2021年1-3月期は世界の株式市場が上昇したが、不安定な相場展開は、正常化への道のりは一筋縄ではないことを投資家に思い起こさせた。株式投資家はこの先に待ち構えているリスクを慎重に検討することで、新型コロナウイルスのパンデミックからの回復に向けた次の段階に備えることができる。

投資家はパンデミックが転換点を過ぎたと楽観視している。1-3月期には多くの国でワクチン接種が加速したほか、死亡者数や感染者数もピークから減少し、一部の国では経済活動が再開され始めた。特に欧州など一部の国では再び悪化する状況もみられるが、同期間のMSCI ワールド指数は現地通貨ベースで6.1%上昇した(図表1)。また、米国の小型株、日本株、エネルギー株や金融株など、シクリカルな景気回復の恩恵を受けやすい地域やセクターがアウトパフォームした一方で、公益事業や生活必需品などディフェンシブなセクターはアンダーパフォームした。

景気に敏感なセクターがアウトパフォーム:米国の小型株と日本株が上昇をけん引.png

右往左往の相場展開

堅調な株価上昇は市場環境の急激な変化を覆い隠している。政策金利が過去最低水準に据え置かれる中、大規模な財政刺激策や蓄積された消費需要でインフレに火がつきかねないとの懸念が高まったことから米国の10年国債利回りは0.89%上昇し、2021年1-3月期末時点で1.74%となった。力強い景気回復の恩恵をいち早く受けるとみられているバリュー株はグロース株を大幅にアウトパフォームし、2020年11月から回復局面が続いた(図表2、左図)。しかし、スタイル別のローテーションはスムーズにはいかず、投資家は日々、グロース株とバリュー株の間で右往左往することになった(図表2、右図)。

不安定なスタイル・ローテーションの中、バリュー株の回復が続く.png

大規模な財政刺激策などに誘発された個人投資家による取引急増も、ボラティリティを押し上げる要因となった。オンライン取引掲示板のレディットを通じ、ゲームストップやAMCネットワークスなど一部の銘柄が激しい値動きにさらされた(図表3、左図)。ゴールドマン・サックスの取引データによると、米国では、取引額全体に占める個人投資家の比率が20%に達し、2016年の10%から大幅に上昇している。2021年1-3月期初の時点で、米国の家計資産に占める株式の比率は27%を超え、2000年のITバブル時につけたピークの25%を上回っている(図表3、右図)。

市場にバブルの兆し?米国では個人投資家の取引トレンドが新たなリスクに.png

一方、創業間もない民間企業が早期に株式を上場する手段として「ブランク・チェック・カンパニー」(白紙の小切手会社)と呼ばれる特別目的買収会社(SPAC)が用いられ、2021年1-3月期にSPACが市場から調達した資金は2000年通年を上回った。SPACは必ずしも不安定な投資ビークルとは言えないが、こういった人気は、今日の市場における投機熱の高まりを物語っている。

3段階の回復プロセスは依然として健在

足元のボラティリティは回復の勢いを失速させる恐れがあるのだろうか? そうは思わない。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では依然として3段階の回復を予想しており、それぞれの段階が投資に異なる課題をもたらしている。2021年初めには第1段階に入り、新型コロナウイルスのワクチン接種が進む中で、各国政府は慎重ながらも経済活動再開の道を探っている。

第2段階はパンデミック封じ込めに向けた最初の取り組みが成功を収める中、2月終盤に始まった。国民1人当たりのワクチン接種で世界の先頭を走っているイスラエルでは、国民が免疫を獲得したことで、ウイルス感染の再拡大を引き起こさずに急速に経済を再開できるようになった。こうした見通しが世界的に広がるのに伴い、企業収益は力強く拡大するとみられ、比較対象となる2020年の利益水準が低かったことを考えれば、増益率はとりわけ大きくなりそうだ。

だが、そうした急成長が翌年も再現されるとは考えにくい。第3段階では、世界が正常化に向かい始めるのに伴い、経済成長はおそらく、パンデミック以前と同じような課題の多くに直面することになるだろう。

こうした回復トレンドは、株価に大きな上値余地をもたらすと思われる。しかしながら、2021年1-3月期に見られたパターンは、回復プロセスで浮上するとみられるリスクを点検する必要があることを裏付けている。

