需要の伸びは鈍化しているが、全体的なファンダメンタルズは依然として健全だ。

米国の景気サイクルが成熟期に入るなか、投資家の間では消費者が苦境に陥り始めている可能性への懸念が広がっている。消費は米国経済の約2/3を占めることから、その低迷は景気悪化や景気後退の始まりを示唆するものかもしれないからだ。

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消費パターンに変化の兆し

消費者が過去数年と比べて経済的に厳しい状況に直面している兆候は見られる。家計はコロナ禍の最中に増えた貯蓄をほとんど使い果たしてしまい、警戒感が広がっている。2024年1-3月期には企業もその影響を感じ始め、4-6月期も影響を受けたと見られる。実質個人消費は、2023年は平均2.75%成長したが、2024年に入り1.9%増へと減速している。

中身についても、消費者の購買行動には変化が見られる。パンデミック期には買い替えサイクルの長い耐久消費財への支出が伸びたが、足元ではサービスや生活必需品に重心が移っている。個人消費支出の統計データによると、サービス支出は財支出を上回るペースで伸びており、消費全体に占める割合はほぼパンデミック前の水準に戻っている。

お買い得品指向へシフト

消費者はまた、お買い得感を重視するようになり、多くの企業が価格の割引を拡大せざるを得なくなっている。

ファストフードは、こうしたトレンドの最前線にいる。マクドナルドは最近、既存店売上が低下しており、顧客来店を促進するために値引き戦略に頼っている。人件費増加を受けて値上げをしたチポトレは、業績悪化の要因としてカリフォルニア州における価格感応度の高さを挙げている。フライドポテト製造で米国最大手の一角を占めるラム・ウェストンも同様に、飲食店の来店客数減少による経営環境の変化を指摘している。

このように、消費者が支出にブレーキをかけ、価格に対してより慎重になっていることは明らかだ。しかし、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では、足元の消費動向に関しては需要が崩壊しているというよりも、消費者が保守的になっているという見方をしている。

ファンダメンタルズを検証:所得と支出

全体として、消費者のファンダメンタルズは依然として強い。これを測るひとつの方法は、家計所得を見ることである。就業者数と週平均労働時間、平均賃金率の3つのデータを掛け合わせて得られる所得推計値(図表1)は健全な成長を続けており、インフレ率を上回っている。

消費者の価格感応度が高まっていることは、良いニュースかもしれない。インフレ率が低下し続け、米連邦準備制度理事会(FRB)が近く金利引き下げに踏み切る可能性を示唆するからだ。利下げは経済にとって重要な安定化要因であり、債務コストの低下に役立つ。消費全体はまだ堅調でも、低所得層の消費者にとってはより厳しい環境になりつつあることも考慮すると、これは重要だ。

借入が伸び続ける一方、延滞も増加

それを示す兆候のひとつが、クレジットカード債務の増加などを背景とする家計貯蓄率の低下である。

FRBの政策金利が高止まりし、クレジットカード金利も上昇しているため、借金はより割高になっている。低所得者ほどクレジットカード債務の残高が多いため、金融引き締めの負担が重くのしかかる。クレジットカード決済会社大手のVisaは最新の決算説明会で、高所得者層の消費は安定している一方、低所得者層のカード利用は鈍化していると述べた。すべての所得層で安定していると説明していた前四半期からは下方修正となる。

この観察に基づけば、クレジットカードの延滞率が上昇したのも当然である(図表2)。しかし、より広い視野で見れば、延滞率は依然として過去の通常の範囲内にある。実際、ここ数カ月の延滞率の上昇は、過去最低の水準からより平均的な水準に回帰したに過ぎない。FRBが今後数四半期にわたって政策金利を引き下げる可能性が高いため、消費者の債務コストも低下すると思われる。

金利上昇でも債務負担は低水準を維持

心強いことに、金利がまだ低下していないにもかかわらず、米国消費者の債務返済比率は低水準を維持している。この指標は、可処分所得に対する債務返済コストを数値化したものだが、所得が堅調であること、国内総生産(GDP)に占める消費者信用残高の割合がパンデミック以降低下傾向にあることの2つの理由から、比較的低水準に留まっている。現在の消費者債務はGDPの約18%で、長期平均を下回っている。

大局的に見れば、多くの市場関係者が米国の消費動向の変調を心配することは理解できる。しかし、ABでは、この経済の重要な大黒柱が崩壊するとは考えていない。需要の鈍化と物価感応度の高まりは、今後のインフレ率の低下を示唆し、金利低下につながる。このことが景気減速を緩やかなものにとどめ、景気拡大局面が持続する「ソフトランディング」シナリオを下支えすると見ている。

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