2021年の世界の株式市場はサプライズに満ちた中で力強く上昇した。新年を迎え、おそらく唯一の確かなことは、2022年もさらに多くのサプライズが待ち構えているだろうということだ。投資家はマクロ経済、新型コロナウイルスのパンデミック、地政学的リスクなどに関する予期せぬ事態に、どう備えることができるのだろうか?

2021年はたびたびボラティリティが高まったにもかかわらず、MSCIワールド指数は現地通貨ベースで24.2%上昇した。けん引役となったのは米国の大型株(図表1、左図)で、米連邦準備制度理事会(FRB)が2022年に金融引き締めを加速する計画を明らかにした12月下旬以降も、上昇トレンドは途切れなかった。中国株が低迷する中、先進国市場が新興国市場をアウトパフォームした。セクター別では、エネルギー、テクノロジー、金融などのセクターがアウトパフォームした一方で、公益事業などディフェンシブなセクターはさえなかった。

スタイル別のリターンは反転を繰り返した。5月まではバリュー株が上昇したが、その後12月までグロース株が主導権を取り戻した。その結果、世界のバリュー株とグロース株は通年のリターンが同水準となった(図表1、右図)。一方、米国では小型のバリュー株が小型のグロース株を大幅にアウトパフォームした。投資家がディフェンシブな銘柄を敬遠したため、MSCI ワールド最小分散指数はアンダーパフォームした。

米国の大型株が上昇をけん引:2021年はバリュー株が好調に推移.png

2021年は多くの予想が外れた

2021年初めには、米国株がさらに大幅な上昇を遂げることや、テスラの株価が急伸してメガキャップの仲間入りをすると予想していた人はほとんどいなかった。インフレ圧力の背景となったサプライチェーンの混乱は予想外の事態だった。ワクチンで新型コロナウイルスを封じ込めることができるとの期待は時期尚早で、オミクロン株の出現で感染が急増し、パンデミックは3年目に突入した。マクロ経済や市場の動きは、コンセンサス予想からかけ離れた結果となった(図表2)。

2021年は市場とマクロ経済の動きが予想から大きく外れた.png

予想と現実が極端にかけ離れたのは、我々が生きている今の時代を反映した結果かもしれない。世界的なパンデミックや、景気浮揚を目指して導入された異例の金融・財政政策は、これまでどの投資家も経験したことがなかった。投資家は攻略本を持っていないため、最近のトレンドが将来も繰り返されると考えるのは危険である。長期的な投資家にとっては、気まぐれな市場予想に頼るよりも、個々の銘柄を動かしているビジネスの力に注目し、マクロ経済の動向がそれらの銘柄にどんな影響を与えうるかを見極める方がはるかに効果的だとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では考える。

企業業績の拡大と経済のゆがみ

では、2021年はなぜ株価がこれほど好調だったのだろうか?簡単に答えれば、2020年に新型コロナウィルスによって引き起こされたロックダウンや深刻な不況から世界が脱却し、企業業績が全般的に予想以上に好調だったからである。好業績はバリュエーションを支えるファンダメンタルな要因となるため、これは投資家にとって良いニュースとなった。

しかし、2021年の収益に惑わされてはいけない。異例の好業績には、2020年の不況時の極端な政策対応によって生じた経済的なゆがみが反映されているケースがある。例えば、小売セクターの一部は、サプライチェーンの制約で消費者への値引きを抑えた結果、通常よりも利益が拡大した。状況が正常化すれば、高水準の収益を長期的に維持することはできなくなる可能性がある。信用状況に敏感な企業の場合、投資家は、消費者が低利息金で債務を返済できなくなる正常な環境では通常の収益がどの程度になるのかを見極めなくてはならない。原材料や半導体など主要な材料の価格は供給の制約が和らぐのに伴って下落し、生産者の利益が減少することになる。

インフレと金融政策の見通し

多くの企業にとって、インフレが大きくのしかかっている。米国の消費者物価は2021年11月に季節調整済みで前年比6.9%上昇し、40年ぶりの高い伸びを示した。他の多くの先進国でもインフレ率が急上昇している。

だが、インフレ率の上昇は必ずしも株式にとって悪いわけではない。需要の回復に伴う緩やかなインフレは通常、健全な経済回復の兆候となる。また、ABはインフレ率が2021年終盤のような極端に高い水準で定着するとは予想していない。賃金上昇が引き起こすインフレは長期間持続する可能性があるが、サプライチェーンの目詰まりが解消されれば、一部のインフレ圧力は和らぎそうだ。ABの調査では、過去50年間にわたり、インフレ率が2~4%の緩やかな水準にある時期には株式が好調なパフォーマンスを示してきた(図表3)。一方、インフレ率が4%を上回る環境では、米国株は歴史的に他の株式市場をアンダーパフォームしてきた。

インフレ率が緩やかに上昇する局面では株価は好調に推移.png

インフレを巡る難問は中央銀行の政策を左右する要因となりそうだ。執ようなインフレが予想以上に積極的な金融政策につながれば、株式が打撃を被る可能性がある。しかし、市場はすでに米国における緩やかな金利上昇見通しを織り込みつつある。2021年12月にジェローム・パウエルFRB議長が資産購入額の削減を加速し、2022年に3回の利上げを行う考えを表明した際にも、テーパータントラムは起こらなかった。また、政策の見通しは地域によって異なっている(以前の記事『金融引き締めに向かう各国の中央銀行』ご参照)。英国のイングランド銀行はすでに利上げに着手しているが、欧州中央銀行ははるかに緩やかな行動を取っており、インフレ圧力がそれほど強くない中では利上げを控えることを示唆している。

ABはファンダメンタルズに基づいて銘柄を選択する投資家として、金融政策の予想は行わない。しかし、さまざまなタイプの企業、ビジネスモデル、銘柄が、金融政策の変化によってどんな影響を受けるかを理解する必要がある。

何に注意すべきか?