リスク1: 金利とインフレ

多くの投資家にとって、金利とインフレが大きな懸念材料となっている。米国国債利回りの上昇を受け、特に米国において、金利上昇の可能性が株式市場の上昇を損なうかもしれないとの懸念が広がっている。米国では2021年3月にバイデン政権が1兆9,000億米ドルの刺激策を成立させたほか、2兆米ドルに上るインフラ投資計画を提案した。それらは経済を支える重要な役割を果たすだろうが、インフレを再燃させる可能性もある。

インフレと金利上昇は株価に悪影響を与えるのだろうか? 必ずしもそうとは限らない。ABのリサーチによると、1948年以降、米国株はインフレ率が2~4%の時期に、四半期当たり平均2.7のリターンを上げた(図表4、左図)。一方、リターンが1%を下回ったのは、インフレ率が4%を上回っている場面だけであり、現時点における5年先のインフレ期待は約2.1%で、そのインフレ水準を大幅に下回っている。

同様に、株式は金利が上昇した場面でも好調なパフォーマンスを示した(図表4、右図)。ABのリサーチによると、1971年以降で米国国債利回りが上昇した18回の期間に、世界の株式は平均で年14%のリターンを上げた。金利上昇は通常、経済成長や企業利益の加速を伴うため、株式のリターンは損なわれないケースが多い。

過去の穏やかなインフレ・金利上昇局面では株式のパフォーマンスは好調.png

確かに、投資家はインフレに対する備えが必要だ(以前の記事『あなたのポートフォリオはインフレへの備えができているか?』ご参照)。ポートフォリオ・マネジャーは、保有銘柄がインフレに備えた構成になっているか点検しなくてはならない。例えば、インフレの環境下では価格支配力を持っている企業が優位に立つことができる。株式配分が、穏やかなインフレと金利上昇に異なる反応を示しそうな銘柄に分散されていることが必要だ。さらに、インフレ率が上昇した場合に好調なパフォーマンスを示す傾向がある不動産やコモディティなどの実物資産への資産配分も検討すべきである。

リスク2: 揺れ動くスタイルの振り子

もちろん、金利はさまざまなタイプの株式に重大な影響を与える。金利が上昇すれば、投資家が株式を評価する際に用いる割引率が上昇する。それは株価収益率を圧迫する要因となり、遠い将来のキャッシュフローや利益を見込んで取引される傾向のあるグロース株がとりわけ大きな影響を被る。金利上昇局面では、バリュー株がアウトパフォームするケースが多い。

2021年1-3月期に見られた投資スタイルの激しい変動は、それが原因となった可能性がある。市場環境の変化に伴い、異なる株式がどんなパフォーマンスを示すか、投資家が見直しを始めたからだ。株価収益率が著しく押し上げられていたハイパー・グロース株のバリュエーションが急激に落ち込む一方、バリュー株はアウトパフォームした。

金利やボラティリティの足元の不安定な動きは、金利上昇に対するポートフォリオの感応度を現実の世界で試す場となっている。グロース株に多額の資産を配分し、バリュー株をアンダーウェイトとしている投資家にとって、今はポートフォリオを見直すべき時かもしれない。世界のバリュー株は過去数年にわたり極端にアンダーパフォームしてきたため、最近の上昇にもかかわらず、2021年2月末時点ではグロース株に比べ51%割安な水準にある。その結果、バリュー株にはなお回復の余地があると思われる(以前の記事『Value’s New Hope』(英語)ご参照)。グロース株については、保有銘柄がしっかりした事業基盤を持ち、株価収益率を押し下げる圧力がかかっても持続可能なリターンを支える底堅いキャッシュフローを創出できることを確かめることが重要になる。

ボラティリティが低い銘柄などその中間に位置する銘柄は、パンデミックの期間を通じて見送られてきた。生活必需品や公益事業など多くのディフェンシブなセクターはバリュエーションが魅力的な水準にあり、ボラティリティに対する緩衝材となる可能性がある。実際、2021年3月終盤に神経質な取引が続いた場面では、こうした低ベータ銘柄が再びリスクを縮小する伝統的な役割を果たしていることを示す兆しが現れた。

