新型コロナウイルスの感染が拡大している時期にヘルスケア・セクターへの関心が高まったことから、ヘルスケア株は市場が不安定な中でも人気を集めている。しかし、このセクターの魅力を高めているのはパンデミックの影響だけでなく、2023年の不透明な市場環境においても、底堅いリターンの創出源となる可能性があるからだ。
2022年は株式投資家にとって厳しい1年となったが、ヘルスケア株は比較的安定したパフォーマンスを示した。世界のヘルスケア株(MSCIワールド・ヘルスケア指数)は米ドルベースで5.4%下落したが、18.1%下落したMSCIワールド指数をアウトパフォームした(図表1)。市場が回復に向かった10-12月期にはヘルスケア指数は13%以上上昇し、やはりMSCIワールド指数を上回るパフォーマンスを示した。
では、下げ相場でも上げ相場でもこうした堅調なパフォーマンスを示したヘルスケア銘柄とは、どんな特徴を有しているだろうか?また、そうした特徴は独立した単一セクター・ポートフォリオへの投資を正当化できるだろうか?
テーマが持つトレンドがマクロ経済の変動を
乗り越える
これらの疑問に答えるには、コロナ禍前からヘルスケア銘柄が魅力的だった理由について理解する必要がある。ヘルスケア関連銘柄は「永遠の目標」の恩恵を受けている。それは、人間からペットまでを対象とした治療薬、テクノロジー、サービスを通じて、「病気の影響を和らげるための挑戦」である。科学の進歩により、コストを削減しながら新たな治療法を開発する道が開かれる。また、ヘルスケア分野への需要は、景気変動の波を受けにくい傾向がある。
世界の経済成長が厳しい環境に直面する中、ヘルスケア関連ビジネスは依然として好調を維持することができる。なぜなら、ヘルスケア業界の成長をけん引しているのは「人」だからである。
世界の人口動態はさまざまな形でヘルスケア業界の成長を支えている。先進国では、人口の高齢化で、より多くの治療が必要となるだろう。新興国においては、社会が豊かになり、中間所得層の人々が増えるのに伴い、急速な人口の伸びがヘルスケア製品やサービスへの需要を押し上げている。このような人口動態のトレンドは、経済がどうなろうとも持続するだろう。
変化するニーズに応えるイノベーション
ヘルスケア企業が世界中で高まるニーズに応えるためには、常に技術革新(イノベーション)を続けなくてはならない。科学的なイノベーションは、何十年にもわたりヘルスケアの進歩を支えてきた。しかし、ヘルスケア分野でのイノベーションは多くの点で始まったばかりであり、それは医薬品分野以外にも広がっている。
ロボット工学はすでに外科手術を変えつつある。新たな診断法と生命科学技術は病気の早期発見に役立ちうる。アルツハイマー病や心血管障害の治療法は、人口動態の変化がもたらす物理的・経済的コストに対処するのに貢献するだろう。遠隔医療とデジタル化は、患者に優れた治療を提供できる可能性を飛躍的に高めている。
従来の医薬品開発手法も見直されつつある。ビッグデータにより、治験の有効性が高まる可能性がある。合成生物学は、創薬を含む製薬業界における産業規模が持つ意味合いを変えており、患者が少ない希少疾患であっても、利益を生む個別治療を提供することが可能になっている。
国民皆保険制度を取り入れている国でも深刻な問題となっている医療コストの上昇に、イノベーションは、世界中の医療制度が対処する上で役立っている。歴史的に見ると、イノベーションが価格下落につながるテクノロジー分野とは異なり、ヘルスケア分野のイノベーションは価格を押し上げる傾向がある。例えば、20年前のがん患者は化学療法を受ける費用が毎月200米ドル程度で済んだが、治療効果も限られていた。今では、一部の化学療法は少ない副作用でがんを治癒できることも多いが、その費用は10万米ドルかかる。
急速なイノベーションとコスト抑制の必要性のせめぎあいは引き続きヘルスケア業界に大きな影響を与え、投資家に投資機会をもたらすと思われる。例えば、米国では、最近成立したインフレ抑制法に基づき、製薬会社は一部薬価の抑制または引き下げを求められることになりそうだ。この法律は一部製品の価格を抑える可能性がある一方で、研究開発を推進する要因にもなると考えられる(以前の記事『製薬業界はイノベーションで薬価規制を克服へ ~ヘルスケア銘柄の投資分析~』ご参照)。コストを削減できる革新的な企業は、医療システム全体における自社製品の価値を示すことができれば、長期的に優れた業績を達成する上で最も有利な立場に立つことができそうだ。
こうした傾向はどれも、ヘルスケアに特化したポートフォリオへの投資を検討すべき重要な理由となる。しかも、ヘルスケア企業は、環境、社会、ガバナンス(ESG)に関する主な課題に取り組む手助けをしている。多くのヘルスケア企業は、国際連合の「持続可能な開発目標(SDGs)」第3条の「すべての人に健康と福祉を」を順守しており、疾病との闘いや医療保険の普及を目指したサブターゲットが設定されている。それに加え、ヘルスケア企業はカーボンフットプリントが低くなる傾向がある。
株式投資の「コア」資産としてのヘルスケア銘柄
アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)の見方では、ヘルスケア銘柄は株式投資のコア資産としての役割を果たすことができる。人口動態を追い風とする長期的な成長へのエクスポージャーにより、ヘルスケア企業は経済環境に左右されにくい。また、人の治療に用いる医薬品以外にも、ペット向け支出の拡大によってアニマルヘルス部門が急成長を遂げており、景気が減速してもその勢いは衰えそうにない。このセクターでは、不透明感に包まれた時期でも売上高の伸びは比較的安定しており、多くのヘルスケア企業が価格支配力を持っている。それは高インフレ局面において重要な特性となる。経済的に困難な時期にも、収益はおおむね堅調に推移している(図表2)。その結果、ヘルスケア企業の株価は他セクターの企業よりも変動しにくいケースが多い。そのため、戦略的に構築されたヘルスケア・ポートフォリオは、投資家にとって、攻めと守りの双方で活用することができる。つまり、上げ相場では着実に上昇する可能性がある一方で、下値リスクも低減されることになる。
もちろん、考慮すべきリスクもある。ヘルスケア企業の多くはグロース銘柄で、株価は金利上昇の影響を受けやすい。法改正や政策の変更は、ヘルスケア企業のビジネスモデルや業績見通しに影響を与える可能性がある。また、個々の企業の見通しは、研究開発や医薬品開発における科学的な成功や失敗に左右される可能性があり、それを予想するのは非常に難しい。
ヘルスケア分野の投資家は科学的研究の結果を予想しようとすべきでないとABが考えているのは、それが理由である。最善のアプローチは、企業の基本的なビジネスに焦点を当てることだ。世界最高の科学者ですら、薬品の試験結果を高い確度で予想することはできない。投資家ならなおさらだ。セクター全体の事業ファンダメンタルズと収益性の高い企業に明確に焦点を当てることで、多様なヘルスケア銘柄で構成するポートフォリオはマクロ経済環境が変化する時期にも高いリスク調整後リターンを提供し、市場のボラティリティに対する緩衝材としての役割を果たすことができるだろう。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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