再生可能エネルギーの投資機会がどのように変わるのか、変わらないのかを検証する。
米国のドナルド・トランプ大統領が計画している租税政策や貿易政策によって、再生可能エネルギーの投資機会が変わるかもしれない。しかし、そうした政策によって投資機会がなくなることはないというのが、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)の見解である。
再生可能エネルギーは米国で最も急成長している発電方式であるほか、技術の進歩やクリーン・エネルギー・インフラへの投資のおかげで、最も安価な発電方式の1つにもなっている。連邦議会が中国製品に対する関税を引き上げた場合、それが変わるかもしれない。中国は、太陽光パネルや大規模な蓄電設備に用いるリチウムイオン電池の最大の供給国なのだ。
インフレ抑制法(IRA)で拡大された再生可能エネルギーの連邦税控除の一部を、トランプ大統領と連邦議会が縮小する可能性もある。IRAは2022年に制定されて以降、クリーン・エネルギーへの投資を大いに後押し、2024年7-9月期の投資額は過去最高の710億米ドルを記録している。
ただし、米国の政策は投資家にとって重要な検討事項であるものの、それだけが今後見込まれるリスクやリターンを方向づけるパワーを持っている訳ではない。州や地方自治体の政策も重要であり、第1次トランプ政権の間にはそれらがクリーン・エネルギー開発を促進するのに役立ったのだ。
太陽光や風力といった再生可能エネルギーは、現在では税優遇がなかったとしても、従来の発電に対して競争力を持っていると言える。
ABでは、プライベート・クレジット投資家は次の3点を留意すべきだと考えている。
1)電力需要は増加し続けるだろう
整備後60年が経過した米国の電力網は、すでに現在の需要を満たすのが困難になりつつあるが、生成人工知能(AI)の急成長を受け、需要は増加する一方である(図表)。
![](/app/wp-content/uploads/2025/02/More-Power-Demand-Less-Supply.png)
エネルギー・セクターのデータや分析を提供するウッド・マッケンジーでは、大規模言語モデルを搭載するAIソフトウェア向けに、データ・センターの収容能力を急拡大させる必要が生じ、それに伴って電力需要も2030年まで年率10~20%増加するだろうと予測している。
トランプ政権が製造業のさらなる国内回帰を重視する「米国第一主義」の政策をとれば、工業需要や商業需要を満たすべく電力供給を増やす必要性が、なお一層急速に高まる可能性がある。ABの見解では、これはつまり、再生可能エネルギーがそのソリューションの重要な部分であり続けるだろうということである。電力会社が石炭発電所の操業終了を先延ばしたり、天然ガス発電所の建設を加速させれば、従来電源も再生可能エネルギーとともに注目を集めるかもしれない。ただし、従来電源の発電能力を増やすには時間がかかる。
以上の点から、投資家にとっては結局、太陽光や風力についてまわる断続的な発電という問題に対処するのに必要な、大規模な蓄電設備に資金提供する新たな機会が生まれるということになる可能性がある。そうしたプロジェクト向けには概して資金提供ソリューションをカスタマイズする必要があり、多くの場合、銀行よりプライベート・レンダーの方が適切なソリューションを組み立てる柔軟性を有している。
2)開発フェーズの後期に注目する
米国の政策が変わる見通しであることを受け、既存プロジェクトの開発が加速する可能性がある。2025年が進むにつれ、IRAの再生可能エネルギー税控除を廃止または縮小する機運が高まる場合は特にそう言える。投資家はすでに関税引き上げを見越して、特定の種類の設備をセーフ・ハーバー・ルールに準拠させて税控除額を確定することにより、一般的な税法をうまく利用し始めている。米国の税法ではセーフ・ハーバー・ルールにより、たとえプロジェクトがまだ完成する前に税法が変わっても、開発者が実際の開発開始時期に基づいて税控除対象になることを認めている。
ただし、老朽化した電力網を補強する必要性は、IRAの税控除を全面廃止することへの疑問を引き起こすというのがABの見解である。IRAが多くの州 – 共和党支持州も民主党支持州のどちらにも – にもたらした投資や雇用創出を考慮しても同様である(以前の記事『米国の大統領選挙が再生可能エネルギーに与える影響とは』ご参照)。州レベルや電力会社の要求が強い潜在需要を作り出している領域である、商業用及び工業用の太陽光発電開発における投資機会は、存在し続けるだろうとABは考えている。
IRAが最終的に廃止される場合の税控除は、企業を混乱させないように段階的に廃止されるだろう。しかし、特定の再生可能エネルギー源は、全体的な電源構成の一部であり続けるとABは考えている。例えば、米国の大規模太陽光発電システムでは、投入原価や操業コストが減少したことにより、建設・操業・維持コストの平均が着実に低下している。税控除がなかったとしてもそうである。
米国以外の規制や投資の見通しは明確である。欧州では2024年に、太陽光や風力で発電した電力が化石燃料で発電した電力を上回った。そして、再生可能エネルギー市場は2030年までに2倍以上の規模に拡大する見通しである。
3)取引の返済順位構造が重要である
クレジット投資家は元々、物事がうまくいっている局面でさえ、何がうまくいかなくなる可能性があるのかに注目する傾向がある。ABは多くの理由から再生可能エネルギーの見通しが引き続き良好だと考えているが、米国の新政権がとる政策の詳細が明らかになるまでには時間がかかるだろう。そのため、今後数カ月間は、債権者の間で「ウォーターフォール」として知られる返済順位構造のどこに投資家が入るかが重要になる可能性がある。
再生可能エネルギーをめぐる米国の逆風や不透明感を考慮すれば、高リスク投資では、ウォーターフォールの返済順位上位に入ることの意義が増すかもしれない。そうした構造では順位が高い投資家は全額払い戻しを受け、その後、順位が低い債権者には元本のみが払い戻されるのだ。
投資家は2025年には、新たな政策が具体化されるにつれ、投資機会を厳選しなければならなくなる可能性がある。しかし、主な再生可能エネルギー技術の投資機会は、大規模な太陽光発電や蓄電設備を含めて存在し続けるとABは考えている。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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