電気自動車(EV)は激しい競争の最中にあるが、根強い需要が続いている。そうした中で、株式投資家はどうすれば変化が著しい業界の成長性を捉えることができるだろうか。

2024年4月2日、テスラは販売台数の低下を発表し、いわゆるマグニフィセント・セブンにおける地位も危うくなった。テスラが米国超大型株のトップグループをキープするかどうかは別として、このニュースはEVがもたらす破壊的な可能性に賭けてみようとする株式投資家にとって、スピードダウンを示す内容であったとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では考える。

テスラは15年にわたり、EV生産の先駆者であり続けた。2008年に最初のEVモデルを発売し、テスラのブランドは世界的に知られるようになった。競合他社の動きは遅く、当初はテスラの品質や機能に匹敵するものはほとんどなかった。

変化するEV市場のダイナミクス

近年、EV市場は変わりつつある。S&Pの調査によれば、現在米国で販売されているEVは48モデルあるが、2019年にはわずか6モデルに過ぎなかった1。品質は向上し続けてきた。同時に、いち早くEV購入を考える熱狂的なファンは減少している。こうしたダイナミクスは米国において最も顕著で、EV販売台数の伸びは期待に大きく反し、急速な減少を見せている(図表)。EV業界は引き続き成長してはいるものの、そのスピードはかつてほどではなく、競争はし烈を極めている。

無論、EVは再生可能エネルギーへの移行を支援する取り組みとして重要であることに変わりはない。多くの購入希望者にとって、EVは地域の移動手段としては優れた選択肢である。しかし、車の走行距離や充電インフラに関する購入者の不安は、未だに買い控えの理由になっている。

時間とともにこうした問題をテクノロジーが解決していくことであろう。電池の素材やその他の主要技術が改善されれば、最終的にEVの走行距離は延びることになろう。充電インフラが充実し、充電時間も短縮されれば、充電自体は現在のガソリンを満タンにするのと同じような感覚になるだろう。しかし、まだそこまでには至っていない。では、これは業界にとって何を意味するのだろうか。

競争激化で圧迫を受けるEVの利益性

一部の自動車メーカーにとって、EV業界の競争激化は利益の低下、場合によっては長期的な赤字にもつながりかねないだろう。株式投資家にとっては、EV市場シェアの拡大が利益成長の前提になっている自動車メーカーの場合、特に慎重な銘柄選定が必要となるとABではみている。

とは言え、このようなスピードダウンで、EV市場の長期的な可能性が損なわれるとはABでは考えていない。株式投資家にとって、EVの投資機会を捉える鍵は、EV業界におけるテクノロジーのイネーブラー(不可欠な材料、製品、サービスをリーダーへ供給する企業)であると考えている。

充電と走行距離:EVが普及する上で克服すべき障壁

充電インフラを考えてみよう。EVドライバーにとっては、充電スタンドの増設が必要であり、その機能が信頼できるものでなければいけない。電気機器メーカーのイートンは、米国での充電インフラ拡大に向けた設備供給業者として、重要な役割を果たすとABではみている。米国政府はインフレ削減法を通じてEV充電に対して多額の予算を割り当てており、業界のこの分野は今後数年間、制度的な支援をしっかり享受できるだろう。

走行距離への懸念はどうだろうか。解決策として考えられるのは、バッテリー素材、ハイブリッド、新技術、既存システムの改良などである。自動車部品メーカーのアプティブは、これらの品質改良面で多くの役割を担う重要なサプライヤーになるとABでは予想している。EVやハイブリッド車には、内燃エンジンを搭載した自動車よりも、アプティブのような企業が製造した部品が多く含まれている。一方、自動車システムのさらなるインテリジェンス化により、あらゆる種類の電子機器の需要が高まるはずだ。また、アンフェノールは、自動車をはじめ多くの産業用のセンサーやコネクターの製造メーカーだが、今後も需要の増加が見込まれる。

競争を需要不足と混同しないこと

EVの流れは、米国以外、特に中国において大きく変わりつつある。ブルームバーグNEFによると、2023年10-12月期の米国自動車販売に占めるEVの割合は8.1%だった。対照的に、ノルウェーではEV販売が全体の80%近くに達し、オランダでは35%、中国では24%、ドイツでは20%、英国では18%となっている。

これらの数字は、競争によって市場シェアが変化しても、消費者はEVを購入していることを物語っている。中国のBYDは事業報告の中で、同社が今や販売台数でテスラを抜いて世界最大のEVメーカーとなったと公表した。その他にも中国の小規模なEVメーカー数十社が市場シェアの拡大を目指してしのぎを削っている。現段階では、どのEV車メーカーがトップに躍り出るかを見極めるのは非常に難しいと思われる。とりわけ、どの新規参入メーカーが欧州、中南米、北米市場へうまく参入していくかは予測しづらいからである。

EVにはさまざまな価格帯や機能があるが、必要とされる電気部品の多くが共通点をもっている。その結果、グローバルな自動車メーカーよりも、イネーブラー型企業の方が、EVからの利益を得やすいとABではみている。

AIからEVまで、新たなテクノロジーへの熱狂は株式投資家に興奮をもたらす。しかし、進化する業界で株式の投資機会を捉えるには、長期的な利益を左右する業界のダイナミクスやビジネスのクオリティを見極めて厳選する力が必要であるとABでは考える。

1.S&Pグローバル自動車見通し、2024年3月

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