新興国株式は2019年に入り回復基調となっている。MSCI エマージング・マーケット指数は、2018年に14%以上下落したが、2019年は5月に一時大幅調整したものの、6月24日現在で年初来10.2%上昇している。多くの投資家は、今後も上昇トレンドが持続するかどうかを見極めようとしている。しかし、市場が上がるのか下がるのかを正確に予測することは難しい。投資家はMSCI エマージング・マーケット指数が次にどちらに動くかを予測することよりも、同指数の過去20年間の平均リターンである8.4%を上回るパフォーマンスを生み出せる可能性が高い企業を探すべきではないだろうか。
市場のタイミングの呪縛から解放されるために
2019年の新興国株式は好調ではあるが、依然として慎重な姿勢を要する理由は数多くある。
新興国株式は、足元では2つの予測不可能な要因に振り回されて上昇したり反落している。1つ目の要因は米国と中国の貿易戦争の見通しで、これは多くの地政学的リスクと同様、本質的に予測が困難である。
2つ目は、世界の金利に影響を与える中央銀行の金融政策で、これも予測不可能な要因だ。新興国株式は、新興国の金利が先進国金利と比べて上昇しているときに良好なパフォーマンスを示す傾向がある。しかし、相対金利の推移と株式市場のパフォーマンスとの間に因果関係はなく、単に両者の相関度が高いだけである。
また、新興国(及び多くの先進国)の成長が鈍化していることもあり、業績の下方修正が進む可能性が高いことも市場の懸念を呼んでいる。新興国株式の株価収益率は、過去2年間の平均の14.9倍に比べるとやや割安であるが、そうしたバリュエーションは、単体ではその後1年間といった期間の株価のパフォーマンスを予測する上で信頼できる指標ではない。
期待リターンを犠牲にすることなく防御策を取る
ABのリサーチによれば、先進国市場であっても新興国市場であっても、トータル・リターンは、市場における日々のノイズの影響を取り除くと、企業収益と配当にけん引される傾向がある。そして、収益と配当の水準が健全な企業は、強靭なビジネスモデルと株主重視の経営判断に支えられた、潤沢で安定的なキャッシュフローを生成していることが多い。
新興国市場でこういった企業を見つけるにはどうすればいいか? まずは、公益事業、インフラ、生活必需品など、伝統的にディフェンシブだとみなされているセクターを見てみよう。MSCI エマージング・マーケット指数の過去10年間の平均年率リターン8.9%を容易に上回った企業が数多くある。
公益事業やインフラ関連の企業は低リスク・低リターンの投資対象だと考えている人は驚くかもしれない。しかし、新興国市場では、空港、ガス・パイプライン、電力、水道といった重要なインフラは需要が旺盛で、拡充のニーズも強い。また、公益事業やインフラ関連事業の生み出す収入は景気変動の影響を受けにくく、景気後退局面では明らかに優位性を持つ。
そうした企業の中から、長期にわたって平均以上の投資リターンを生み出す銘柄を見つけ出すカギは、株主のための価値創造を重視している企業を探すことである。そうした企業は、株主の利益をあまり考慮せずに単に国家制度としてサービスを提供する公共企業とは対照的だ。公共企業は、少なくとも部分的には国有企業であることが多いが、その企業が効率的に資本を活用しているかどうかは、国有であるということからではわからない。投資家は、経営戦略や規制環境、政府を始めとする利害関係者の影響などを慎重に分析しなければならない。
生活必需品セクターもディフェンシブながら高パフォーマンスの可能性
生活必需品セクターの企業も一般に安全性や安定性が高いが、さらにそうした特性を持ちつつ高水準の配当と利益成長を実現している企業もある。それは、例えば参入障壁が高いことなどが理由となっている。CPオールは、タイ国内でセブン-イレブンのコンビニエンスストア・チェーンを運営する独占的なライセンスを持つ企業だが、これは競合になり得る企業を寄せ付けない高い参入障壁に守られた高クオリティ企業の一例である。
強力なブランドと熱心な支持層を創り上げた企業も、同様の優位性を持っている。中国の蒸留酒パイチュウ(白酒)の中で最大の人気ブランドである貴州茅台酒は時価総額が1,490億米ドルに上り、これはマクドナルドを上回り、イギリスの石油大手BPとほぼ同等の規模である。これもまた、高い参入障壁に守られた例である。
国内企業だけが圧倒的なブランド力を持っているわけではない。ネスレやユニリーバのようなグローバル企業は、新興国市場のニーズをうまく捉えるブランドを創るために長年投資してきた。例えば、ネスレではコーヒー製品のネスカフェ、マギーの即席麺や調味料など、ユニリーバのインド子会社であるヒンドゥスタン・ユニリーバでは石鹸のダヴ、ヘアケア製品のサンシルク、クリーニング製品のジフなどだ。
セクターに囚われてはいけない
安全性や安定性が高いのにリターンも高い企業がすべて、生活必需品、インフラ、公益事業といったディフェンシブなセクターに属するわけではない。さまざまなセクターの企業が戦略を効果的に実行することによって、高い収益成長と増配を達成してきた。例えば、タタ・コンサルタンシー・サービシズは、インドが豊富に輩出する優秀で比較的低コストのITエンジニアを活用することで、伝統的なIT分野で業績を伸ばすだけでなく、顧客企業がクラウドコンピューティング、オートメーション、データ分析といった新しいデジタル技術の世界に適応できるよう支援している。
安定した企業というのは、成長著しい中国のインターネット大手が持つ魅力や、自動車、不動産、コモディティ関連などの景気敏感型ビジネスがもたらし得る高成長の機会は提供できないかもしれない。しかし、安定したビジネスを基盤とする企業は、長期的には市場を上回るリターンをもたらし得る。ボラティリティが伴う市場では、それはもっと重要視されるべきである。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
