ウクライナでの戦争や新型コロナウイルスのパンデミックが混乱をもたらす中、多くの企業がサプライチェーンを見直している。株式投資家は、グローバリゼーションが進んでいない世界で競争に勝ち抜くため、どの企業が自社のプロセスを適応させることができるか見極める必要がある。
 
サプライチェーン問題の解決は、数十年にもわたるグローバリゼーションが進んだ後に企業が直面している最大の課題の1つである。企業は地政学的リスクにさらされているだけでなく、拠点を海外に移したり、業務を海外に委託する「オフショアリング」から得られる恩恵についても疑問が持たれている。海外の賃金が上昇しており(図表の左図)、自動化の進展もあり、本国で製造するための国内との労働コスト差は縮小している。輸送コストも高騰している(図表の右図)。米国企業にとって、国内のエネルギー・コストは海外よりもはるかに安い。また、米国と中国の貿易摩擦に伴う関税がコストをさらに押し上げる要因となっている。
 
「オフショアリング」はなお理にかなっているか?.png
 

このようなトレンドにより、オフショアリングの経済的合理性が失われつつある。一般的に言って、オフショアリングが理にかなうのは、本国よりも少なくとも20%安いコストで製品を生産できる場合である。企業や投資家はオフショアリングの合理性を再評価するのに伴い、サプライチェーンを巡るリスクの高まりを埋め合わせるため、オフショアリングに対してより大きな割安度を求めるかもしれない。ここで、製造業務などを海外から自国に戻す動きを先導している企業を見つけ出す際に株式投資家が注目すべき点をいくつか挙げてみたい。
 
設備投資がヒントに:企業が将来のためにどのように投資しているかは、将来の混乱を回避する目的で生産を新たな地域にシフトしているかどうかを物語っている。一部の業界では、顧客や収益との地域的な整合性を高めるため、製造設備に巨額の投資が行われている。
 
半導体業界はその先陣を切っている。インテルは最近、ドイツとアイルランドにおける新たな半導体製造施設に290億ユーロを投資する計画を発表した。同社は米国オハイオ州とアリゾナ州の新工場にも400億米ドルを投じている。台湾積体電路製造は日本とアリゾナ州に190億米ドルを投資するほか、ドイツでもさらなる投資を予定している。多国籍企業によるこうした規模の投資は、鉄鋼や建設機械など他の業界の利益を押し上げ、早い時期にその恩恵を受ける企業を見つけ出した投資家に利益を得るチャンスをもたらす。
 
サプライヤーの分散:ウクライナでの戦争により、一部の企業は深刻な供給問題に直面している。例えば、ボーイングとエアバスは、ロシア企業が圧倒的な供給力を握っていた航空機の機体やエンジンに用いられるチタン製品  の新たな調達先を求めて奔走している。欧米のチタンサプライヤーは、こうした変化を追い風にできる立場にある。航空宇宙企業への投資家は、調達先の分散を目指すこうした取り組みを注視する必要があり、それは業界のサプライチェーンに広範な変化が起こっていることを示唆している。新たな製品や原料を迅速かつ合理的なコストで調達することは、納期や業績見通しを達成する企業の能力を決定づける要因となり得る。
 
バランスシートの変化:一部の企業は、キャッシュフローを運転資金の増額やバランスシート上の在庫積み増しに充てることを計画している。これはメーカーにとって、短期的にキャッシュフローを圧迫する要因となる可能性がある。一方、サプライチェーンに組み込まれている部品の販売業者は、市場における価値が高まりそうだ。この傾向はすでに目に見える形で現れている。さまざまな業種における一部の販売業者は最近の業績が予想を上回っており、サプライチェーンの変化から恩恵を受け始めていることがうかがえる。
 
経営陣の質:サプライチェーンの再構築は戦略的な課題であり、強いイニシアティブや技術的革新、そして短・中期的なコスト増と長期的な利益のバランスを取る能力が必要となる。特に、目に見えない要因が違いを生む可能性があることを考えると、成功にとっては質の高い経営陣が不可欠である。人件費はこのパズルの大きな部分を占めているため、健全な企業文化を築いている経営陣は、優れたスタッフを確保する上で優位に立つことができる。
 
こうした問題に照らして企業を評価するには、アクティブ運用の投資アプローチが必要になる。株式投資家は企業が公表したことに依存するのではなく、適切な質問を投げかけなくてはならない。経営陣と対話すれば、投資家は企業の戦略的なビジョンを理解し、意思決定に影響を与えることができる。短期的な不安心理に左右される市場では、長期的な視点を持つ投資家は、サプライチェーンを効率的に再構築し、長期的に優れたリターンをもたらす可能性の高い企業を見つけ出すことができるだろう。
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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