は市場から強制退場させられ、産業の集中が進むことになる。
減税を受けて何を行うのかにかかわらず、最も強い企業は有利な立場にある。そのため、新政権下では、コスト効率が高い質の高い企業の税引き後リターンが、効率が低い非優良企業のリターンを上回るとABは予想する。
投資家は企業の質に注目すべきである
企業の質に注目することは投資家にとってどのような意味があるのか? 共和党が統一政府の下で減税を実施すれば、米国企業は少なくともそれに伴って増加するキャッシュフローの一部を、自社株買いや増配という形で投資家に還元するとABは予想している。ただし、そうした動きは諸刃の剣になる可能性がある。なぜなら、自社株買いは企業の一株当たり利益(EPS)を高めることができるが、一方では短期的な利益の追求にとどまり、将来のために資金を投じるのを妨げてしまいかねないためである(以前の記事『米国企業は将来のために十分投資しているか?』ご参照)。
ABでは、投資家は長期的には企業の競争力に注目し、アクティブ運用を通して質の高い企業を選定すべきだと考えている。結局のところ、税率引き下げによる短期的な市場の上昇にのみ飛びつくのは、ほとんど意味がないのだ。長期的に見れば、持続可能なビジネスモデルや高い競争優位性を持つ質の高い企業の株式がアウトパフォームする傾向があり、それは、減税のシュガー・ラッシュ(糖分の過剰摂取によって一時的に活動過多になる)効果による一時的な株価上昇があったとしても然りである。
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