エネルギー価格の下落や金利上昇など、市場はさまざまな外部要因に左右されている。2023年1-3月期の決算発表では、こうした外部要因によって企業が直面する課題への対応が難しいものとなり、投資家にとって持続的な成長源を見つけ出すのが困難になっていることが示された。
投資家が期待していた、最近の決算発表を通じての経済や企業業績に関する不透明感の払拭は、まだ果たされていない。決算発表シーズンがほぼ終了した5月半ば時点で、世界の約4分の3の企業が予想を上回る業績を発表したが、多くの企業が景気後退を見込んですでに予想を引き下げていたため、あまり大きな意味を持たない。このため、先行きに対する懸念が広がる中、ほとんどの企業は通年の業績見通しを引き上げていない。
企業は相反するトレンドに直面
長く予想されていた景気後退にはまだ陥っていないが、マクロ経済環境では不透明感が漂っている。高インフレは予想以上に長く続いており、短期金利は引き続き上昇し、銀行業界の混乱が不安定な動きに拍車をかけている。しかし、エネルギー価格は下落し、サプライチェーンの混乱は和らぎ、中国では経済活動が再開されつつある。これらの強弱材料が互いにぶつかり合う中、投資家は複雑な環境を巧みに乗り切ることができる企業を探し出さなくてはならない。
利益の成長トレンドには、ぬかるみのような環境が反映されている。グローバル市場と米国市場のどちらも6つのセクターが利益拡大にプラスに寄与した一方、5つのセクターがマイナスに作用した結果、MSCIワールド指数の利益成長率は+0.3%、S&P 500指数は-0.2%と、全般的に横ばいとなった(図表)。米国では金利上昇や景気後退懸念を背景に個人消費への圧力が高まっているにもかかわらず、一般消費財セクターが利益成長に大きく貢献した。テクノロジー及びヘルスケアのセクターは、一部の分野が堅調に推移しているにもかかわらず、利益成長の重しとなった。また、最近の銀行破綻にもかかわらず、金融セクターは高金利がおおむね業績の追い風となることから、収益の伸びに最も大きく貢献した。
事業ダイナミクスもセクターや企業によって異なる。では、銘柄を選択する際に、こうした複雑な環境下で成長できる企業を見極めるにはどうすればいいのだろうか?
熱を帯びる米国の消費者
消費支出はその答えが難しいことを物語っている。米国では、小売り大手コストコが発表した2023年3月の売上高は前年同月比で1.1%減少した。UPSは米国の輸送量が減少していると発表した。VISAとマスターカードの取引データは、米国における消費支出の伸び率が1月の約12%から3月末にかけて7%に鈍化したことを示唆している。
一方、消費関連の巨大企業であるアマゾン・ドット・コムの業績は予想を上回った。生活必需品メーカーも総じて強い価格決定力を持っていることが示された。
米国の消費者は厳しい選択を迫られている。エネルギー価格の低下が多少の安心感をもたらしているものの、金利上昇で住宅ローンの返済コストが高まり、インフレで購買力が低下している。こうした環境下でも、消費者がコーヒーやコンタクトレンズといった必需品への支出を削減するとは考えにくい。しかし、必需品以外への支出は圧迫されている。投資家は、一定の市場シェアを持つ必要不可欠な製品を生産し、需要を確保できる消費財メーカーと、消費者の節約志向の影響を受けやすい必要性の低い製品を生産している企業を区別する必要がある。そのためには、製品、競争環境、価格決定力に関する厳密な分析が必要となる。
米国以外では、欧州の消費者も厳しい状況に直面している。しかし、中国では新型コロナウイルス流行に伴う長期にわたるロックダウンを終えて経済活動が再開される中、消費者は活発な買い物を繰り広げている。それは、LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンやロレアルといった高級ブランドをはじめとする一部のグローバルな消費者ブランドにとって追い風となっている。中国の消費者から大きな収益を得ているグローバル企業は、米国や欧州の消費低迷による影響を相殺することができる。
