ESGの取り組み

世界各国の政府、規制当局、消費者は、炭素ベースのエネルギー源から再生可能なエネルギー源への移行を強く推し進めており、こうした移行は、世界経済や移行を推進する企業に大きな影響を与える。投資家や企業は、気候変動と移行に伴うリスク及び機会を分析し、管理するフレームワークを必要としている。

GHGの大量排出企業は低炭素社会に移行するなかで複雑な課題に直面する。ABは、これらの企業との建設的な対話が、適切な戦略策定ひいては投資家のリターンを後押しすることを経験してきた。

企業は気候変動リスクの圧力に直面

国際エネルギー機関(英語、外部サイト)によれば、エネルギー生産が炭化水素に依存しなくなるにつれ、石油及びガスの需要が2030年までにピークを打つ見通しである。これは、重工業にとってさまざまな事業リスクを引き起こすシナリオと言える。炭素の大量排出企業は、事業を脱炭素化せよという政府やステークホルダーからの圧力にさらされている。また、数多くの新たな政策、規制、報告義務に適応しなければならない。融資の確保(英語、外部サイト)や保険の契約(英語、外部サイト)が難しいことから、資金の手当てが割高になる可能性(英語、外部サイト)がある。さらに、製品が陳腐化するほか、更新されないかもしれない資産が古くなって価値が下がる。

しかし、これらの課題は、新たな技術を導入したり、競合他社に対する競争力を向上させる動機づけにもなるものである。

エクスポージャーの評価:一貫したアプローチの構築

気候変動は、企業のビジネスモデルや経営の多くの側面にポジティブ・ネガティブ両方の様々な影響を与える可能性があり、ポートフォリオにおけるこうしたリスクの分析及び管理は単純な作業ではない。

ABの気候変動アラインメントフレームワーク(英語(Climate Transition Alignment Framework)の頭文字をとって「CTAF」)は、気候変動のリスク及び機会を特定するという課題に取り組むアプローチの1つであり、専門家や業界団体が奨励するいくつかの類似フレームワークから着想を得ている。ただし、CTAFが意図しているのは、実質排出量ゼロを達成するための必須手段になることでも、カーボンフットプリントなどの単一の実績指標を通した気候変動リスクの評価方法になることでもない。むしろ、CTAFは、将来の低炭素社会で前進するための企業独自の道筋について、ABが理解を深めるのに役立つものである。

具体的には、多大な影響を受ける(航空、自動車、エネルギー、公益など)特定の業界の企業を特定することから始める。アクティブ運用の株式及び債券ポートフォリオでは、それらの企業はファイナンスドエミッションの最大のけん引役であるからだ。続いて、投資チームがそれらの企業の5段階評価を行い、レベル0(気候変動リスクを意識していない)からレベル5(低炭素社会に完全に整合している)までの企業の軌跡を追いかける。

アクションを求めるエンゲージメント:明確さと知見の共有

ABは、経営陣とのエンゲージメントに先立ち、まずCTAFに基づいて重要な事実や企業の移行対応状況を把握する。これにより、エンゲージメントをより実効的なものにすることができるからだ。

ABが最近エンゲージメントを行った企業には、航空宇宙・防衛、石油・ガス、エネルギー・公益セクターのさまざまな企業がある。経営陣との対話は概して企業とABの双方にとって実りが多いものになっている。具体的には、ABはCTAFのアプローチを用いて、気候変動に関連した多大なリスク及び機会がある企業の経営陣に対し、ABがどのような進捗を期待しているかについて明確にしている。経営陣は有益な情報を提供してくれるほか、ABの期待を理解するのに熱心であり、ABのフィードバックにも耳を傾けている。

例えば、ABは最近、炭化水素資源の開発に関与する米国のエネルギー企業の経営陣と対話した。2040年までに実質排出量ゼロを実現するという表明済みの目標について、どのように達成する計画なのかを明確にするためである。  同社はスコープ1及び2の排出量を実現するための中間目標の設定や、さまざまな排出量削減戦略を検討していること、気候変動に関連して想定される規制当局への報告義務に対する準備状況について、詳細に情報を提供し、ABはスコープ3の排出量目標を設定するための出発点について提案した。

