株式市場は過去9年にわたり力強く上昇してきた。市場全体が上昇する「ベータ」主導の相場が長く続いたことから、多くのアクティブ運用マネジャーがパフォーマンスに関して苦戦するとともに、多くの投資家が株式投資の一部あるいは全部をアクティブ戦略から引き揚げ、より手数料の低いパッシブ戦略やファクター戦略を選好するようになった。
ベータ相場がピークを打った兆しが現れている今、投資家は株式から少しでも多くのリターンを生み出す方法を探している。アクティブ運用はその選択肢のひとつで、実際市場環境は今後アクティブ運用にとって有利になるようにも見える。だが、あるアクティブ運用マネジャーは単にベータや運用スタイルの波に乗っているだけかもしれない。どのマネジャーが報酬を支払うに値する本物のスキルを持っているのだろうか? 投資家は今後、リターンに対して支払う報酬についてどのように考えればいいのだろうか?
こうした問いにどう答えるべきか、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では機関投資家と数多くの議論を重ね、マネジャーのパフォーマンスと手数料の問題に一段の透明性や明瞭さを導入する方法を探っている。実は、こうした議論を進める上で役立つさまざまな優れたツールがすでにある。ABでは過去1年余り、「プライム・アルファ」について機関投資家に説明してきた。
プライム・アルファとは何か
ABはファクター・エクスポージャーのシクリカルな影響を排除し、リターンから個別要因を分離することによってマネジャーのスキルを把握する、プライム・アルファを開発した。ABのリサーチによると、プライム・アルファは長期的な一貫性がより高い傾向がある。つまり、従来からのベンチマークに対する単純超過収益で高いパフォーマンスを上げたマネジャーが引き続き高い超過収益を上げ続ける確率と比べると、優れたプライム・アルファを創出したマネジャーはより持続的に高いプライム・アルファを創出し続ける傾向があるのだ。
ABでは、プライム・アルファを設計するため、米国大型株式運用ユニバースで1990年から2014年までのリターンが上位25%に入ったアクティブ運用マネジャーを調査した。それらのマネジャーを伝統的な超過収益指標に基づいてみた場合、3年後もユニバースの上位25%に残ったマネジャーは4分の1(24%)に過ぎず、パフォーマンスがユニバースの中間値を上回ったマネジャーも半分以下(43%)にとどまった。これに対し、プライム・アルファで同じ分析を行うと、3年後も上位25%に残ったマネジャーは32%となり、パフォーマンスが中間値を上回ったマネジャーも半分以上(52%)に達した。こうしたプライム・アルファの一貫性は、他の投資分野でも見られた。
プライム・アルファは、機関投資家が株式運用の委託先、ないし委託先候補のアクティブ運用マネジャーを評価する上で、スキルをより明確に理解する一助となる。
表面に見えない要因を分析するためのツール
例えば、機関投資家がグローバル・バリュー株式の運用委託先を選考するといった場合、他のマネジャーと比べ群を抜いて高いパフォーマンスを上げてきたマネジャーに注目するというのは、よくある光景だろう。だが、そのパフォーマンスはマネジャーのスキルよりも、単にバリュー・ファクターへのエクスポージャーの多寡が原因となっているかもしれない。ファクター・エクスポージャーはかなり循環的なものであることも多いため、単純な超過収益への寄与度は時間が経てば急激に変化する。これに対し、プライム・アルファはマネジャーの真のスキルを分離して評価するのに役立ち、投資家にとって投資の成功につながる可能性を高めるとABでは考えている。
プライム・アルファは、マネジャーのパフォーマンスを左右する要因をより正確に理解し、機関投資家が適切な運用委託先のミックスを構築する上で一助となり得る。
例えば、新興国株式運用のリターン源泉を分離してみると、ベータやファクター・エクスポージャー、プライム・アルファなどに関し、マネジャーごとにかなり異なる構成となっているであろう。あるマネジャーが小型株への戦略的エクスポージャーによる影響を強く受ける一方で、別のマネジャーは巧みにタイミングを計った中型株へのエクスポージャーが大きなリターン要因となっているかもしれない。