リスク3: 市場における行動リスク:
米国の個人投資家からヘッジファンドまで

2021年1-3月期に見られた取引トレンドは、市場のさらなる不安定化を招く可能性がある。特に、レディットを通じた一部銘柄の過熱は、人気取引アプリや、財政刺激プログラムがもたらした余裕資金の増大によって、米国株式市場で個人投資家の取引が急増したことを反映している。

特に刺激策に基づいてさらなる現金が消費者の手元に届くことを考えれば、こうしたトレンドが消えるとは考えにくい。ポートフォリオ・マネジャーは、人気の取引掲示板からビッグデータを収集することによって、個人の異常な取引をモニターすることができる。それは個別銘柄が熱狂に包まれる可能性を示唆する早期警報となりうる。そのトレンドが米国市場にシステミック・リスクをもたらすとは考えていないが、上述したように米国の家計が株式市場に多額の資産を注ぎ込んでいることを踏まえれば、彼らが潜在的にさらされている市場の調整リスクは大きなものとなる。

2021年1-3月期終盤には、業績に変化がないにもかかわらず、米国のメディア株や中国企業の米預託証券(ADR)の一部が強い売り圧力を浴びて下落した。米国に拠点を置くヘッジファンドのアルケゴス・キャピタル・マネジメントが株式デリバティブ取引で多額の損失を被ったことが、売りのきっかけになったと考えられている。

市場におけるこうしたボラティリティは、アクティブ運用を手掛けるマネジャーに投資機会をもたらす。実際、中国A株市場など個人投資家の比率が高い市場は、センチメントの変化による影響を受けやすい。それはしばしば市場の非効率性を生み出し、バリュエーションがファンダメンタルズからかい離した銘柄を見つけ出そうとする、長期的な視点を持ったアクティブ運用の投資家にとって、魅力的な投資機会となり得る。

リスク4: ニューノーマルへの回帰

多くの企業のファンダメンタルズはパンデミックで打撃を受けた。経済活動の封鎖が始まるのに伴い、特に大きな痛手を受けた業界ではビジネスの先行きが見えなくなった。

経済活動が再開しても、多くの疑問にはまだ答えが出ていない。ニューノーマルの世界では消費者や企業の支出がどう変わるのだろうか? 一部の業界は、航空機、ホテル、オフィス・スペースなどの過剰供給に直面するのだろうか? 金利が上昇した場合、重い債務負担を抱えた企業は資金調達が困難になるリスクがあるのだろうか? 経済の正常化を目指した異例の財政政策はそれぞれの業界にどんな影響を与えるのだろうか? そして、2020年は忘れられたもののパンデミック後の世界でさらに顕在化する恐れがある地政学的リスクはどうなるだろうか?

それらは簡単な答えが出るものではない。しかし、そうした問題は、回復局面を通じて銘柄選択の目を磨くことの重要性を物語っている。

企業がニューノーマルにどう備えているかを理解するには、ビジネスに関する独立したリサーチが必要となる。どの企業が危機からの回復にうまく適応しているかを見極めるには、新たなデータ分析手法を駆使して需要をリアルタイムで分析する必要がある。財務リスクを判断するには、企業のバランスシートを徹底的に精査し、低金利の中で債務をうまく管理できなかった企業を見分けることが必要になる。米国では、法人税率引き上げが将来の利益を押し下げる可能性があるが、バイデン政権が打ち出したインフラ投資計画が一部の企業に追い風となりそうだ。政治リスクは予測が困難で、例えば、バイデン政権の貿易政策がどのような影響を及ぼすかはいまだによく分からない。しかし、特定の政治リスクに対する企業のエクスポージャーをしっかり把握しておけば、最大規模のリスクに対するポートフォリオの脆弱性を抑えるためにも役立ち得る。

センチメントの波を乗り越えて持続可能なリターンを追求

おそらく、2021年初めに表面化した最大のリスクは、センチメントに左右される市場のパワーだと思われる。激しいセンチメントは、投資家にファンダメンタルズを忘れさせかねない。急激に株価が跳ね上がった特定の銘柄グループに飛びつきたくなるかもしれないが、それは長期的な投資の成功につながるものではない。

景気回復に備えたポジショニングを構築するには、雑音を乗り越える必要がある。投資家は、リスクを明確に把握することで、世界経済や市場が通常の姿を取り戻すのに伴い、課題を克服し、長期的な投資リターンを創出する上で最も有利な立場にいる企業への確信度を高めることができる。

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