世界の市場が異例の展開をたどった2020年を終え、2021年の株式配分は容易ではないように見える。だが、2020年に生じた市場のゆがみを踏まえれば、回復の行方が不透明であるにもかかわらず、投資家は自信をもって株式配分を拡大する手段を見つけ出すことができると、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では考えている。

2020年は新型コロナウイルスのパンデミックが広がる中、中央銀行による経済崩壊を食い止めるための大規模な金融緩和策や財政支援策に支えられ、世界の株式市場が上昇した。新型コロナウイルスによって世界で多くの人命や企業が犠牲になったにもかかわらず、MSCI ワールド指数は現地通貨ベースで13.5%上昇し(図表1、左図)、2020年1-3月期の暴落は遠い過去の記憶となった。先進国市場の上昇をけん引したのは米国株で、欧州株と日本株はアンダーパフォームした。新興国市場も中国株が原動力となり好調なパフォーマンスを示した。

パンデミックの影響はセクターやスタイル別の年間パフォーマンスにも反映されている(図表2)。ソーシャルディスタンスが求められる中、テクノロジー製品に対する需要急増や技術革新の加速を受け、テクノロジー株が急伸した。一方、原油価格の下落でエネルギー株が低迷したほか、公益事業や不動産など、伝統的にディフェンシブとみなされているセクターも軟調に推移した。

2020年は米国株と中国株が上昇を主導したが10-12月期には変化の兆しが現れた.png
2020年10-11月期はテクノロジー株の勢いが衰え金融株やエネルギー株が回復.png

投資家はフェイスブック、アマゾン、グーグル(それにアップルとネットフリックスを加えてFAANGと総称)をはじめとする高成長銘柄に殺到した。その一因は他のセクターで高成長株が見つけにくかったことにある。一方、小売りや娯楽など他のセクターでは伝統的なビジネスモデルが痛手を受け、環境変化に適応できなかった企業は永遠に立ち直れないほど打撃を被った可能性がある。

こうした動きに、成長株に追い風となりがちな超低金利が重なった結果、かつてないほど一部の銘柄に投資が集中し、米国の巨大5銘柄がラッセル1000グロース指数に占める比率は2020年末までに約36%に達した。同じような傾向は中国株にも見られた。巨大企業への投資比率を高めていなかったポートフォリオは、2020年に市場全体をアンダーパフォームすることになった。

2020年は大半の期間を通じ、グロース株がバリュー株を大幅にアウトパフォームした(図表3、左図)。また低ボラティリティ銘柄は意外なほど低迷し、不透明な市場環境が続く中、伝統的なディフェンシブ銘柄のバリュエーションは魅力的な水準に低下している。

スタイル変化の初期の兆しが現れる中、景気敏感銘柄は回復に向かうか?.png

2020年終盤の楽観ムードがセンチメントの変化を促進

2020年末にかけて、状況に変化が生まれ始めた(以前の記事『市場のけん引役の変化に備えて株式配分を点検しよう』ご参照)。新型コロナウイルスは依然として多くの人命を奪っているが、ワクチン開発の進展が伝えられたことで、投資家は2021年のうちにパンデミックが終息する可能性があるとの期待を高めている。その結果、11月以降は、国内総生産(GDP)成長率が幅広く回復するとの期待感からバリュー株が急伸した。エネルギー・セクターや銀行セクター、小型株などの株価も全般に力強い回復を遂げた。

2020年10-12月期のリターンのパターンは、前3四半期とは著しく異なるものとなった。このトレンドが持続するかどうかを判断するのは時期尚早だが、11月以降の市場の動きは、株式市場におけるスタイル、セクター、規模、地域別のリターン・パターンの変化は急激に起こりうるという重要な教訓を再認識させることになった。投資家は安心していてはならない。

パンデミック後における3段階の回復

では、投資家は2021年のポジションをどのように構築すればいいのだろうか? まず、市場トレンドを形成するとみられるマクロ経済の回復プロセスについて、考え得るシナリオを描き出してみることだ。ABでは景気回復が3段階で進むと考えている。

第1段階は、2つの対立する要因のせめぎ合いとなる。今後数カ月は、ワクチンやそれが景気回復を促す可能性に関する明るいニュースと、北半球における厳しい冬を通じてウイルス感染が引き続き拡大または変異し、経済にさらなる打撃を与えかねないという悪材料のバランスを取らなくてはならない。

第2段階は、世界的なワクチン接種の進展でパンデミックの封じ込めに成功し始める兆しが現れ、蓄積していた消費需要が顕在化する。そうなれば、多くの企業が力強い利益成長を取り戻すことになるだろう。特に、2020年の利益が低水準だったことは、増益率を押し上げる要因となる。

第3段階ではパンデミック終息後の高揚感が一服し、企業は2021年に加速した回復ペースを維持するのに苦しむことになる。世界各国のGDP成長率も、パンデミック以前と同じような逆風に直面することになりそうだ。

これらの回復段階を通じて考慮すべきリスクは数多くある。世界の回復ペースは、ワクチンがどれほど迅速にウイルス感染の拡大を抑え込むかにかかっているが、それは国によって異なるものとなるだろう。経済活動の回復を受けて投資家の間にインフレ懸念が広がれば、歴史的な低水準にある市場金利が上昇する可能性があり、そうすれば市場にボラティリティをもたらしかねない。世界経済はポピュリズム、中国と西側諸国の地政学的緊張の高まり、債務の増大など多くの問題に直面しており、長期的な経済成長を巡っては依然として不透明感が漂っている(以前の記事『2021年の展望: 世界経済の回復がもたらすものは何か?』ご参照)。

