米国のドナルド・トランプ大統領が打ち出した、約600億米ドルに上る中国からの輸入品に追加関税を課す計画は、株式市場を大きく揺さぶった。全面的な貿易戦争に発展した場合に備え、投資家はどの産業、国、企業が最大の被害を受け、あるいは漁夫の利を得るのか、検証し始める必要がある 。
トランプ大統領は2016年の選挙運動中から、米国の産業を守るために中国に対して厳しい措置を講じると有権者に約束してきた。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)はその政策に対して政治的立場を取ることはないが、株式投資家として、トランプ政権の政策の方向性を決定付け得る今回の動きがもたらす影響については冷静に分析しなくてはならない。
戦術的な駆け引きか、それとも戦争前夜か?
今後の成行きを正確に予測することは誰にもできない。発表された関税は中国から譲歩を引き出すことを狙った戦術的な行動かもしれない。一部の措置は、一時的なものにとどまる可能性もある。中国が圧力に屈し、米国の要求に対し予想以上に柔軟な姿勢を取ることも考えられる。
しかし、事態がコントロール不能になればどうなるのだろうか? 米国が強硬な措置を押し通し、中国が同じレベルの報復措置を講じた場合、その影響は大きく広がることになる。マクロ経済レベルでは、おそらく米中双方の景気減速を招くであろう。個別企業の業績や株価に関しては、その影響はもっと複雑で、はるかに予測困難だろう。
通商関係の変化
新たな貿易障壁はこれまでの通商関係に複雑な変化を引き起こす可能性がある。中国はアジア地域内を始めとする各国との取引関係を見直し、東南アジア、中南米、欧州連合(EU)との関係を強化するであろう。特に、これまで米国から大量に輸入してきた商品について新たな調達先を求めようとするだろう。例えば、航空機やその部品、豚肉、大豆などだ(図表1)。豚肉については、中南米やアジア諸国の一部が大きな代替供給源となり得る 。
米国もさまざまな商品を中国から輸入している(図表2)。中国との貿易関係が劇的に変化すれば、グローバルなテクノロジー産業を支える屋台骨であり、米国の製造業にとってもきわめて重要なサプライチェーンの大幅な組換えが生じる可能性がある。例えば、アップルのiPhoneが中国で生産されていることを思い出すべきだ。多くの部品は韓国企業や台湾企業が中国で生産しているが、それらの企業は生産拠点をアジア地域の別の場所に移す可能性がある。
投資家向けの3つのガイドライン
では、投資家は今何をすればいいのだろうか? 市場は不透明感に満ち溢れているが、貿易戦争のシナリオに備えるための、3つの重要なガイドラインを示してみたい。
1. 最も脆弱な商品、業界、企業を把握する
中国において大規模で複雑なサプライチェーンを構築している企業、特にエレクトロニクス業界や通信業界の企業は、予測できないような打撃を被る可能性がある。投資家は、どの企業が新たな現実にスムーズに適応でき、どの企業が深刻な混乱に見舞われる恐れがあるか、検討し始める必要がある。
米国に生産拠点がある製品と直接的な競争関係にある中国製品も打撃を受けやすい。これにはスポーツ用品や家具などが挙げられるが、特に家具は米ノースカロライナ州が重要な生産地として知られている。また、米国のアパレル企業は、生産拠点を中国からベトナムやインドネシアなどに移す動きを加速させる可能性がある。
米国企業の側を見渡してみると、政治的に重要性の高い米国製品が標的にされそうだ。EUはすでに、トランプ政権が欧州の鉄鋼に対する関税を引き上げた場合、リーバイズのジーンズやバーボンなど、米国を象徴する製品に追加関税を課すと警告している。
2. 貿易戦争で恩恵を受け得る企業を探し出す
航空機部品は米中間の貿易の中で大きな位置を占めている。中国がボーイングのボイコットを決めれば、エアバスにとっては追い風となる可能性がある。中国はイリノイ州やアイオワ州から大豆を買い付けることをやめれば、代わりにブラジルからの輸入を模索するかもしれない。さらに、米国企業から購入している様々な製造設備や精密機械を欧州企業から調達しようとするかもしれない。
中国はまた、米国企業に付与しているライセンスを取り消す可能性もある。そうなれば、幅広いセクターや業界において欧州企業やアジア企業にとっては競争環境が和らぎ、世界第2位の経済規模を持つ中国市場で優位に立つことができる。
3. どちらかの国が一方的に優位な分野に注目する
中国は、バッテリーや電子機器などさまざまな製品に用いられるレアアースやレアメタルの供給に関し世界最大の生産国となっている。ジスプロシウム、ネオジム、モリブデンといった素材だ。中国がレアアースやレアメタルの供給停止を決めれば、それらの価格は上昇し、そうした原材料に依存している企業は大きな打撃を受ける恐れがある。一方、それらの資源を生産している企業は恩恵を受けることになる。
イノベーションに関しては米国が中国をリードしている。トランプ大統領が先般中国と強い関係を持つブロードコムによるクアルコム買収を阻止したように、米国はすでに中国企業が米国のテクノロジー企業に出資するのを食い止めようとしている。
あらゆる可能性に備える
米国と中国が全面的な貿易戦争に突入した場合、その影響は計り知れないほど大きなものとなる。そうした環境で投資するには、長期にわたって広がるであろう複雑な影響に関し、徹底的なファンダメンタル分析が必要となる。
今伝えられているニュースがそうした結果につながるかどうかは決して定かではないが、リスクが高まっていることは間違いない。投資家は今すぐ、あらゆる可能性に備え始めなくてはならない。貿易環境の変化がもたらす可能性のある恩恵を直ちに見極めることは容易でないため、それをいち早く把握した投資家は大きなリターンを得られる可能性がある。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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