新興国株式市場は苦境に立たされてきた。しかし、「失われた10年」により、回復に向かう好ましい環境が整った可能性がある。

厳しかった2023年を経て、新興国の株式市場には回復の兆しが現れている。投資家が自信を取り戻すには、新興国の株式に関する一般的な認識が本当に正しいかどうか見直してみることが重要だ。

投資家が新興国市場への投資に前向きになれない理由は、容易に理解できる。MSCIエマージング・マーケット指数の2023年のリターンは米ドルベースで9.9%と、S&P 500指数の26.3%を大幅に下回った。過去10年間のパフォーマンスも低調で、新興国株式に対する投資家のネガティブなセンチメントが定着している。しかし、最大の懸念材料のいくつかは誤解であるとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では考える。

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誤解1: 米国株式は常に新興国株式をアウトパフォームする

一部の投資家は、20年以上前にMSCI エマージング・マーケット指数が誕生して以来、米国株式と新興国株式のリターンが年率換算でほぼ同じだと聞くと驚くかもしれない(図表1)。2001年以降の年率リターンはS&P 500指数の約7.8%に対し、MSCI エマージング・マーケット指数は約7.6%とほぼ同水準で、米国を除く先進国市場と比較すると、新興国株式のリターンの方が上回っている。

もちろん、過去10年間にわたる新興国株式市場のリターンは期待外れだった。しかし、2000~2010年には、新興国株式はS&P 500指数を大幅にアウトパフォームし、2001年以降の長期的なパフォーマンスで、新興国株式はMSCIワールド指数を上回っている。

2023年のパフォーマンスの水面下に、いくつかの良好な動きが隠されている。米国株式のリターンは主に、人工知能(AI)革命の大きな勝者になると目されている「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる少数の超大型銘柄がけん引役となった。一方で、「マグニフィセント・セブン」以外の多くの銘柄はそれらに匹敵するリターンを上げられなかった。新興国株式は中国株式の急落が重荷となった。しかし、中国を除いた新興国株式は2023年に20.1%のリターンを上げ(図表2)、ポーランド、ギリシャ、メキシコなどの株式市場は素晴らしいパフォーマンスを達成した。

こうしたトレンドは変化する可能性がある。米国株式の上昇がごく一部の銘柄に集中している状況は歴史的に見ても極端で、いずれは投資家の興味が他の銘柄に分散される可能性がある。中国では支援策が講じられれば、時間とともにセンチメントが改善する可能性がある。しかし、2023年のグローバル市場の厳しい状況は、米国株式と新興国株式のリターン・パターンが見た目以上に複雑であることを思い起こさせる。

誤解2: 新興国企業の利益は増えていない

過去10年間、新興国の企業業績は確かに伸びが鈍かった。新興国企業の一株当たり利益(EPS)を押し下げる米ドルの上昇、米中貿易戦争やロシアのウクライナ侵攻を含む地政学的懸念の高まりなど、企業は多くのハードルに直面してきた。

しかし、今後10年間はいくつかのトレンドが新興国企業にとってはるかに好ましい環境を生み出す可能性がある(以前の記事『Don’t Look Back: The Next Emerging-Market Decade Will Be Different』(英語)ご参照)。イノベーション、世界のメーカーによるリショアリング、気候変動への耐性を高める世界的な取り組みは、一部の新興国やその企業に恩恵をもたらす成長ドライバーになるとABは考えている。実際、新興国企業のEPSは、今後2年間にわたり比較的高い伸びを示すことが予想される(図表3)。

業績見通しの修正にも明るい兆しが見られる。2023年10-12月期には、向こう12カ月間のEPS伸び率のコンセンサス予想について、S&P 500指数が1.3%上方修正されたのに対し、MSCI エマージング・マーケット指数は5%引き上げられた。これは、ファンダメンタルズが変化していることを示す具体的な証拠で、米国株式と新興国株式のリターンの関係が転換する可能性を示唆している。

ABの見方では、新興国におけるEPS成長率の分布は、まだ認識されていない投資機会があることを示唆している(図表3)。ABのリサーチによると、新興国では指数構成企業の半分以上が、利益が1年に少なくとも10%以上成長している。また、新興国では指数構成企業のうちEPSが30%以上成長している企業の割合が、米国市場に比べて高くなっている。しかも、2023年末時点におけるMSCI エマージング・マーケット指数の予想株価収益率は11.7倍で、MSCIワールド指数よりも39%低い水準にある。

確かに、MSCI エマージング・マーケット指数はマクロ経済の変動にぜい弱なセクターの比率が高い。しかし、その指数には1,441銘柄が組み入れられており、さまざまな分野への投資機会を提供している。実際、MSCIオール・カントリー・ワールド指数に占める新興国株式のウェイトは10.4%に過ぎないが、銘柄数で見れば、2,921銘柄のうち49%を占めている。これは、アクティブ・マネジャーにとって、強力な利益成長力と、シクリカルなボラティリティの低減に寄与する特性のバランスがとれたポートフォリオを構築する上で、数多くの新興国企業への投資機会が存在することを意味する。

誤解3: 新興国市場イコール中国経済

中国は2001年から2010年まで新興国の成長をけん引する大きな役割を果たしてきたが、ここ数年はマクロ経済成長の鈍化が関心を集めている。しかし、MSCI エマージング・マーケット指数の75%は中国以外の新興国企業が占めている。イノベーションについても、人工知能(AI)を支える主要部品を生産する多くのハードウェア・サプライヤーが拠点を置く他の東アジア諸国が大きな比率を占めている。 ABはそれを「バックドアAI」と呼んでおり、投資家は米国に上場しているトップ企業よりもバリュエーションがはるかに低い企業への投資を通じ、AIの成長による恩恵を受けることができる(以前の動画『Emerging Markets and the ChatGPT Value Chain』(英語)ご参照)。

一方、中国以外へのリショアリングは、メキシコ、インド、東南アジア諸国などの新興国に恩恵をもたらす見通しだ。豊富な労働力を抱えるインドの台頭も長期にわたる成長につながる(以前の記事『新しいインド:効率アップと投資の道を切り開く』ご参照)。

炭化水素をはじめとする天然資源は、環境面の制約によって供給が制限されるため、ますます貴重になる可能性がある。それは、ブラジル、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)など豊富な資源を抱える国々に恩恵をもたらしそうだ。経済の多様化を目指すサウジアラビアの「ビジョン2030」計画も、株式投資家に投資機会をもたらすと思われる。

中国では、新たなパラダイムが生まれつつある。中国は持続可能な成長源を持つ、より健全な経済に移行しようとしている(以前の記事『China’s Struggling Economy Masks a Promising Investing Landscape』(英語)ご参照)。最近は中国株式がアンダーパフォームしているが、投資家はテクノロジー、医療、消費、工業などのセクターで、堅実な成長ポテンシャルを持ちながら、グローバルな投資家にまだ知られておらず、バリュエーションが魅力的な水準にある優れた企業を見つけ出すことができるとABでは考える。

新興国株式に対する投資家の不安は理解できる。しかし、歴史的な実績や将来の成長ドライバーを新たな視点で見つめ直せば、新興国の株式市場には、ありふれた光景の中にさまざまな投資機会が潜んでいることがわかるだろう。

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