世界の株式市場は2021年7-9月期の大半を通じて上昇したが、9月は不安定な動きの中で上昇分をほとんど失った。新型コロナウイルスの打撃を受けた世界において株式のリターンをけん引する要因が急速に変化する中、回復の先行きを巡る不透明感を投資家が効果的に乗り切る上で、アクティブ運用マネジャーが役に立つとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では考える。
 
MSCIワールド指数は2021年7-9月期に現地通貨ベースで0.6%上昇し、年初来のリターンは14.9%に達した。しかし、9月には3.7%下落し、投資家の懸念が浮き彫りになった。中央銀行の政策とインフレの高進がマクロ経済に関する主な懸念要因となる中、米国の10年国債利回りは9月に上昇し、7-9月期末には1.5%前後で推移した。7-9月期初めには、中国における規制措置と中国恒大集団(エバーグランデ)の危機による衝撃が世界全体に広がった。先進国の株式市場では、スタイル別のけん引役が8月にバリュー株からグロース株にシフトした後、7-9月期末にかけて再びバリュー株に戻った。世界的に成長の回復が続く一方で、デルタ変異株の影響で世界がパンデミックから脱却する道のりに不透明感が漂っている。
 
投資家は見通しが定まらないこうした状況の中で、株式ポートフォリオをどう構築すればいいのだろうか?カギとなるのは、不確実性を乗り越えられるビジネスモデルを持つ企業をターゲットとする一方で、リスクにさらされやすい企業を避けることである。この原則は常に重要だが、市場の流れが変化する中で、規律ある銘柄選択がもたらすメリットは一段と鮮明になるだろう 。
 

7-9月期はリターンのパターンが変化

日本株式は7-9月期に現地通貨ベースで5.3%上昇し、先進国の株式市場をけん引した(図表1、左図)。米国の大型株式は7-9月期としては0.6%上昇したが、9月は4.7%下落し、月間のリターンが2021年1月以来初のマイナスとなったばかりか、2020年3月以来の大幅な下げとなった。新興国の株式市場は中国株式の下げが響き6.7%下落した。
 
日本株式がアウトパフォームし、金融とエネルギーのセクターが9月以降の回復をリード.png
 
セクター別では金融とエネルギーが7-9月期の終盤に回復し、リターンをけん引した(図表1、右図)。情報技術セクターは7-9月期の大半を通じて堅調に推移したが、9月には下げに転じた。先進国のスタイル別リターンは、当初はグロース株が優勢だったが、その後はバリュー株にけん引役がシフトした(図表2)。しかし、株価が下落した新興国ではバリュー株がアウトパフォームした。
 
先進国ではグロース株の上昇が鈍化し、新興国ではバリュー株がけん引役に.png
 

金融政策とインフレ

9月の株価下落は、金融政策を取り巻く環境が変わりつつあることへの不安が一因となった。韓国、ハンガリー、ノルウェーの中央銀行が政策金利を歴史的な低水準から引き上げ、金融政策が変化していることを示す初の具体的な兆しとなった。欧州中央銀行(ECB)は「パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)」を打ち切る準備をしているほか(以前の記事『ECB Strategy: Has the PEPP Had Its Day?』(英語)ご参照)、米連邦準備制度理事会(FRB)は11月に資産購入プログラムの段階的縮小(テーパリング)に着手する考えを示したほか、2022年には金利を引き上げる可能性を示唆した。
 
しかし、これまでのところ、本格的なテーパータントラム(金融緩和縮小に伴う金融市場の混乱)は起きていない。市場が大きく動揺した日もあったが、投資家はパンデミックの間に続けられてきた異例の金融政策が間もなく終了するという現実に少しずつ適応しているようだ。
 
