M&Aブームは起きつつあるのか?
合併・買収(M&A)市場に変化が起きている。金利上昇、不安定な価格変動、世界的な規制強化といった逆風が弱まり、市場のセンチメントは明るくなっているようだ。
一般的にM&Aの活発化が追い風となり得るマージャー・アービトラージ戦略の投資家にとって、これは歓迎すべき動きだ。近いうちにディールが活発化すれば、新たに長期にわたるブームが訪れる可能性がある。
金利の低下を受けてM&Aが急増した2021年にも、同じような動きが起きていた。前年の2020年は新型コロナウイルスの感染拡大で、M&A活動はほとんど停止していたが、2021年はマージャー・アービトラージ戦略のパフォーマンスは好調で、HFRI ED: Merger Arbitrage Indexは10.6%のリターンを上げた。だが、その後はM&A活動が落ち込んでいる。
魅力的な潜在力を秘めた戦略
マージャー・アービトラージ戦略では、裁定取引を行う投資家は提示されている買収価格に対してディスカウント価格(その格差を「スプレッド」と言う)で対象企業の株式を購入する。見込み通り合併が完了すれば、投資家はスプレッドを利益として受け取ることになる。
マージャー・アービトラージ戦略のアプローチを通じて得られるリターンは長期にわたり一貫して魅力的な水準にあり、シャープ・レシオ(リスク対比の(現金に対する)超過リターンで、投資効率を測る尺度)も高くなる。マージャー・アービトラージ戦略はドローダウンが小さく、伝統的資産や、バリュー、サイズ、クオリティ、モメンタム、低ボラティリティといったスタイルがもたらすプレミアムとの相関性が低いという特徴もある。そのため、マージャー・アービトラージ戦略はポートフォリオの分散先として大きな役割を果たしているとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では考える。
明るい兆し
米国と英国の独占禁止当局を率いる新たな幹部らは最近、ここ数年の合併審査プロセスが企業にとって過度の負担になっていると指摘している。米英の規制当局は、規制に関するアプローチをより負担が軽く、企業が取り組みやすい方法に変えていく考えを示唆している。
企業幹部らも投資家やアナリストに対する四半期決算の説明会で、M&Aへの関心を示し始めている。株価が上昇し、金利は安定または低下するなど、経済環境もさらなる追い風となっている。
しかも、新規株式公開(IPO)やスピン・オフ(事業分離)の増加、敵対的買収の試みなど、M&Aの活発度を表す主な指標はすべて上向いている。
ここ数カ月に起きたこうしたセンチメントの変化により、既存ディールのスプレッドは幅広く縮小している。かつては規制当局の否定的な姿勢でリスクが高いように見えたディールも、現在では承認される可能性が高まっているとみられており、取引完了までに要する時間も短くなっているようだ。
次の段階では、M&Aの件数も増加するとみている。しかし、ディールが計画されてから実行に移すまでに相応の時間を要するほか、刷新された規制当局が落ち着くまでにも時間がかかる。したがって、M&A市場がフル稼働の状態となる前に、短期間ではあるが投資機会が限られる局面が訪れる可能性が高いとABでは見ている。
ルールに則った投資行動: システマティック・アプローチ
今後、拡大する投資機会をうまく活用する方法はいくつかあるが、ABでは、現在の市場環境においては、いくつかの理由により、システマティックでルールに則ったアプローチが機能すると思われる。
まず、ディールが豊富で、市場心理が明るく、買い手同士の競争が激しい場合、マージャー・アービトラージ戦略にとって魅力的な環境と言える。その理由は、多くのディールが完了し、破談になってもそれほど痛手を被らず、さらには競争入札によってリターンが膨らむ可能性があるからだ。こうした環境をフル活用する最も効果的な方法は、幅広いディールに網をかけ投資を行えるシステマティックなアプローチだとABは考えている。
一方、マージャー・アービトラージ戦略を手掛ける投資家が直面する主なリスクは、ディールが破談となることだ。対象とするディール数が少ないファンダメンタルなアプローチに比べ、幅広く分散投資を行うシステマティックなアプローチでは、各ディール固有のリスクを分散できるメリットがある。そのメリットは、進行中のディールが増えるほど大きくなる。なぜなら、システマティックなアプローチではアナリストの人数やリサーチ能力の限界の制約を受けずに、適切なすべてのディールを投資対象にできるからだ。
最後に、コストも考慮すべき重要な要因だろう。システマティックなアプローチでは、ヘッジファンドから通常課されるような高い管理報酬や成功報酬を支払うことなく、合併へのエクスポージャーを構築できるため、コスト効率の高い方法と言えるだろう。
リスクを管理する: ボラティリティや貿易摩擦など
ABは今後、2-4年にわたってディール数が増えると予想しているが、当然、その見通しに対する潜在的なリスクにも注視している。それには、市場におけるボラティリティの高まりや金利の急上昇などが含まれる。
また世界的な貿易摩擦もリスクのひとつだろう。特に米国と中国の緊張が高まれば、海外の規制当局がディールの承認を控える可能性が高まりかねない。実際、1期目のトランプ政権では、そうしたケースがいくつか見られた。
しかし、金利が引き続き低下傾向をたどるとすれば、プライベート・エクイティが潤沢なドライパウダー(待機資金)を保有していることや、プライベート・クレジットからの借り入れといった選択肢が広がっていることを踏まえると、レバレッジド・バイアウトが増加しても不思議ではない。
全般的に見れば、規制当局がビジネスにより友好的な姿勢を示し、投資銀行や企業の経営陣が明るい見通しを表明していることは、当戦略の投資家が今後のリターンについて楽観できる理由になるとABでは考えている。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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