中国では世界の他の多くの国よりも新型コロナウイルス感染が収束に向かっており、正常化が急速に進んでいる。中国の経験を分析することは、同国が世界の経済活動に大きな影響力を持っているからだけではなく、他の国々が経済活動の再開を図る中で大いに参考になり得ることから重要な意味を持つとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では考える。
中国の2020年1-3月期の国内総生産(GDP)は、新型コロナウイルス対応で都市封鎖を行ったことで、6.8%縮小した。これは1992年以来、初めての景気後退となる。しかし足元では、新型コロナウイルスの最初の症例が確認されてから6カ月も経たないうちに、同国は従来の経済活動を取り戻しつつある。ビジネスが再開し、学校のチャイムが鳴り、建設作業員は地面を掘り起こしている。
これらは全て、中国政府がパンデミックの間に経済再開を徐々に可能にすべく講じた管理の功績と言えよう。
中国の新型コロナウイルス感染拡大防止策
ABは、中国政府の次の5つの対策があったからこそ、感染拡大を急速に抑えることができたと考えている。
+ 危機が始まって以来、マスクの着用を義務化。ビジネス再開の必須条件
+ 第二波のリスクを軽減するために入国者を厳しく制限。外国人ビザ保有者は入国禁止、海外渡航後は14日間の検疫が義務付けられている
+ 西洋医学と漢方薬を併用し、治癒率の向上を目指す
+ 効率的な感染経路の追跡・特定。WeChat Pay(ウィーチャットペイ)やAlipay(アリペイ)などの決済システムやモバイル機器の位置情報を利用
+ 色分けされた健康QRコードの採用。赤色は感染者で渡航禁止、黄色は感染者との接触履歴を示す。また、緑色は国内旅行を自由に行えることを示す
いくつかの措置は、プライバシーの侵害など議論を呼ぶものもあり、他国では採用されないものもあるだろうが、これらにより中国は、感染拡大の抑制と経済の回復をよりうまく管理できている。
中国の経済再開の進捗
回復は、多くの人が予想していたよりも早く進んでいる。
例えば、中国教育部によると、5月11日時点で1億800万人の生徒(主に中等学校)が学校に戻っていた。これは全国の学生数の39%に相当する。一部の主要大学はしばらく休校が続くと思われるが、5月末までに中国の学生の60%近くが学校に戻ると予想している。
消費も全体的に急速に拡大しており、現時点で2019年の70%の水準にまで戻している。ホテルの稼働率でさえ、2019年の50%の水準に戻っている。
実際、一部のセクターは、3桁台の回復を見せているほど速いペースで持ち直している。例えば、大型トラックの販売は4月に前年同月比43%増となり、前月比では4月は3月比50%増、3月は2月比190%増となった。建設活動状況を表す指標であるショベルカーの売上げは、4月に前年同月比60%増となった。これは、インフラ関連や建設業の好調な回復を反映している。
また、2018年半ばから減少傾向にあった自動車販売も4月には増加した。売上高増加の一因として、パンデミック時に公共交通機関を避けるようになった消費者の行動の変化が挙げられる。
北京、上海、広州、深センなどの大都市が属するティア1都市では、通常であれば自動車のナンバープレートの取得は抽選によって制限されているが、中国政府は最近、職場復帰に伴う需要に応えてこれらの規則を緩和した。2月には閑散としていた大都市では、朝のラッシュアワーがすでに始まっている。北京や深センでは、、職場に向かう人々の移動再開に伴い、午前7時前に大渋滞が発生している。
医療用品に対する外需、予備的在庫、補充注文により、中国の4月の輸出は前年同月比3.5%の大幅増となった。これは3月の輸出-6.6%から大きく改善したが、3月のデータも市場の予想を上回る底堅さを示していた。
中国の輸出先の内訳を見ると、他国も突然の経済閉鎖に奮闘している様子が見て取れる(図表)。
もちろん、全てのデータが通常の水準に戻っているわけではない。好調な輸出とは対照的に、中国の4月の輸入は前年同月比-14.2%(3月は-0.9%)と予想を大幅に下回り、内需の低迷を反映した結果となった。ただし、原油の輸入が小幅に減少した一方で、4月には製造業の回復に伴い、鉄鉱石と銅の輸入はともに20%以上の増加となった。
米中貿易戦争のリスク再燃
中国はさまざまなことを管理できるが、その範囲はあまりにも広いため、ルールで規制する方法には限界がある。1つには、新型コロナウイルスの発生源を巡る政治家の発言が過熱する中、米中貿易戦争が再発する可能性が高まっていることが挙げられる。
交渉担当者は第1段階の貿易協定の実施に向けて「望ましい条件を整える」ことを約束したが、米国のトランプ大統領は足元で、中国がコミットメントを履行しない限り、協定を破棄すると発言した。しかし、パンデミックで世界の貨物輸送が混乱しているため、コミットメントの達成は不可能だ。
特に経済が危機的な状況にあり、米国の大統領選挙が間近に迫っている今、交渉が決裂し、両国が関税を引き上げれば、米国と中国はどちらも失うものが大きい。最終的には、世界の経済及び市場の回復のためには、両国の協力が必要である。
したがって、トランプ大統領が第1段階の合意から手を引くことはないとABでは考える。ただし、第1段階の合意から第2段階へ向かう道のりは平坦ではなく、より厳しい協議が予想される。このような状況では、両国間の為替レートは1米ドル当たり7.0-7.1人民元の間で変動する可能性が高い。関税が上昇すれば、7.2さらには7.5人民元まで下落することもあり得る 。
中国が直面するさらなる未知の問題
新型コロナウイルス自体にも未解明の点があり、ウイルスがどのように広がっていくのか、どのように作用するのか、どのようにして治療するのか、どのようにして身を守るのか、世界中の研究者が答えを出そうと賢明に努力している。ウイルスと病気についての解明が進めば、中国のソーシャル・ディスタンス措置や外国人ビザ保有者に対する渡航禁止令が解除される方向に向かうだろう。
同様に、世界のGDP成長率は、中国がどの程度の財政刺激策をどのくらいの期間行うかを左右するだろう。世界的な生産活動とサプライチェーンの混乱で、中国には柔軟な対応が求められており、どのように産業を支援するかが問われている。また、中国がウイルスの発生源として非難を浴び、反中感情の高まりに対応し、世界保健機関(WHO)と協力し、国際社会がパンデミックに向けた新たな秩序を作る後押しをする中、グローバル・ガバナンスが中国の言行に影響を及ぼす。
これらの未知の問題がどのように展開していくのか、私たちにはまだ分からない。しかし、世界全体でコロナ危機脱却に取り組む上で、各国はお互いに観察し、学びあうことができる。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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