だが、特に多くの産業におけるサプライチェーンのひっ迫で物価が上昇していることから、インフレが現実的な脅威となっている。欧州では8月のインフレ率が3%に達し、ECBの目標である2%を大きく上回った。イングランド銀行は英国のインフレ率が2022年4-6月期に4%を超える可能性があるとの見通しを示したほか、米国ではFRBが2021年のインフレ率の見通しを4%に修正した。世界中の企業はこうした動きに注目しており、決算説明会では例年になくインフレに関する言及が多かった。
 
マクロ経済や政策のトレンドは重要な意味を持ち、株価やリターンのパターンを左右する。例えば、高成長株は一般的に、低成長株やバリュー株よりも金利上昇の影響を受けやすい。だが、長期的な企業収益にほとんど影響を及ぼさない目先のマクロトレンドを予想することは、賢明な投資アプローチとは言えない。むしろ、投資家は市場の方向性について考えるよりも、ポートフォリオをマクロ面のリスクから守ることを重視すべきである。アクティブ運用は、政策や金利、インフレがどうなろうとも、好業績を達成できる企業を見つけ出すことに貢献できる。
 
確かに、ABのリサーチに基づけば、4%を上回るインフレ率が長期化すれば株式のリターンが低迷する可能性がある(以前の記事『Stocks Can Surmount a Return of Inflation』(英語)ご参照)。しかし、インフレが一過性のものか長期間持続するかにかかわらず、投資家はインフレを理由に株式投資を避けるべきではない。いずれにせよ、インフレの視点は企業リサーチに体系的に取り入れる必要がある。インフレ環境下においては、真に価格決定力を持つ企業はそうでない同業他社に比べ、はるかに好業績を上げることができそうだ(以前の記事『インフレが忍び寄る中、価格決定力を持つ企業を探し出す』ご参照)。インフレになれば原材料価格の上昇で打撃を受ける企業があるかもしれないが、コモディティ、不動産、銀行など、インフレが追い風となる企業もある。アクティブ運用マネジャーは、インフレの世界で生じる複雑な状況に備えた株式投資を提供することができる。
 

中国が抱える二重の課題: 投資は安全か?

中国から生じるリスクにも積極的に対処する必要がある。中国における最近の動きは、世界2位の経済大国である中国に対する投資家の信頼感を揺るがしている。7月には、教育及びテクノロジー関連の企業に対する規制強化を受けて中国株式が下落した。9月には中国恒大集団(エバーグランデ)の債務問題を受け、不動産セクターや中国の金融システムの安定性に対する懸念が急激に高まった(以前の記事『中国恒大集団のたどる道は「中国版リーマン・ショック」とは異なる』ご参照)。
 
中国恒大集団問題の波及を懸念することは理解できる。しかし、デフォルトは債券保有者に打撃をもたらし、ボラティリティを押し上げる要因にはなるだろうが、中国の銀行システムはおそらくその圧力に耐えることができる。中国政府が中国恒大集団を救済するとは考えにくいが、不動産セクターの崩壊を防ぐための措置は講じるだろう。中・長期的に見れば、中国恒大集団のような持続不可能な企業を整理することは金融システムの健全性にとって好ましいことで、特にその過程でリスク評価に関する規律が導入されれば、なおのことそう言える。それは銘柄選択の上で透明性が高まることになる。
 
今夏に見られた中国の規制に関する動きは、その背景についても理解しなくてはならない。中国が予想外の規制を打ち出すのは目新しいことではない。中国はここ数十年で急速な成長を遂げたため、規制当局は、光のような速さで発展した新産業に対応するため規制を変更することが多い。
 
先進国でも規制の動きは予想できないが、選別眼を持つ投資家は、特に生活必需品、資本財、素材といった中国の成熟産業において、規制の標的となりにくい企業を見つけ出すことができる(以前の記事『中国本土株は市場の混乱に巻き込まれるか?』ご参照)。規制の影響を受けやすい魅力的な企業については、ファンダメンタル分析を行う上で高いリスクプレミアムを適用し、適切な価格で購入することが重要である。また、中国政府が「共同富裕」政策の推進や炭素排出削減を目指す中で、新たな規制は一部の産業や企業にプラス効果をもたらし、投資機会を生み出しているようだ。
 

