パッシブQT(受動的な量的引き締め)が、日本銀行(日銀)の金融政策正常化への次の一手になるとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では考えている。
日銀は2024年3月、8年間続いたマイナス金利政策を解除し、基準金利を0%~0.1%に引き上げ、17年ぶりに利上げを実施した。この動きは待望されていたとはいえ、正常化の道筋の第一歩に過ぎない。
ABは、日銀は時間をかけて正常化の道を進むべきだと考えている。その結果、ボラティリティが低下し、利回りが上昇し、イールドカーブがたつことで、債券投資家にとって望ましい環境がもたらされる。しかし、日銀の正常化路線の理想的な次の一手とは具体的にどのようなものだろうか。
利払い費増加がさらなる利上げを抑制する可能性
日銀の次の一手としては、一般に再度の利上げが考えられる。しかし、それは莫大な利払い費の増加をもたらす可能性がある。
どの程度の利上げで支障がでるかは、目安としてキャッシュフローの損益分岐点、すなわち、経常利益を利上げによる追加的な日銀の超過準備への利払い費で割ることで損益分岐点を計算できる。
超過準備預金残高が548兆円だとすると、10ベーシス・ポイント(bps)の利上げで5,480億円の利払いが発生する。損益分岐点の金利水準としては、2022年度の経常利益をベースにした60bpsの利上げ(-10bpsから+50bpsに)と、2023年度の経常利益をベースにした80bpsの利上げ(-10bpsから+70bpsに)が考えられる。この水準での利払い費はそれぞれ3.3兆円から4.4兆円となる。この先、日銀が債券取引損失引当金を取り崩すことで、さらなる利上げも可能ではある(The Wall Street journalの記事ご参照(英語、外部サイト))。
しかし、正常化への次のステップには、以下の方がより良いと考える。
まずはパッシブQT
インフレに対抗しつつ、過度な利払い費の急増を避けるため、日銀はパッシブQTを検討している。この手法では、日銀は日本国債の買い替えを制限しながら、保有する日本国債が満期を迎えるのを待つだけで、バランスシートを縮小する。まずバランスシートを戦略的に縮小させることで、日銀は将来の利払いの規模を縮小させ、一方で、キャッシュフローに支障のない50bpsの利上げを将来のオプションとして留保することになる。
この方法のもう一つの利点は、日銀が最初の利上げが日本経済に与える影響を評価する時間を稼げることだ。日本経済の実質潜在成長率を示す自然利子率(r*)はおそらく上昇しているだろう。その答えは日銀が政策スタンスを練り直すのに役立つだろう。
残念ながら、自然利子率をリアルタイムで推定するのはどこの国でも難しいが、短期金利が30年間ゼロ近辺で推移し、円安が進行している日本では特に難しい。このような条件下では、状況を把握する時間は特に貴重である。
パッシブQTのアプローチには、他にも利点がある。ひとつは、日銀は資産を売却すること(アクティブQT)で起こりうる金融市場の混乱を避けることができる。一方、債券買入を減らし、緩和的なスタンスを弱めることを示すことで、日銀は長期金利の上昇を効果的に誘導し、イールドカーブをスティープ化させるだろう。
パッシブQTの詳細
こうした理由から、日銀は市場の反応を見ながら、国債の買い入れを徐々に減らし始めると予想される。財務省は、日銀のバランスシート上の国債を約160兆円削減する余地があると試算している。
現在日銀は、保有国債の償還を待ちながら、毎月約6兆円の国債を買い入れることでバランスシートの規模を維持している。これを毎月3兆円程度に減らせば、バランスシートは年間36兆円縮小する。このペースでいけば、160兆円の削減目標まで4年以上かかることになる。
日銀は、日本国債のイールドカーブの3年から5年、5年から10年のセクターに買入削減の焦点を絞る可能性が高いとABは見ている。というのも、これらの年限帯の債券は現在、日本国債の中で発行額に対する買入額の比率が最も高く(図表1)、買入に削減余地があるからだ。
もし日銀がこれらの国債の買い入れを縮小すれば、その結果、その年限の需要が減少し、これらの債券の利回りが他の年限の利回りよりも上昇するため、イールドカーブ上10年ゾーンの金利上昇圧力となる。
足元、10年先の10年債利回り(今日から10年後に発行される10年債の期待利回り)が積極的な量的緩和以前の水準に戻ったのに対し、5年先の5年債利回りは戻っていない(図表2)。理論的には、5年先の5年債利回りは今日の10年債利回りの位置に影響を受けている。
ゆっくり着実な金融政策正常化を
緩やかなパッシブQTは日銀の理想的な次の一手と考える。緩やかなパッシブQTにより、ボラティリティが低下し、利回りが上昇し、イールドカーブがよりスティープになることは債券投資家にとって有利な環境となるだろう。 だからこそ、ABでは、正常化に向けた緩やかで着実なアプローチが理にかなっていると考えている。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら
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