米国株式市場を揺るがした、世界最大のコンピューターゲーム小売店ゲームストップのドラマは、市場における個人投資家の影響力が増大している実態を映し出している。しかし、今回の狂騒は長期的な視野で投資する伝統的な投資家にとっても教訓となる。それは、市場がファンダメンタルズを無視している場面では、クオリティに焦点を当てる姿勢を一段と強めることが、ボラティリティを抑えながら安定したリターンを創出する最善の方法だということである。
 
2021年1月終盤以降、投資家の目は主要メディアで大々的に報道された米国株式市場における攻防戦にくぎ付けとなっている。実店舗型のテレビゲーム小売店を運営するゲームストップは、事業が困難に直面していた。テレビゲームの販売が実店舗からオンラインにシフトする中、ゲームストップの株価はそれまで18カ月にわたって5米ドル前後で低迷していた。そこに利益獲得の機会をかぎつけた多くのヘッジファンドは、同社のビジネスがいずれ消滅すると見越してゲームストップ株の空売りに走り、一時はショート・ポジション残高が発行済み株式の140%に積み上がった。
 
その時、株式投資家向けのオンライン掲示板を通じた行動を呼びかける声に、数多くの個人投資家が応じた。その結果、2020年末時点で20米ドル以下だったゲームストップの株価は1月終盤には一時470米ドル近くまで急騰した。ゲームストップ株はその後も日々激しい変動を繰り返し、実際の企業価値を上回る水準まで株価が上昇する場面も多かった。同じような株価の乱高下は、AMCエンターテイメントやベッド・バス・アンド・ビヨンドなど、他の銘柄でも繰り広げられた。
 

ゲームストップ騒動から得るべき3つの教訓

ゲームストップ騒動から得られる教訓は何だろうか?今回の件は多くの場合、個人投資家が巨大ヘッジファンドを打ち負かした壮大なキャンペーンとして伝えられている。そうした筋書きが人気を集めることは容易に理解できるが、市場の「民主化」に焦点を当てると、この話が伝える幅広い教訓を見逃すことになりかねない。ゲームストップの物語が市場や投資家にとって本当は何を意味するか、3つの観点から考えてみたい。
 
第一に、投資家にとって株式市場の「群衆」に追随するのは危険である。米国ではコロナ禍対策の一環として小切手が支給されたことで、投資家はロビンフッドなどの取引アプリを通じて市場に投じる潤沢な資金を抱えている。だが、ゲームストップ株をピーク近い価格で購入した投資家は、株価の下落に伴いすでに損失を抱えている。企業のファンダメンタルズを反映していない割高な株価水準で買い入れるのは勇敢な行為とは言えない。ゲームストップに殺到した多くの投資家は、市場の変動リスクについて痛い教訓を学ぶことになるだろう。
 
第二に、ヘッジファンドをターゲットとしたキャンペーンは、大企業や機関投資家にとって警戒警報となる。彼らがそろってショート・ポジションの解消を強いられたことは、個人投資家が新たな手法で市場に影響を与えるパワーを持ち始めたことを物語っている。ネットワーク効果やデジタルプラットフォームにより、投資家や新興企業は、強力な既存のリーダーを打ち負かすことができるようになった。同様に、一致団結した消費者による革命は、市場を支配してきた企業の競争優位性を脅かしかねない。投資家はこうしたトレンドを理解することが必要で、米国の巨大企業がこれまで以上に肥大化している現状ではとりわけそれが重要な意味を持つ。
 
第三に、米連邦準備制度理事会(FRB)は意図せぬうちに今回のゲームストップのような動きが起こりうる環境を作り出してきた。FRBが多額の支援策により経済の安定を目指す取り組みを続ける中、マネーのコストは実質的にゼロになった。超低金利は、人々が資金を借り入れ、高リターンを求めて大きなリスクを取るよう促している。その結果、プライベート・エクイティ・ファンドやSPAC(特別目的買収会社)に記録的な額の資金が流れ込んでいる。それぞれの投資機会を追い求めるマネーが増え、多くの企業は十分な検証もしないまま準備不足の状態で市場に参入している。
 
低コストのマネーはさらに、個人投資家の売買を過去最高水準に押し上げている。こうした現象は以前にも見られ、1990年代終盤のITバブルや、2008-2009年の世界金融危機につながった住宅バブルも、低コストのマネーがバブルをあおる役割を果たした。パーティーが盛況のうちに幕を閉じることが滅多にないことは誰でも知っているが、投資家の熱狂はしばらく続く可能性がある。FRBが予期しうる将来にわたって低金利を全面的に後押しする姿勢を示しているほか、さらなる財政刺激策も予定されているため、パーティーは2021年も続きそうだ。FRBはバブルを慎重にしぼませる必要が生じるだろうが、それは困難な作業で、予期せぬ副作用を引き起こす場合も多い。
 
 

リターンを生み出す最善のレシピはクオリティ

ゲームストップを巡る狂乱がどんな形で幕を閉じるのかは分からない。しかし、長期的なスタンスを取る投資家はひるむ必要はない。ゲームストップ騒動は極端なイベントである。しかし、個人投資家の取引がさらに拡大すれば異常な株価変動が起こる可能性があり、それは強い信念を持ったアクティブな投資家にとって、株価がファンダメンタルズとかい離した質の高いクオリティ企業への投資機会が得られることになる。
 
質の高い企業に焦点を当てることは、理不尽な市場の変動に対する優れた防御策となる。また、既存の経営資源を利用して力強い成長を実現できる企業は、過熱感のあるM&Aなどに依存する必要がないため魅力度が高い。持続的な利益成長力を備えた企業で株式ポートフォリオを構築することは、一貫してアウトパフォーマンスを達成し、ボラティリティを引き下げるレシピとなり得る。それは、小口の投資家が市場のリーダーに衝撃をもたらす強力なキャンペーンを展開できる世界でも変わらない。
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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