このような協力的なスタンスに基づくエンゲージメントは、一部で想像されるような敵対的なアプローチとは似ても似つかない。しかし実際に重要なのは、このような協力的な対話は、継続的な意見交換の機会を提供するということである。相互に協力するエンゲージメントにより、投資チームは微妙に異なる各企業の状況について理解を深め、そうした事実を関連づけて筋道を通すのに役立てる。一連の作業は、企業の事業や業績にとって重要になりうるリスク及び機会をあぶり出すのに大きな役割を果たすことができる。

情報開示は好例である。投資家は気候変動に関連した重要な情報開示を、さらに詳細な情報を得た上でリスク及びリターンについて判断するための根拠、ならびに企業の経営陣が関連リスク及び機会を評価し、管理できる証拠の両方として重視する。求められるデータの提供に前向きな企業であっても、規制の不確実性や一貫かつ安定した方法を確立する難しさなどから、データの把握に苦労することがある。

企業の状況はそれぞれ異なることから、各企業特有の環境を検討し、個別業界の背景を考慮し、競合他社に対する競争力を理解することも重要である。ABは投資家として、企業に持続可能な将来があることを確認したいと考えており、気候変動リスクの管理はそうした将来を実現する一環のタスクである。

そしてABは、経営陣が気候変動関連の移行を思慮深く達成可能で、事業の利益につながる形で行ってほしいと考えている。そのため、ABのエンゲージメントは理想主義に基づく目標設定ではなく、脱炭素化から生じうる多大なリスク及び機会に適切に対応するためのものとなっている。

目的を持った議決権行使:株主価値を高める提案なのか?

株主総会の投票は投資家がかなりの影響力を手中にするものであり、したがって責任を持った議決権行使が重要になる。ABの基準は、提案が事業のリスク及び機会をうまく管理して株主価値を高められるかどうかである。

そして、各提案の具体性、透明性、規範性を評価し、提案がもたらしうる影響を推測するのに役立てている。CTAFで追跡している発行体については、AB独自の評価や関与から得た知見や知識を生かし、問題の重大さと企業が直面する規制及び情報開示上の制約とのバランスをとっている。

これは考え抜いたアプローチであり、次に示す2024年の議決権行使事例が浮き彫りにするように、さまざまな投票結果につながるものである。

賛成投票-情報開示や説明責任の改善を促す:米国の公益企業が、GHGの排出削減目標を会社幹部の報酬に組み込む可能性について、説明を求めるという株主提案を受けた。ABでは、かかる提案を支持すれは、情報開示や経営陣の説明責任の拡大を促すだろうと考えた。そうした重要なトピックについて同社が行ってきた環境報告書などの情報開示は、標準以下だというのがABの見解である。

反対投票-新たな価値を生まない排出削減目標:逆に、別の米国公益企業の株主総会では、パリ協定に整合するGHG排出削減目標を同社がバリューチェーン全体で採用するように求める株主提案に対し、ABは反対票を投じた。同社はすでにGHG排出について包括的な公約を掲げており、州の規制当局がそれを支持していることから、さらなる目標は不要だと考えたためである。

投票棄権-前進するための時間を与える:欧州の石油・ガス統合会社が、GHGの実質排出量ゼロのスコープ1及び2を2050年までに達成するという公約を提案した。ただし、スコープ3の排出量全体の半分程度をスコープ1、2、3の目標に含めていなかった。ABは同社の経営陣に懸念を示したが、議決権行使に関して言えば、その問題に対処して前進する時間を同社に与えることが、株主の関心に報いる最善の落としどころだと判断した。

2024年の株主総会シーズンでは、スコープ3の情報開示や排出量削減に関する株主提案に注目が集まった。CTAFを用いて評価した企業の株主総会で、ABは概してスコープ3に関連した提案への投票を棄権した。包括的な排出情報開示の重要性を認識する一方で、規制の不確実性や排出量の測定・管理の難しさを考慮し、対応には相応の時間と経営資源が必要とされる現状とのバランスをとることを意図したものである。

今後の展望

CTAFを用いた追跡・評価は、複数年にまたがる継続的なプロセスである。ABは長期にわたってCTAFを適用し、企業が多大な気候変動リスクを軽減する取り組みについて、進捗状況のモニター及びベンチマーク評価を続けるほか、議決権行使の方向性を決定していく。

もちろん、各企業の個別の状況や提案の微妙な違いも考慮し続けるだろう。しかし、最終的な目標は、ABが投資する企業に、低炭素社会のリスク及び機会への準備を十分に進めてもらうことにある。


* ABは、エンゲージメントを行うことが顧客の金銭的利益に資すると判断する場合にエンゲージメントを行います。

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