株式スタイルの風向きが変化する中、投資家は依然としてバリュー株と比較したグロース株のメリットについて議論している。しかし、特に超低金利が企業のバリュエーション評価に影響を与える中で、クオリティが引き続き重要なポイントになるとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では考えている。
 
米連邦準備制度理事会(FRB)がボルカー元議長の下で経済を窒息させるような高インフレに対処するため金利を過去最高水準に引き上げてから、40年が経過した。しかしそれ以降、金利は着実に低下してきた。現在では、主に中央銀行の政策によって、金利は歴史的な低水準に張り付いている。このトレンドは投資家にほとんど影響を与えていないが、金融資産の価格には大きな影響を与えている。
 

明日のキャッシュフロー創出力を用いて現在価値を測る

割引キャッシュフロー法(DCF)を用いて企業のキャッシュフローを評価する場合、金利が低下するほど、資産の正味現在価値が高くなる。
 
機会損失(利益を得る機会を逃すこと)という言葉があるように、投資家はより先のことを考えれば考えるほど、資産が生み出すキャッシュフローの量やタイミングについて確信を持ちづらくなる。もっとも、それはキャッシュフローがある場合の話で、例えばビットコインはキャッシュフローを創出しない。
 
そのため、DCF分析の「割引」要素は、将来受け取るお金の価値は今手元にあるお金の価値よりも低いという事実を反映した割引率である。割引率はすべての資産で均一なわけではない。それは時間だけでなく、著しく異なるキャッシュフローに応じたさまざまなリスクの度合いも考慮に入れようとしている。
 

投資家は少ないリターンのために大きなリスクを取っている

米国国債利回りに代表される「リスクフリー」金利が歴史的に低い水準にあることに加え、投資家の高いリスク許容度が、現在のバリュエーションを極めて高い水準に押し上げている理由であることは間違いない。しかし、投資家がインカム収入を求めてリスク許容度をかつてないほど引き上げていることから、信用スプレッドも通常に比べ縮小している。実際、ハイイールド債とリスクフリーの米国10年国債の平均利回り差(スプレッド)は2.9%と、ほぼ20年ぶりの低水準に縮小している(図表1)。
 
低金利とリスク許容度の高まりで10年物スプレッドは20年ぶりの低水準.png
 
しかし、リスクフリーレートは別にしても、投資家が一定のリスクを取ることによって得られるリターンは、過去に比べはるかに少なくなっている。かつては多くの投資家が、長期的な資産価値を評価する上で、加重平均資本コスト(WACC)を10%またはそれ以上と想定していたが、現在では多くの資産の割引率が5%以下になっているようだ。
 
投資家のリスク許容度が高くなったように見えるのは、ある意味で幻想にすぎないかもしれない。多くの投資家、特にパッシブ投資家は、企業の価値評価から距離を置いている。例えば、米国の401(k)年金プラン加入者は株式市場における巨大な投資家集団だが、拠出や口座のリバランスに伴って取得する資産のバリュエーション評価 には、ほとんど関与していない。
 

DCFは低金利環境においてバリュエーションへの影響が大きい

将来のキャッシュフローが現在のキャッシュフローよりも高い価値があることはない。しかし、すべての企業や資産が均等に低金利の恩恵を受けているわけではない。複利効果により、収益やキャッシュフローの多くをより遠い将来に生み出す見込みの企業は、より多くのキャッシュフローを足元から創出している企業よりも大きな恩恵を受ける。例えば、高成長企業のキャッシュフローは、低成長企業のキャッシュフローよりも遠い将来に創出されるケースが多いため、キャッシュフローの現在価値を算出する際に用いられる割引率が上昇すると、高成長株のフェアバリューが低成長株に比べて大幅に低くなり、その差は金利上昇に伴って拡大する(図表2、左図)。
 
こうしたかい離は、すべての業界やサブセクターでも見られる。例えば、企業の時価総額を売上高で割った「株価売上高倍率」は、割引率の低下に伴いソフトウェア企業で急上昇している。それとは対照的に、自動車部品セクターではほとんど変化がなく、「再評価」の動きは見られない(図表2、右図)。これは、ソフトウェア企業に適用される相対的な割引率が、自動車部品メーカーの割引率よりも大幅に低下していることを示しているが、もし金利が上昇すれば、そのメリットは逆転し始めるとABでは考える。
 
割引率の上昇は企業のバリュエーションにどんな影響を与えるのか.png
 
そのことは、特に、短・中期的に株主にもたらされるフリーキャッシュフローが(仮にあったとして)少ない創業間もないグロース企業に当てはまる。そうした企業は、現時点で収益性が高い企業に比べ、長い将来にわたって加重されたキャッシュフローを受け取ることができるため、デュレーションの長い債券(償還までの期間が10年以上ある債券)に似た特性を持っている。これらの企業やデュレーションの長い資産は全般的に、より成熟した企業に比べ、長年にわたる金利低下の恩恵を受けてきた。重要なのは、金利が低下するのに伴い、相対的な恩恵が増大することである。数学的には、金利が5%から4%に低下すれば、デュレーションの長い資産が受ける恩恵は、金利が10%から9%に下がった場合よりも大きくなる。
 

金利が地合いを決定づけるが、銘柄選択の上ではクオリティが重要

我々はかつてないほど大きな変革が進み、競争が激しく見える環境の中で生活し、投資を行っているが、現在同時にインフレ圧力も加速している。これは、米国の住宅市場や耐久消費財などに顕著に現れている。長期的なリスクフリーレートが1%付近で推移し、信用スプレッドがタイトな水準にあることを踏まえれば、割引率がさらに大きく低下することは考えにくい。現時点の収益力が限られている高成長株にとっては、金利がもたらす追い風が止んだことは、相対的に逆風となっているように見える。
 
もし金利が緩やかに上昇すれば、遠い将来のキャッシュフローへの依存度が低いクオリティの高い銘柄やバリュー株が、相対的に大きな恩恵を受けることになる(以前の記事『Resilient Recovery Stocks Transcend the Growth-Value Divide』(英語)ご参照)。皮肉なことに、石油・ガス生産会社のように、事業の限りある存続期間をすでに織り込んでいる企業にとっては、金利上昇の影響はほとんどないかもしれない。
 

安定した収益力が重要

金利の動向は誰にもわからない。しかし、景気サイクルが回復段階から拡大段階に移行する中では、安定した収益性の高いビジネスモデルを重視することがとりわけ重要になる。総資産利益率(ROA)に基づく収益性の高い企業は、その後何年にもわたってそうした状態を維持できる傾向があるのに対し、収益性の低い企業は失速する可能性が高いことを示す証拠がある。
 
金利が上昇した場合(それによって資本コストや、将来のキャッシュフローを評価するために用いられる割引率が上昇した場合)、ROAや投下資本利益率(ROIC)など収益性に基づく指標は、特に質の高いビジネスモデルを見極める上で役立つとABでは考える。
 
景気回復が続き、市場のバリュエーションが押し上げられる中、投資家はパンデミック後の世界で着実にリターンを創出できる、持続的なビジネスモデルを持つ企業に焦点を当てる必要がある。クオリティをファンダメンタル分析の中核に据えれば、変化する経済サイクルを通じてより安定したパフォーマンスを提供する能力を備えたポートフォリオを構築することができるだろう。
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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