米国のマネージドケア業界に対してはいくつかの疑問が投げかけられているが、そうした課題にうまく対応する態勢が整っている企業もある。 

米国の医療制度を構成する重要な民間セクター要素の1つであるマネージドケア・プロバイダーが、圧力にさらされている。政府保証プログラムの払い戻し率が失望を誘うほど低いことや、加入者の受診が増加する傾向にあることがその背景である。しかし、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では、そうした課題を乗り越えられる企業が、ヘルスケア株式での分散投資において一翼を担うはずだと考えている。 

米国の医療制度におけるマネージドケア企業とは、患者ケアや健康保険をまとめて加入者に提供する企業のことであり、一般の医師や理学療法士、専門医などへのネットワークを提供している。米国ではこのアプローチが広まっているが、その大きな理由は、連邦政府が運営する公的医療制度がないためである。

2024年のヘルスケア株式は力強さに欠けたスタートを切った。MSCIワールド・ヘルスケア指数は4月までの4カ月で3.2%上昇したにすぎず、全セクターを網羅するMSCIワールド指数(4.8%上昇)をアンダーパフォームした(米ドルベース)。マクロ経済の成長をめぐる懸念が薄れている中、株式投資家は単にヘルスケア・セクターのディフェンシブな性質を求めているのあろうか?

ABはそう考えていない。ABの見解では、ヘルスケア株式は攻めと守りの強力な組み合わせを提供しており(以前の記事『変化する株式市場の攻めと守り:テクノロジーとヘルスケアの進化』ご参照)、それによって上昇相場のかなりの部分を享受しながら、下落リスクも軽減できる傾向があると考えている。市場の変動を通して長期的にアウトパフォームするには、新たな治療法や超大型新薬で新聞の見出しを飾ることが多い巨大な製薬会社グループ以外にも目を向ける(以前の記事『ヘルスケア・セクターへの投資:医薬品の枠を超えた成長の発掘』ご参照)投資アプローチが必要である。 

米国のマネージドケア業界を理解する

米国のマネージドケア企業は、プロバイダーのネットワークを通して医療サービスやさまざまな健康保険を加入者に提供している大企業である。優良企業は概して安定した定期収入源を有している上、資本利益率(ROC)で見た収益性や成長率も魅力的である(図表)

それにもかかわらず、2024年は2つの大きな課題がマネージドケア関連株式の足かせになっている。第一に、高齢の加入者の多くがコロナ禍後の正常化の中、先送りしていた緊急性が低い医療処置を受け始めており、結果として医療費が増加している。 

続いて4月初めに、メディケア・アドバンテージ・プランで政府負担率の年次改定が行われ、マネージドケア業界を失望させた。メディケア・アドバンテージはマネージドケア企業が提供する高齢者や特定の障害者向けの健康保険であり、その運営費は政府が支払っている。各企業は見積もったコストや払い戻し率を織り込んだ上で利益を上げなければならないが、2023年半ばにメディケア・アドバンテージ加入者の受診傾向が想定より高まり始めた(つまり、コストが想定より増え始めた)。そのため、4月に想定より低い2025年の政府負担率が発表された際には、マネージドケア関連銘柄の株価が総じて下落したのだ。 

多角化企業の方が有利 

株価下落の背景にある懸念はもっともだが、投資家は足元のイベントだけに基づいて全面的な結論を出すべきではない。ABでは、想定より低い政府負担率が、マネージドケア企業に異なる形で影響を及ぼすと考えている。マネージドケア業界に詳しい投資家は、政府が負担率を毎年改定することを知っている。したがって、想定より低い負担率は、企業の業績予想では既知のリスク・ファクターなのだ。 

また、事業の多角化をあまり行っておらず、メディケア・アドバンテージへの依存度が高いマネージドケア企業の方が、同プランにおける政府負担率の好ましくない改定や受診傾向の高まりといったリスク・ファクターに、さらされやすいと言える。事業の大きな部分をメディケア・アドバンテージ・プランが占めるヒューマナが今年すでに業績予想を大幅に下方修正し、株価の大幅下落に見舞われたのはそのためである。5月には同じく同プラン大手のCVSヘルスも、コスト増加傾向からの圧力を理由に業績予想を引き下げている。 

事業の多角化を行っており、優れた業務執行実績を持つマネージドケア企業は、リスク・ファクターにうまく対応できる態勢が整っている。そうした企業にはユナイテッドヘルス・グループやエレバンス・ヘルスが含まれ、メディケア・アドバンテージ・プランへのエクスポージャーが比較的少ないほか、利益を上げる方法が他の事業で総じて多くあるため、同プランにおける好ましくない政府負担率や受診傾向の高まりの影響を相殺することができる。これらの企業は規律ある価格設定を行ったり、メディケア・アドバンテージ・プランで高い採算を挙げた実績もあり、健康保険の加入者特典を大幅に削減することなく利益を守ることができるだろう。

好循環ヘルスケア・エコシステムを支える

ABでは、ヘルスケア・セクターに投資する際に極めて重要なのは、ABが好循環のエコシステムのなかで事業を営む企業を見いだすことだと考えている。企業は患者のためになる商品やサービスを提供することにより、利益を上げながら、患者や医療システムのコスト削減をもたらすのだ。 

多角化したマネージドケア企業が低い政府負担率に適応する能力は、好循環のエコシステムの運営においてこれらの企業が果たす必要不可欠な役割によって支えられている。具体的には、米国では優良なマネージドケア企業が、医師の巨大なネットワーク構築も含めて、事業を垂直統合しようと取り組んでいる。そうした取り組みが加入者に恩恵をもたらしており、それが医療へのアクセスや医療の質の改善につながっているほか、医療制度のコスト削減にも寄与している。さらに、そうした状況が事業の優位性を後押しし、これらの企業が高い収益性や成長を実現しながらシェアを拡大するのを促すのだ。 

ABでは、そうした好循環のエコシステムで事業を営む企業が、ヘルスケア・セクター全体のさまざまな業界のなかで、長期的に優れたリターンをあげる可能性のある魅力的な機会を、株式投資家に提供すると考えている。 

リスクを認識しながら成長する可能性を捉えるアプローチ

もちろん、賢明な投資家は、政府負担率の改定、受診傾向の高まり、米国の選挙も含めたリスクを考慮しなければならない。しかし、これらの問題に関連した短期的なボラティリティがマネージドケア業界の長期的な状況を狂わせることはないと、ABは考えている。例えば、ヘルスケア・セクターは政治及び政策のリスクに弱いというのが一般的な見解だが、ヘルスケア株式の値動きが米国の選挙年にさらに激しく変動することはないと、ABのリサーチは示唆している。

どのセクターでも同じだが、事業が多角化された一部のマネージドケア企業は、バイタルサインが他の企業より強くなっており、変わりゆく業界力学によりうまく対応できる。ヘルスケア株式の投資家は、市場の論争を乗り越えて、一貫した収益性を支える競争優位性を持つ企業に注目することにより、厳選されたマネージドケア銘柄が、ポートフォリオの長期的な成長可能性を高める魅力的な特性を兼ね備えていることを見いだすだろう。

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