バリュエーションや集中リスクに関する見解

中国は先進国市場とはかけ離れているように見えるかもしれないが、共通点もある。中国のテクノロジー・セクター及び消費セクターの巨大企業が持つ支配力に対する懸念の多くは、米国の規制当局も同じように感じている。最近の中国株式の急落局面では巨大企業の一部が最も大きな下げに見舞われたが、これは投資家の人気を集めている米国の巨大企業にとっても警鐘となりそうだ。
 
高成長を遂げている米国の巨大企業の株価が9月に下落したことは、市場における集中リスクにさらに留意する必要があることを思い起こさせた。7-9月期末時点では、アップル、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、アルファベット(グーグル)、フェイスブックの大手5社はS&P 500指数の22%、ラッセル1000グロース指数の37%を占めている。米国では、時価総額上位10社は他のS&P 500指数構成銘柄よりも57%割高で、バリュエーションのプレミアムは2019年初めから倍に拡大した。MSCIワールド指数では、上位10社のプレミアムは65%に達している(図表3、左図)。
 
米国以外では、MSCI EAFE指数の時価総額上位10銘柄はそれほど割高ではなく、指数に占めるウェイトもあまり高くない。しかし、米国では市場の集中度が高いため(図表3、右図)、グローバルまたは米国の銘柄で構成するパッシブ指数を購入する投資家は、大きなプレミアムが付与されている銘柄のウェイトが非常に高くなる。米国の巨大企業は魅力的な成長ストーリーを提供してくれるが、投資家はそれぞれの企業をリサーチし、規律ある投資アプローチに基づき、分散されたポートフォリオの中で一定のウェイトでそうした銘柄を保有すべきである。少数の超大型株式のウェイトを高めすぎれば、今夏に中国で見られたように巨大企業に対するセンチメントが一段と悪化した場合、ポートフォリオが重大な影響を受けることになりかねない。
 
時価総額上位10銘柄は他の銘柄に比べ大きなプレミアムが付いている.png
 
アクティブ運用の投資家は、こうしたリスクを念頭に置きながらポジションを構築することができる。ポートフォリオは、バリュエーションが妥当な水準にあり、高い成長力や回復の余地を備えたセクターや銘柄をターゲットとすることができる。地域別のエクスポージャーは、さまざまなバリュエーションを考慮して調整することが可能である。また、ビジネスの潜在力だけでなく、例えば自社株買いや配当を通じて投資家に価値をもたらしそうな企業を把握するために資本政策について分析する上でも企業リサーチを活用することができる。企業リサーチに環境・社会・ガバナンス(ESG)要因を組み入れることで、幅広いステークホルダーに利益をもたらし、持続可能な成長を支えるために行動を変えつつある企業に関する情報を得ることが可能になる。
 

持続可能なリターンの創出源を探る

株式市場の上昇は持続可能なのだろうか? 2021年1-9月期に力強い上昇を遂げた後とあって、調整のリスクを無視すべきではない。しかし、債券と比較すれば、株式は依然として長期的に他の資産では得られない魅力的なリターンをもたらす可能性を秘めており、たとえ短期的に下落したとしても、長期的には高いパフォーマンスが期待できるとABでは考えている。
 
株式と市場は一枚岩ではない。投資家はグロース型やバリュー型のポートフォリオの双方に同じく利益をもたらすディフェンシブな企業から質の高い企業まで、今日の株式市場における幅広い可能性を発掘するため、多くの戦略を活用することができる。投資家はあらゆるリサーチツールを活用することにより、マクロ経済や政策の風向きに左右されにくい投資の知見に基づき、企業が長期にわたり自らの運命をコントロールできる能力について確信度を高めることができるようになるだろう。
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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