中国株は、教育及びテクノロジー関連の企業に対する規制による締め付けが厳しくなる中、急落している。政府の既存ビジネスに対する介入に懸念が高まっているものの、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は中国株から資金を引き揚げるべきではないと考える。とりわけ、相対的に規制リスクがそれほど重大ではない、中国本土の証券取引所に上場している人民元建て株式(中国A株)市場への投資は続けるべきだろう。
 
投資家は中国株の急落のスピードと規模に衝撃を受けている。香港企業と香港に上場している中国本土の企業(H株)などで構成される香港ハンセン指数は、2021年7月26日と27日の2日間で米ドルベースで8.4%下落した。これは2008年に発生した世界金融危機以降で最大の下げ幅である。中国のハイテク関連株が突出して下落し、ハンセンテック指数は3営業日で14.2%の下落を記録した。2021年7月は、中国A株市場の株価指数であるCSI 300指数は、それら指数よりも悪影響は軽微だ(図表)。
 
中国A株はオフショア市場のテクノロジー比重の大きい指数よりも悪影響は軽微.png
 
2020年の新型コロナウイルス感染拡大に伴う暴落からの回復において世界の市場をけん引してきた中国株は現在、新たな負の連鎖に直面している。中国政府の行動が予測不能であることから、多くの投資家が、株式に投資する際の適切なリスク・プレミアムの設定は不可能に近いと感じている。
 

引き金: 民間教育産業に対する締め付け

今回の暴落は、急激に伸びている民間教育産業への新たな規制が引き金になった。中国の規制当局が営利目的での学習塾事業の禁止を打ち出したことが契機になって民間教育関連株が急落し、市場に衝撃が走った。今回の動きは、電子商取引や食料品配達、配車サービスなど、成長が著しいビジネスへの規制強化がなされてまだ日が浅い中での出来事だった。
 
ろうばい売りは広範に及んでいる。投資家は、中国政府が他の人気の高い業種でも規制を強化する可能性を織り込んでいる様子である。そして、大量売りはオフショアの中国クレジット市場や為替市場にも広がっている。
 

政府の規制: 3つのターゲット

民間教育以外にも、近年市場でもてはやされてきた成長著しい業種が多岐にわたり政府による規制の対象になり得ると投資家は警戒している。そうしたことから、今回の売り局面ではテクノロジー関連企業や不動産関連企業も大きな痛手を受けた。ABの見解では、最近の政府による介入は、3つの領域においてトラブルメーカーだとみなされている企業に集中しているように見える。
 
+ 国家の安全または国家の威信:例としては、中国国民に関する膨大な量の貴重なデータを蓄積している中国のインターネット企業で、米国市場に上場している企業が挙げられる。
 
+ 社会の調和:政策当局の社会政策に反すると見られている企業は、政府に目をつけられている。学習塾がこの区分に該当するのはなぜだろうか。それは、これらのサービスは親の財布や子供の負担になっていると考えられているからだ。他にも、食料品配達のプラットフォームや不動産管理など、サービス提供に当たり多くの労働力を必要とする 企業が例として挙げられる。これらの企業は、従業員への賃金を引き上げるよう政府から迫られる可能性がある。巨大ハイテク企業も、独占的な行動が社会にとって有害であると見られているため、ターゲットになる可能性がある。
 
+ 政治的異分子:中国を統治する共産党を批判して一線を越えたとみなされた企業や豊富な資金を有する大物実業家は、反感を買いかねない。例えばジャック・マー氏は、2020年末に予定されていたアント・グループの新規株式公開(IPO)に先立って金融当局を批判したことから窮地に立たされ、同IPOは規制当局によって止められた。
 
 

過去の中国の規制

上述の3つのポイントは、国外の投資家にしてみれば強硬的で思いも寄らないものだと感じるかもしれない。しかしながら、過去に照らして見ると、中国経済においては強引な規制は極めて普通のことである。つまり、こうした事態は何も初めてのことではなく、よくあることなのである。
 
攻撃的な規制は、極端に速いペースで進んだ成長に伴う結果という面もある。中国ではこの20年、多くの業界が、政府による監督の整備が追い付かないほど急速に発展した。それらの業界や企業が発展するにしたがい多くの規制の枠組みが時代遅れになり、その結果、民間企業が急成長を遂げて巨大企業へと変貌した後にルールを急いで変えなければならなくなったのだ。
 
そのような業界は枚挙にいとまがない。2004年から2005年にかけて規制当局は、市場混乱の原因になっていた小規模で経営状態の悪い製鉄所を厳しく取り締まった。2008年には中国の食品会社が、安全性に関する相次ぐ不祥事を受けてターゲットになった。次は銀行が目をつけられ、2010年、規制当局は銀行部門における負債の膨張抑制に動いた。そして2016年から2017年にかけては、偽造ワクチンや偽造薬品を原因とする死亡事故が相次いだことを受けて、製薬会社が監視の対象になった。
 

中国A株市場の利点

過去の記録は、足元の売り相場に伴う痛みを和らげてくれるわけではない。ただし、足元のボラティリティに関して重要な観点を提供してくれるとABでは考える。中国への資産配分の見直しを進めている投資家においては、長期的な視点に立つことを提案する。最近は厳しい規制による締め付けが相次いでなされていることは確かだが、政府が方針を転換して市場の鎮静化に舵を切り、規制を若干緩和する可能性もある。実際、2018年はそうした展開になり、中国A株市場で同じようにろうばい売りが広がると、習近平国家主席自らが民間企業を支援するとの方針を表明したのである。
 
実のところ、ここ最近の展開により、中国A株市場は魅力度が一層高まっているとABでは考える。まず、中国本土の市場に上場している株式は、上述の規制に巻き込まれる可能性が低い。中国A株企業については、国家安全上の問題や変動持分事業体(VIE)(Nikkei Asiaの記事ご参照)を巡る論争は存在しない。次に、多くの中国A株企業は生活必需品や資本財・サービス、素材など成熟産業に属する会社であり、これらの産業では既に確固とした規制の枠組みが整えられているという点が挙げられる。
 
規制はプラスの影響ももたらす。市場は新たな規制による負の影響を心配しているが、中国の政策により実は恩恵を受ける業界や企業も存在する。例えば、2030年までに炭素排出量を縮小基調に転換させ、そして2060年までにカーボンニュートラルになるという中国の表明により、電気自動車のサプライヤーから太陽光エネルギー設備のメーカーに至る企業にとっては、利益を押し上げる追い風となる(以前の記事『中国のカーボンニュートラル計画を読み解く』ご参照)。同様に、テクノロジー分野において自立するという中国の積極的な戦略的政策により、国内の半導体メーカーが活況を呈している。実のところ、オフショア市場で中国のニューエコノミー関連株が売られたなかでも、政策による恩恵を受けるとみられている多くの企業はそれに反して値上がりしていたのだ。
 
中国の次の規制強化がどのようなものかを予想することは不可能である。しかし明確な枠組みを頭に入れておけば、規制の動きによる影響を最も受けるであろう企業を特定し、それらの銘柄を避けるか、またはファンダメンタル分析においてより高いリスク・プレミアムを適用して適切な価格でそれらの銘柄を買うこともできる。足元の市場の混乱がいずれ収束した時には、中国市場はなお、入念に銘柄を選別する投資家に対して、底堅いビジネスモデルと力強いリターンをもたらす可能性を有し、規制上のハードルを乗り越えて成長できる企業への魅力的な投資機会を提供するだろう。
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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