オリジナルの英語版はこちら
本文中の見解はリサーチ、投資助言、売買推奨ではなく、必ずしもアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)ポートフォリオ運用チームの見解とは限りません。本文中で言及した資産クラスに関する過去の実績や分析は将来の成果等を示唆・保証するものではありません。
当資料は、2019年5月14日現在の情報を基にアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーが作成したものをアライアンス・バーンスタイン株式会社が翻訳した資料であり、いかなる場合も当資料に記載されている情報は、投資助言としてみなされません。当資料は信用できると判断した情報をもとに作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。また当資料の記載内容、データ等は作成時点のものであり、今後予告なしに変更することがあります。当資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、当該指数等の開発元または公表元に帰属します。当資料中の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。アライアンス・バーンスタインおよびABはアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーとその傘下の関連会社を含みます。アライアンス・バーンスタイン株式会社は、ABの日本拠点です。
当資料についてのご意見、コメント、お問い合せ等はjpmarcom@alliancebernstein.comまでお寄せください。
「株式」カテゴリーの最新記事
株式市場の見通し:ボラティリティが高まるにつれ、反射的な衝動に抵抗する
市場環境は急速に変化している。しかし、株式ポートフォリオや資産配分を反射的に変更すると、逆効果になりかねない。 米国経済…
「株式」カテゴリーでよく読まれている記事
アライアンス・バーンスタインの運用サービス
アライアンス・バーンスタイン株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第303号
https://www.alliancebernstein.co.jp/
- 加入協会
-
一般社団法人投資信託協会
一般社団法人日本投資顧問業協会
日本証券業協会
一般社団法人第二種金融商品取引業協会
当資料についての重要情報
当資料は、投資判断のご参考となる情報提供を目的としており勧誘を目的としたものではありません。特定の投資信託の取得をご希望の場合には、販売会社において投資信託説明書(交付目論見書)をお渡ししますので、必ず詳細をご確認のうえ、投資に関する最終決定はご自身で判断なさるようお願いします。以下の内容は、投資信託をお申込みされる際に、投資家の皆様に、ご確認いただきたい事項としてお知らせするものです。
投資信託のリスクについて
アライアンス・バーンスタイン株式会社の設定・運用する投資信託は、株式・債券等の値動きのある金融商品等に投資します(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)ので、基準価額は変動し、投資元本を割り込むことがあります。したがって、元金が保証されているものではありません。投資信託の運用による損益は、全て投資者の皆様に帰属します。投資信託は預貯金と異なります。リスクの要因については、各投資信託が投資する金融商品等により異なりますので、お申込みにあたっては、各投資信託の投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等をご覧ください。
お客様にご負担いただく費用
投資信託のご購入時や運用期間中には以下の費用がかかります
- 申込時に直接ご負担いただく費用…申込手数料 上限3.3%(税抜3.0%)です。
- 換金時に直接ご負担いただく費用…信託財産留保金 上限0.5%です。
- 保有期間に間接的にご負担いただく費用…信託報酬 上限2.068%(税抜1.880%)です。
その他費用:上記以外に保有期間に応じてご負担いただく費用があります。投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等でご確認ください。
上記に記載しているリスクや費用項目につきましては、一般的な投資信託を想定しております。費用の料率につきましては、アライアンス・バーンスタイン株式会社が運用する全ての投資信託のうち、徴収するそれぞれの費用における最高の料率を記載しております。
ご注意
アライアンス・バーンスタイン株式会社の運用戦略や商品は、値動きのある金融商品等を投資対象として運用を行いますので、運用ポートフォリオの運用実績は、組入れられた金融商品等の値動きの変化による影響を受けます。また、金融商品取引業者等と取引を行うため、その業務または財産の状況の変化による影響も受けます。デリバティブ取引を行う場合は、これらの影響により保証金を超過する損失が発生する可能性があります。資産の価値の減少を含むリスクはお客様に帰属します。したがって、元金および利回りのいずれも保証されているものではありません。運用戦略や商品によって投資対象資産の種類や投資制限、取引市場、投資対象国等が異なることから、リスクの内容や性質が異なります。また、ご投資に伴う運用報酬や保有期間中に間接的にご負担いただく費用、その他費用等及びその合計額も異なりますので、その金額をあらかじめ表示することができません。上記の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。