BRICSが新たに6カ国をグループに呼び入れたことは、主要新興国にとって、世界における影響力を拡大するための重要な取り組みとなる。
中国の賢人である老子は、「千里の道も一歩から」と説いた。アルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)がBRICSの正式メンバーとなったからといって新興国の地位がすぐに変わるわけではないかもしれないが、重要な旅路の第一歩になるとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は確信している。
BRICSという言葉はもともと、2050年までに大きく発展する可能性を秘めたブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5つの新興国を指す表現として広まった。現在では、BRICSはメンバー間の経済協力を拡大し、経済的・政治的地位を向上させようとする組織化されたグループを意味している。BRICSは成長し、メンバー各国が異なる性格を持ち、協力を通じて各国個別の目標を達成しようとする姿勢を強めている。従来の考え方では、拡大したBRICSグループには限られた共通基盤しかないとみなされるかもしれない。しかし、グループの成長によってその力が変化する可能性を軽視するのは危険だとABは考えている。
BRICSは各国の利害が異なるものの、相違点を克服するため効果的に協力することはできる。その一例は、ロシアのプーチン大統領が先ごろ開催された第15回BRICS首脳会議への出席を「双方の合意に基づき」見送ったことだ。その目的は、国際刑事裁判所から逮捕状が出ているプーチン大統領の扱いを巡って開催国である南アフリカが外交的に困難な立場に追い込まれることを避けるためだった。この決定はBRICSの一般的なアプローチ、つまり協力とソフトパワーを重視する姿勢を示すものだったと考える。
BRICSは目標を達成できるか?
これまでのところ、先進国と新興国の経済的収れんは期待外れに終わっている。過去10年間に目に見える発展を遂げた新興国は中国だけで、急成長した中国ですら、国民1人当たり国内総生産(GDP)に基づく富の水準は米国の20%にすぎない。
だが、BRICSの目的な経済的収れんだけではない。2023年8月の首脳会議では、政治と安全保障の問題が、包括的な多国間主義を実現する「協力のバックボーン」になると指摘された。BRICSの真の目的は、「現代の世界を反映し、より公平でバランスの取れた世界の政治・経済・金融構造の再構築」にほかならない。その実現には時間がかかるだろうが、2024年1月1日に6カ国を新たに迎え入れることで、BRICSは新たな局面を迎えることになる。また、パートナー国家モデル(また、2024年の会合までにパートナー候補国のリスト)を構築するという首脳会議の指令は、グループのさらなる拡大があり得ることを意味している。
その一方で、BRICSはより公正な世界を求める主張を強めている。彼らは首脳会議で、国際通貨基金(IMF)枠の見直しを予定通り2023年12月半ばまでに完了させ、新興国に割り当てられる引出権の割合を増やすよう求める考えを表明した。また、ブレトンウッズ協定に根ざす機関の広範な改革プログラムの一環として、IMFと世界銀行の幹部に占める新興国出身者の割合を引き上げるよう求めた。こうした動きは、新興国と深く関わっている機関の正当性をさらに高めることになるとABは考えている。
BRICSのハードパワーとソフトパワー
BRICSのメンバーはすでに複数の大陸にまたがり、国連、G20、世界貿易機関(WTO)などの組織に加わっている。しかし、メンバー国は、単独でも集団でも、そのパワーは潜在力を下回っており、グローバルな問題に関して公平でバランスの取れた発言力を持っていないと感じている。
富や軍事力だけで政治的なパワーが決まるわけではない。現時点における政治力を示す不完全なランキングは数多く存在するが、そのほとんどは図表1のようなランキングに収れんしている。これに基づけば、BRICSはすでにかなり強い力を持っている。「BRICSプラス」の新メンバー(そして将来的に加わる可能性のあるメンバー)は概してランクがかなり低いが、効果的にグループに組み入れられれば、拡大したBRICSは極めて強力な存在となる可能性がある。
中国の目覚ましい経済発展が他の新興国を牽引してきた結果、過去20年間に世界のパワーバランスは変化した。最近は中国の経済成長が鈍化しているが、その国家の規模により依然として巨大な経済力と軍事力が健在だ。
現在及び将来のBRICSメンバーの一部は西側諸国から離れすぎることに抵抗するかもしれないが、BRICSがより多くの新興国を引きつけるのに伴い、世界のパワーバランスは流動的な状態が続きそうだ。そのため、BRICSはグループが拡大する中で、欧米のパワーを抑制するためソフト・バランシング政策を取り入れる可能性がある(ケンブリッジ大学による記事ご参照(英語、外部サイト))。
BRICSの貿易力
11カ国で構成する新たなBRICSは、経済力と貿易力を備えた強力なグループとなりそうだ。BRICSは現在、世界の輸出の約20%を占めており、そのうち15%を中国が占めている。BRICSが拡大すれば、そのシェアはユーロ圏並みの25%近くまで高まりそうだ(図表2)。特恵貿易協定や共通通貨を通じてより円滑に貿易が行われるようになれば、特に中国との貿易は、他のBRICS加盟国に大きな恩恵をもたらすと思われる。
共通通貨という野心的な目標が近いうちに実現するとは考えにくい。だが、BRICS各国の財務相と中央銀行総裁は先日の首脳会議で、現地通貨決済の問題を協議し、それがグローバルな金融取引の安定性、信頼性、公平性の向上にどう貢献できるか検討することで合意した。ブラジル、中国、ロシアは、従来の(米ドルをベースとした)金融の構造に代わる方式を模索しているとみられる。
BRICSは新たな道路を整備
中国の「一帯一路」構想(BRI)は過去10年間、世界的な問題に対する影響力を拡大してきた。しかし、中国経済が減速し、世界の金融情勢が厳しさを増し、一部の参加国の債務が上限に達する(または突破する)のに伴い、BRIは勢いを失いつつあるようだ。BRIが輝きを失う一方で、BRICSの拡大は中期的に新興国のダイナミズムを再燃させるもう1つのチャネルとなりうる。
ABは、BRICSの拡大によって新興国の経済成長機会がすぐに大きく高まるとは考えていない。むしろ、BRICSの拡大が「グローバルサウス」による欧米への挑戦と受け止められれば、投資家が新興国に対して保守的なスタンスを強め、逆効果となりかねない。最終的には、BRICSがより大きな力を持ち、より広範な国々を代表するようになれば新興国の見通しが押し上げられるだろうが、BRICSがその目標を達成するまでの道のりは長く、困難なものとなるだろう。
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