グローバルな再生可能エネルギーの潮流は各国の政治をしのぐ。

米国のインフレ抑制法によって再生可能エネルギーの投資機会が拡大している。そうした流れが、米国の大統領や議員が新しくなることによって変わりうるのか?アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)ではそうは考えていない。

同法が成立してからの2年間で、米国内での再生可能エネルギー関連の取り組みが増している。連邦税の控除対象である投資の控除額が同法によって増えたことがその主な背景であり、電気自動車(EV)、太陽光・風力発電、電力を蓄えるのに必要な実用規模のバッテリーがそうした投資に含まれている。

同法は2022年にもっぱら民主党の賛成票で成立したが、共和党が2024年の11月にある大統領選挙と連邦議会選挙に勝てば、同法の条項の一部が改訂されるかもしれない。

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米国内とその他海外の議論は異なる 

ABでは、インフレ抑制法が全面的に廃止される可能性は低いと考えている。なぜなら、再生可能エネルギーや民間企業が手掛けるエネルギー管理ソリューションは、すでに米国社会に実装されつつあり、不可逆的で未来志向のインフラとなりつつあるからである。再生可能エネルギーは、今や米国の電力網の極めて重要なパーツとなり、しかも、一部ではすでに化石燃料より低いコストとなっている。加えて、再生可能エネルギーが拡充することで、米国経済がさらに強くなる可能性もある。

化石燃料からの移行は新しい話ではない。政党の枠組みも超えた流れにある。どちらの政党が与党となろうとも、2001年から2022年までの期間を見て、米国の年間炭素排出量は着実に減少してきた。同じ期間には原油・天然ガスの生産量は増加したが、クリーン・エネルギーの生産能力も確実に増加している。

さらに、米国が他の国々と同様に、2050年までに温室効果ガス(GHG)の実質排出ゼロ目標を達成するとコミットしていることから、選挙結果にかかわらずクリーン・エネルギー源への依存は高まるとABはみている。

インフレ抑制法によって投資するインセンティブが増加

インフレ抑制法が成立する以前は、生産及び投資税控除の対象が主に太陽光・風力といった特定のセクターに限られたほか、連邦議会がたびたび関連法を延長しなければならなかった。

インフレ抑制法によってそれらの税控除期間が少なくとも10年延長されたことから、開発業者や投資家は見通しが立てやすくなった。また、他の資産クラスも税控除の対象に含まれるようになり、控除額が増えるケースも出てきた。状況次第では、控除額の合計が投資総額の半分以上になる可能性があることも見逃せない事実である(図表1)。

それらの税控除により、高金利下の現在でさえ、太陽光・風力を含めた再生可能エネルギーのさまざまなプロジェクトの建設コストが低下している。また、そうしたプロジェクトに資金提供する公的ないし民間の投資家において、リターン創出の機会が増している。 

今後、有望な投資先とは

主に焦点となるのは、整備後60年が経過し、現代の電力ニーズを満たすのが困難になりつつある米国の電力網の更新を伴う領域である。例えば、EVバッテリーの充電では、電力網から1時間足らずで最大150キロワットの電力を引き込む可能性がある。これは100ワットの電球1,500個分に相当する。商業用、産業用、実用規模のバッテリー貯蔵施設は、増加する電力需要を満たすのに役立つと同時に他の重要なサービスも実現し、投資家にとっても魅力的な投資機会を提供することができる。

おそらく最も重要なのは、バッテリーを用いてリアルタイムの配電を管理すれば、電力網を安定かつ信頼できる状態に保つのに役立つという点である。悪天候や山火事のような事象で、停電を引き起こしかねない突発的な需要の急増を防ぐのにも役立つ。 

また、バッテリーが、相対的に費用がかさむインフラへの投資に取って代わる可能性もある。電力網に制約がある地域にバッテリー貯蔵施設を設置すれば、送電線や配電線を新設するよりはるかに高いコスト効率で、電力のボトルネックを減らすことができる。