また、あるマネジャーは伝統的なフレームワークの下では超過収益がマイナスとなるかもしれないが、ファクターの寄与度を調整したプライム・アルファではプラスとなる可能性がある。この場合、このマネジャーは循環的な逆風に直面する中においても投資哲学を堅持していた可能性が高く、長期的に見れば期待に沿った超過収益を創出するかもしれない。
同様に、プライム・アルファは投資家のポートフォリオ全体のファクター・エクスポージャーを浮き彫りにする効果もある。例えば、ポートフォリオの中の小型株へのアロケーションに関し、プラン・スポンサーが望むよりも低ボラティリティ・ファクターへのエクスポージャーが高くなっているとしよう。その場合、そうしたエクスポージャーを削減するため、マネジャーの入替えを検討することが理にかなっているかもしれない。プライム・アルファは、再び同様な低ボラティリティ・ファクターへのエクスポージャーを過度に組み入れることを避けるため、運用委託先候補を評価する上で役立つ可能性がある。
手数料の評価に明確性
資産運用業界でより高い期待リターンを求める圧力が高まっている理由のひとつは、機関投資家が手数料について厳しい視線を向けていることだ。彼らはまた、具体的に何に対して手数料を支払っているのかについて、より明確さを求めている。大手コンサルティング会社が機関投資家を対象に実施した最近の調査によると、投資家の懸念事項の上位2つは、アクティブ運用マネジャーが手数料を正当化できるだけの付加価値を創出しているのかどうか(49%)と、マネジャーの手数料に競争力があるのかどうか(36%)という点だった。
こうしたポイントに関し評価を行うには、アクティブ運用マネジャーのそれぞれのリターン源泉を明確に区別することが必要になる。リターンのうちどの程度がベータから創出され、どの程度が戦略的ファクター・エクスポージャーから創出され、どの程度がマネジャーのスキル、あるいはプライム・アルファから創出されるのかを把握しなくてはならない。もちろん、スキルには多くの形がある。ベータやファクターを効果的に設計・管理するスキルもあれば、個別銘柄を選択するスキルもある。しかし、それぞれの要素の価値を評価し、それらにどの程度の報酬を支払うべきであるか判断するためには、リターン源泉の構成を理解することが役に立つ。
リターンをそうした要素に分解すれば、機関投資家にとっては、マネジャーに支払っている手数料が適切であるのか、収益源泉に照らして妥当な水準であるかどうかを判断する参考となり得る。なお、こうした評価にあたっては、それぞれのマネジャーが提供する他の価値についても考慮する必要がある。例えば、市場下落局面において資産価値を守る能力などだ。
もちろん、投資家はベンチマーク並みのリターンにアクティブ運用の手数料を払いたくはないと考えている。それはミューチュアル・ファンドの資金フローに最も顕著に現れており、過去数年の純流出入額を見ると新たな資金の大半がパッシブ戦略に流入している。同様な傾向は機関投資家の間でも見られる。現在、アクティブ運用の世界では、パフォーマンスに連動する手数料というアイデアがかつてないほど議論されている。パッシブ運用並みの基本手数料に、超過リターンに応じた報酬が上乗せされるという、イノベーティブな手数料体系などが検討されている。これは、ABが強く支持してきた方向性だ。
これらの議論で考慮すべき重要な問題は、さまざまなパフォーマンス連動型手数料に対する投資家の納得感で、実はこれが過去におけるパフォーマンス連動型手数料に関する議論を停滞させてきた原因だった。ABは、パフォーマンス連動型手数料が資産運用会社と機関投資家の利害を調整する上で優れた役割を果たすと考えている。少なくとも、それは健全な議論を生み出し、強力なパートナーシップの構築につながり得ると見ている。
しかし、もっと幅広い視点に立ち戻って見ると、プライム・アルファの有用性は、投資家の株式ポートフォリオ全体の効果的な管理を支援することができる点にある。ポートフォリオ・レベルでの累積的なエクスポージャーや、ポートフォリオにおいて個々のマネジャーが果たしている役割、そして投資家が期待する価値をマネジャーが創出しているかどうかについて、新たな視点をもたらしてくれるのだ。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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