足元の市場の上昇は2021年に対する楽観的な見方を反映しているとみられ、力強い利益成長はすでに多くの企業の株価に織り込まれている可能性がある。その一方で、新型コロナウイルス終息後に経済や企業が直面するとみられる長期的な問題は、高騰したバリュエーションに完全には反映されていないと思われる。

バリュエーションの高騰に関するグローバルな視点

景気回復の広がりは、マクロ経済の成長にとりわけ敏感に反応する企業が主要株価指数の高い比率を占めている米国以外の市場にとって追い風となる可能性がある(図表3、右図)。

2020年末までは地域別のバリュエーション格差が顕著で、米国株はMSCI ワールド指数(予想株価収益率は21.0倍)に比べ割高な水準にあった。欧州株とアジア株は世界の株式市場に比べ、ディスカウント幅が通常よりも大きな水準にあった(図表4)。米ドルの下落が続けば、特に新興国株式をはじめとする米国以外の株式も恩恵を受けると予想される。

地域別のバリュエーション格差は鮮明.png

不透明な回復局面における投資原則の適用

先行きが不透明であるにもかかわらず、長期的な株式投資原則の多くは危機によって強化されたと考えている。それらは、投資家が次の回復段階に備える上で大いに役立つと思われる。

第1に、市場の上昇や下落を予測することは賢明ではない。2019年末に中国から新型コロナウイルス出現の兆しが初めて伝えられた時、それが世界的なパンデミックに発展したり、市場の暴落につながったりすると予測できた人はほとんどいなかった。2020年2月19日に始まった急激な下げ局面を正確に予測していた投資家ですら、市場からうまく逃げだすことができたのは半分程度に過ぎない。3月23日に悲惨なマクロ経済状況にもかかわらず市場が上向き始めた転換点を予測するのは、おそらくそれ以上に難しいことだった。投資家にとって、絶妙なタイミングで市場に参入し、そして撤退、さらに再参入して成功を収めるのは、ほとんど不可能な技であると言える。

第2に、投資家は確かな分析ができない問題について市場を出し抜こうとしてはならない。例えば、数多くの製薬会社がコロナワクチンの開発を競い合っている場面で、勝者を予測して投資テーマを構築するのはかなり投機的な戦略である。製薬会社の基本的なビジネス・ファンダメンタルズに焦点を当てる方がはるかに当を得ている(以前の記事『ヘルスケア銘柄投資はワクチン開発に依存してはならない』ご参照)。

第3に、好調なパフォーマンスを上げている人気銘柄の後追いをするのは注意が必要だ。2020年は少なくとも11月初めまで、モメンタムはとりわけ力強いパフォーマンスをもたらす株式ファクターだった。だが、モメンタムは変化が極めて激しい。歴史的なトレンドに基づけば、モメンタムに乗じて投資する投資家は、トレンドが通常に戻った場合に大きな痛手を被る可能性がある。実際、2020年10-12月期にはモメンタムの最も高い世界の株式が著しくアンダーパフォームした。

最後に、ファンダメンタルズは依然として重要である。確かに、2020年は中央銀行による巨額の流動性供給で市場が支えられたが、最終的には、たとえ世界が不安定で異例の環境にあったとしても、市場をリードしたのは利益見通しが好ましい銘柄だった。銘柄を厳選する投資家は、セクター間や、同じ業界内でもビジネスモデルやキャッシュフロー、利益を維持できる企業とできそうにない企業の間に、大きな相違を見つけ出すことができるだろう。

変化する市場環境に備えた株式エクスポージャーの見直し

一部の投資家は2020年を振り返り、投資すべき対象は足元の勝者である米国の超大型株だけだと結論づけるかもしれない。それは短絡的な結論だ。FAANG各社の事業や収益の見通しは良好だが、投資家は株式配分のリスク・バランスが適切であることを確かめるため、ポートフォリオのエクスポージャーを注意深く評価する必要がある。

そして、過去のパフォーマンスを理由にバリュー株を無視してはならない。また、アンダーパフォームしている地域やセクターを回避してもならない。これまで株価が出遅れていた企業の中には、回復局面や変化する市場環境においてファンダメンタルズの強さが評価され、市場全体をアウトパフォームする銘柄も現れるだろう。例えば、金利が上昇すれば、金融機関などは非常に好調なパフォーマンスを示すとみられる。

株価がすぐに反転する可能性のある高騰している銘柄や人気の集中している銘柄に過度にエクスポージャーを偏らせてはならない。たとえ伝統的な最小ボラティリティ銘柄が期待どおりの効果を発揮しなくとも、ボラティリティの緩衝材となりうる新たなタイプのディフェンシブ銘柄への投資を検討すべきである(以前の記事『Intangible Assets Provide Tangible Defenses for Equities』(英語)ご参照)。

高騰している市場のバリュエーションは中期的なリターンを押し下げる要因となる可能性があるが、債券と比較しても、株式は依然として長期的に魅力的な潜在力があると考えている。収益見通しに大きなばらつきが見られ、不透明感が漂っている世界では、投資家は景気回復後やポスト・コロナの環境に適した銘柄を幅広い分野から慎重に選択することによって優れたパフォーマンスを達成することができるとABは考える。

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