テクノロジー: 低調な支出 対 AIの加速
テクノロジー・セクターも強弱が入り混じっている。パソコンや通信サービスなどのテクノロジー支出は低調だった。中小企業向けにテクノロジーを再販している米国のCDWは、2023年初め時点の見通しに比べ、米国のテクノロジー支出が大幅に減少すると予想している。
クラウド向け支出は鈍化しているが、絶対ベースの伸び率は予想を上回っており、最大手の企業は着実に明るい業績を上げている。アマゾンのAWS(アマゾンウェブサービス)は2023年1-3月期に16%の成長を遂げた一方、マイクロソフトのクラウド事業であるアジュールは成長率が1-3期の31%から4-6月期は26%に鈍化すると予想している。それでも、それはまだ健全な数字だ。
一方、チャットGPTの急速な普及で推進される人工知能(AI)革命が、テクノロジー・セクターに対する期待を高めている。マイクロソフトの幹部は、AIのイノベーションは前例がないペースで進んでいると指摘している。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)の見方では、AIの導入が加速すれば、企業が効率化を高めようとする動きが一気に広がり、テクノロジー向け支出の新たな波が押し寄せるだろう。キャップジェミニ(ITサービス)、ASML(半導体)、ケイデンス・デザイン(ソフトウェア)など、テクノロジー・セクターにおけるさまざまな企業が、AIの幅広い導入を可能にするための重要な役割を果たす可能性がある。
ヘルスケア: 人々は再び医師の診察を受けに
ヘルスケア関連銘柄は、1-3月期のパフォーマンスは期待外れだった。しかし、コロナ禍後の需要回復を受け、ポジティブなトレンドが顕在化しつつある。人々は、定期検診のために病院を訪れ、急を要しない手術を受けるようになっている。米国のヘルスケア企業の決算によると、1-3月期には入院患者が3%(中央値)増加し、増加率は2022年10-12月期に比べて倍増した。また、それ以前の四半期には減少していたことを考慮すると回復をみせていることがわかる。こうした傾向は、アボット・ラボラトリーズ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、インテュイティブ・サージカルなどの決算にも反映されている。
たとえマクロ環境が厳しくなっても、人々はヘルスケア製品やサービスへの支出を続けると思われる。しかも、ヘルスケア企業は概して十分な資本を抱えている。その結果、一部のヘルスケア銘柄は、厳しい環境にも耐え得るディフェンシブな性格を備えているとABでは考えている。
確信を得るには
1-3月期の決算シーズンは、企業や投資家にとって環境がどれほど厳しいかを示すものとなった。ポートフォリオ・マネジャーは、現時点のセクターへの追い風のみを頼りに戦略を立てることはできない。しかし、他の企業よりも優位に立ち、群れから抜け出すことができる企業もある。
不透明なマクロ経済環境によって打撃を受ける可能性の低い、明確で安定した成長ドライバーを持つ企業を探さなくてはならない。インフレが高止まりする中、価格競争力は引き続き他社と差別化する重要な要因となる。インフレが和らぎ始めた場面では、価格競争力を持つ企業であっても、数量ベースで力強く成長しているかどうか確かめなくてはならない。また、厳しい経済環境においても、消費者にとって不可欠な製品を持っている企業は優位に立つことができる。最後に、コスト削減が可能で、負債が少なく健全なバランスシートを持つ企業は、不安定な市場環境をうまく乗り切ることができそうだ。
これらは、投資家が、逆境に直面しても着実な業績や投資リターンをもたらすことができる「ディフェンシブな」成長企業に対する確信を高める道しるべとなり得る。そうした企業を見つけ出すのは容易ではないが、真の成長企業を特定する「道しるべ」を有する投資家は、突風を乗り切ることができる強固なポートフォリオを自信を持って構築することができるだろう。
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