弱気派はいくつかの不吉な要因を指摘している。2020年のパンデミックによる不況後の急回復からGDPが鈍化している中で、高インフレが持続すれば、中央銀行はわずか2~3カ月前に予想されていたよりも早期に金融を引き締める可能性がある。新型コロナウイルスの封じ込めに向けた努力はオミクロン株の急速な感染拡大で妨げられており、景気回復の次の段階を支える要因となる、これまで抑え込まれていた個人消費や企業の支出が一気に噴き出すタイミングが遅れる可能性がある。また、ロシアとウクライナの潜在的な対立、イランの核開発問題、中国と台湾の緊張といった地政学的な緊張が高まり、市場のセンチメントが悪化するリスクもある。

これらはすべて現実味のあるリスクだが、それでも2022年に弱気市場が訪れる可能性は低いとABでは考える。歴史的に見ても、ピークから底までの下落率が20%を超えるのは、経済が不況に陥っている場面である。インフレによって実質ベースの成長率が圧縮されたとしても、2022年は世界経済がプラス成長を維持すると見込まれている。ABのエコノミストは世界の実質GDP成長率について、2021年は5.9%、2022年は4.1%になると予想している。それは、企業業績をしっかり支える要因となろう。

バリュエーションと集中リスク

一方で、成長、インフレ、金利の急激な変化が、さまざまなタイプの株式のリターンに影響を与える可能性がある。

金利の上昇は、投資家が企業のキャッシュフローを評価する際に用いる割引率を押し上げる。そのため、特にキャッシュフローが発生する時期がかなり先になりがちな高成長株にとって、株価収益率が圧縮されるケースが多い。その結果、異なる投資スタイルの相対的なパフォーマンスは、インフレや金融政策の動向による影響を受けることになる。インフレ率の上昇と利上げペースの加速はおそらくバリュー株の追い風となる一方で、インフレの緩和や緩やかな利上げはグロース株に恩恵をもたらす可能性がある。2021年は大半の期間にわたってこうしたパターンが顕著に見られた。

いずれにせよ、巨大なグロース株が米国市場を支配しる状況は試練にさらされる可能性があるとABは考える。2021年には超大型株5銘柄が再びアウトパフォームした。その結果、米国株式市場、特にグロース株指数は引き続き大手5銘柄に投資が集中している(図表4)。それぞれの企業には利点があるが、この5銘柄に著しく大きなエクスポージャーをとっていれば、投資家はセンチメントが反転した場合に大きな痛手を被りかねない。むしろ、特に金利上昇によって割高な銘柄のバリュエーションが著しく圧縮された場合には、収益力や利益水準が高く、バリュエーションが相対的に魅力的な銘柄の方が、より耐久力のあるリターンを生み出すとABでは考える。

米国株式市場の集中度は依然として極めて高い.png

米国以外では、バリュエーションはさまざまである(図表5)。欧州と日本の株式は比較的バリュエーションが魅力的な水準にあり、各地域の景気回復が加速すれば好調なパフォーマンスを示すとみられるシクリカル銘柄へのエクスポージャー比率が高くなっている。また、欧州企業は過去最高水準のキャッシュを保有しており、株主に還元するため自社株買いの実施が広がる可能性があるとABではみている。

地域別のバリュエーションはさまざま.png

新興国市場では、2021年は中国株が一連の規制強化、不動産セクターの債務問題、成長減速懸念などで打撃を受けた。しかし、中国の政策当局者は、目先の成長を支えることと、「共同富裕」という目標を支える構造改革を推進することのバランスを取ろうとしており、一部の銘柄にとって回復を後押しする要因となる可能性がある。2021年は他の新興国市場やフロンティア市場の株式も好調なパフォーマンスを示しており、発展途上国全体で引き続き長期的に魅力的な投資機会を見つけ出すことができるだろう。

2022年に入り、投資家は自分の資産配分を確認すべきである。不確実性を踏まえれば、質の高い銘柄と妥当なバリュエーションに焦点を当て、異なる地域とスタイルへのエクスポージャーをバランスよく配分することが、2022年の戦略を成功に導くカギとなりそうだ。すべての株式ポートフォリオにとって、環境・社会・ガバナンス(ESG)問題に関する分析をファンダメンタル分析に取り入れることは、リターンをけん引する投資の知見を広める上で、ますます重要な役割を果たすことになろう。

サプライズに対処する戦略的手法

ビッグデータを利用したツールも優位性をもたらす可能性がある。例えば、ABのデータサイエンスチームは、サプライチェーンのホットスポットをリアルタイムで把握できるツールを開発した。また、掲示板型ソーシャルニュースサイトのレディットで人気を集めている銘柄について警告を発するアプリを導入し、ポートフォリオ・チームはそれを用いて投機的な動きに備えることができる。

市場環境が不透明な場面では、1つの原則が投資家の指針となり得る。それは、一時的な影響が薄れ、通常に戻った後に企業の収益がどう変化していくかを見極めることである。ビジネスやキャッシュフローが今後3~5年間にどう変化していくかを予想することで、マクロ経済や市場が予期せぬ事態に直面した場合に、投資家はその銘柄が予想どおりのリターンを創出できるかどうか確信を持って判断することが可能になる。短期的なサプライズに対処する上では、企業のファンダメンタルズに基づく規律あるプロセスを堅持することが最善の戦略であるとABは考える。

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