そうした巨額のインフラ投資の主な資金源は米国の銀行である。しかし、規制が厳しくなったことから、プライベート市場の貸し手が資金提供する機会が生まれている。担保を供する太陽光や貯蔵プロジェクトに融資を行うか、開発業者が税控除を利用する際に貢献するプライベート・クレジット投資家にとってはプロジェクトが創出するキャッシュフローと税控除の組み合わせが、魅力的なリターンをもたらす可能性がある。

再生可能エネルギー以外の機会

また、複数年にわたる設備投資計画で行う電力網更新の費用を賄う必要がある電力会社のなかにも、パブリック・デットの投資機会があるとみている。透明性が高い構造で、信頼性の十分高い計画を有する、ESG(環境・社会・ガバナンス)債に分類される債券にも投資妙味があると考える(以前の記事『ESG-Labeled Bonds: Quality Over Quantity』(英語)ご参照)。

したがって、再生可能エネルギーはそうしたストーリーの一部でしかない。多くの事業会社は、調達するエネルギーにも考慮して、炭素排出量を減らそうとしている。そのため、そうした企業の低炭素化に貢献する企業には事業機会が増える。例えば、エネルギー効率が高いビルを建設する際に、スマート・グリッド技術を提供する企業や、電力網を再生可能エネルギーの生産施設につなぐ高圧線の製造業者などに、事業機会が増えることとなり、株式投資においても魅力的な投資対象となりえる。

変わる可能性があるもの、そしておそらく変わらないであろうもの

2024年11月の米国大統領選挙で共和党トランプ氏が再選となれば、以上のような一連の投資機会に変更がなされるかもしれない。そしてしばらくの間、関連投資への不透明感が増す可能性もある。新たに就任する大統領が、インフレ抑制法のEV補助金などを一部ないしすべて変えるかもしれない。もしくは、予算編成において他の政策や減税といった優先事項にポリティカル・リソースを再配分するかもしれない。

しかし、誰が大統領となったとしても、ABがおそらく変わらないとする見解は、老朽化した電力網の補強ないし更新しなければいけないという喫緊の課題は、引き続き政策に盛り込まざるを得ず、次のいくつかの理由から、インフレ抑制法の全面的な廃止を困難なものにする、ないし新たな形で投資を促進する法案になると考えられる。

□  再生可能エネルギーの雇用:ゴールドマン・サックスによれば、同法の施行初年には、米国の45州で再生可能エネルギー・プロジェクトが280件発表された。それらは新規投資額にして約2,800億米ドルに相当し、そのうち2,250億米ドルは共和党支持者が多い地区への投資だったほか、15万人分の新規雇用を創出する可能性があり、そのほとんどが共和党に投票する傾向がある州での雇用だった。 

□  地域に及ぼす広範な影響:同法がさまざまな地域に及ぼす可能性がある影響を考慮すると、共和党議員が最近、仮に下院の主導政党が変わってもクリーン・エネルギー税控除を維持するよう、下院指導部に求めた理由が理解できる。電力会社が2050年までにGHGの実質排出ゼロを達成することを目指し、天然ガスや石炭を燃料とした発電所を閉鎖するにつれ、クリーン・エネルギー投資を促進するには税控除が欠かせないと認識されている。したがって化石燃料会社自体も、排出炭素の回収やグリーン水素を含めた、税控除に裏打ちされた他のプロジェクトに取り組んでいる。

□  世界中の開示要件:米証券取引委員会(SEC)の気候関連開示規則がたとえ廃止されても、米国企業は引き続き、世界中の国・地域が義務化している気候関連開示要件を配慮せざるを得ないだろう(図表2)。連邦法であるインフレ抑制法の一部を緩和しても、州レベルではそうはいかない。カリフォルニアを筆頭にいくつかの州では、GHGの排出量及び気候関連リスクを開示するよう、上場企業に求めている。米国は連邦政府より州政府の方が力が強く、米国内でビジネスを続けるのであれば、そうした州法は無視できない。

通常、選挙結果には政策の帰結があり、来たる米国の選挙も例外ではない。したがって、その後の法案の改訂、新法などにより、細かい修正を余儀なくされる可能性はあるものの、クリーン・エネルギーの開発投資に関して言えば、もはや不可逆的であり、世界はすでにその流れに乗っている。したがって、投資においても大局観をもって積極的に機会を探っていく必要があると考えられる。

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