ここ数年、米国企業の多くは高付加価値商品へのシフトによって収益を拡大している。しかし、景気拡大サイクルが終盤にさしかかり消費が鈍化すれば、そうした売上ミックスに依拠した収益力はもろさを見せる恐れがある。
旺盛な消費需要は、過去10年間にわたり米国経済を押し上げてきた。景気が好調な場面では、消費者には高級商品を購入する余裕が生まれ、「良い商品」から「もっと良い商品」や「最高の商品」へのアップグレードが増える傾向がある。こうしたプロセスはさほど投資家の目に止まらないことが多いが、企業の売上ミックスや利益率、そして業績に大きな変化をもたらす可能性がある。
ハイエンド商品や高額商品の売上比率が高い状態は、企業にとって気分の良いものだ。それは通常、投資をあまり追加せずに売上高や利益を押し上げる要因となる。そのため、売上ミックスが良好であれば、収益性を測る主要指標である売上高利益率や投下資本利益率(ROIC)は高水準になる傾向がある。
Lサイズのコーヒーは収益性を高める
コーヒーはプレミアム化が企業の利益に大きな影響を与えうることを示す好例である。チェーン化されたコーヒー・ショップに行ってみれば、どの店でもMサイズのコーヒーがSサイズよりも少し値段が高いことに気づくだろう。しかし、企業にとってはMサイズのコーヒーを提供するための追加的コストはほとんどかからない。設備投資に関しては、追加コストはおそらくゼロである。Mサイズのコーヒーの売上を増やすことは、成功につながる戦略と言える。
Lサイズのコーヒーが売れればもっと良い。図表1で示した分析で分かるように、LサイズのコーヒーはSサイズに比べ利益が倍以上になる。売上のわずか15%がMサイズ、10%がLサイズになっただけで、ROICが18.2%に押し上げられる。これは、Sサイズのコーヒーだけを販売していた場合に比べ、20%の改善にあたる。そのため、コーヒーの消費者が日常的にLサイズを購入するようになれば、コーヒー・チェーンの売上ミックスが変化するのだが、このことは企業業績にとっては価格そのものを引き上げるのと同等の大きな影響がある。そして、こうしたことは様々な業界で起きている。
通常、売上ミックスは投資家の目には見えない。それを判断できるほど詳細な情報を開示している企業はほとんどないからだ。例えば、アップルがスマートフォンの販売台数を公表する際も、製品モデル別の内訳については明らかにしていない。また、好ましい(あるいは好ましくない)売上ミックスのトレンドは何年も続くことがあるため、投資家も企業も、そもそもどのような売上ミックスが定常的な状態であるのか分からなくなることもある。さらに分析を困難にしているのは、より構造的な改善とみなし得る生産性の伸びと、より短期的に変動し得る売上ミックスの改善を切り分けることの難しさである。
リーマンショック以降、金融緩和政策が多くの企業にとって売上ミックス改善の追い風となってきた。低金利は消費者の借入ブームを招き、消費者は何らかの資金調達なくしては購入できないモノやサービスをも購入できるようになった。そしてその結果、多くの業界で過度の流動性によって需要が押し上げられたと見られる。そうであれば、いったん状況が正常に戻れば、多くの企業が直面し得るリスクは一般に想定されているよりも大きいかもしれない。
自動車のユーザーはCUVからシフトダウンするか?
自動車セクターについて考えてみよう。自動車ローンの低金利が追い風となり、米国の自動車メーカーでは、販売台数に占めるピックアップ・トラック、クロスオーバー多目的車(CUV)、スポーツ用多目的車(SUV)といったセグメントの比率が着実に上昇してきた(図表2の右図)。CUVの需要が急増するのに伴い、セダンなどの乗用車の比率は過去最低水準に低下している。
自動車メーカーが大型車を売りたい理由を理解するのは簡単である。米国の消費者は2018年に、車1台当たり平均3万2千米ドル強を支払った(図表2の左図)。大型ピックアップ・トラックの価格は平均4万4千米ドルで、年間家計所得中央値の約75%に相当する額だ。中型SUVの価格も平均3万5千米ドル前後である。これに対し、中型乗用車とコンパクトカーの価格は、それぞれ2万3千米ドル、1万9千米ドルにとどまる。その結果、一部の自動車メーカーは、利益率の低いセダンやコンパクトカーへのエクスポージャーを著しく引き下げている。こうした動きは、大型車の方が利益率が高いことに加え、自動車メーカーが現在の生産構成を維持できると考えていることを物語っている。それが維持できなければ、メーカーは利益率の低い車種の生産を増やすために生産車種の比率や生産体制の調整を急がなくてはならなくなる。
売上ミックスは企業利益や株式リターンに大きな影響
利益率や資本リターンの高い企業は、他の条件がすべて同じだとすれば、株価純資産倍率が高くなる傾向がある。そして、売上ミックスは明らかにリターンに大きな影響を与えるし、逆にリターンの水準は売上ミックスを反映する指標になる。好況期が持続することを前提とした水準まで株価が上昇している場合、投資対象企業やその業界が異例なほどに良好な売上ミックスによる恩恵を受けていることを見過ごしてしまうと、想定外の大きなリスクにさらされかねない。ビジネスのトレンドが通常の需要水準、あるいはそれ以下に逆戻りすれば、投資リターンは期待を裏切る水準に落ち込む可能性がある。ハイエンド製品に傾斜し過ぎている企業は、特にリスクが大きいかもしれない。なぜなら、そうした企業は消費者の嗜好が変化した場合に適応できるような中・低価格帯の商品を揃えていない可能性があるからだ。また、高級品の人気が持続している分野は、新規参入を狙う企業にとって大きな魅力があるため、競争の激化にさらされやすい。
マクロ経済や企業収益の成長が鈍化している今日の市場環境において、投資家は企業の売上ミックスに注目すべきである。売上ミックスにさほど影響を受けない企業(大きな製品サイクルの初期段階にある企業など)や、製品ミックスが通常レベルを下回っているが高い確度で改善の余地がある企業を探し出すべきである。それは容易なことではないが、売上ミックスに注目すれば、困難な事業環境に直面した場合でもそれに耐え得る企業を発掘する一助となる。それは、個別銘柄リスクの低減や投資リターンの改善につながる可能性がある。
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