経済成長率が高まり、米連邦準備制度理事会(FRB)は金融政策を慎重に運営することが可能な状況になっている。それはつまり、来たるべき利下げの開始時期が先延ばしになるだろうということである。
2024年1-3月期の米国経済は力強く前進した。企業の採用活動が活発だったほか、インフレ圧力が徐々に弱まったことで個人消費が増加し、強固な経済基盤の上の成長が続いた。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)の見解では、人口動態トレンドの変化に支えられ、そうした力強い成長が今後もおおむね続くとみている。ABはそのため、2024年の年間GDP成長率予想を1.5%(実質またはインフレ調整後ベース)に引き上げる。
活発な経済活動を受けてインフレ率の低下ペースは緩慢なものとなっているが、ABは引き続き2024年が進むにつれて物価上昇圧力が弱まるとみている。ただし、そのプロセスには従来想定以上に時間がかかりそうであり、それがFRBの利下げを含めた政策の行方にも影響を及ぼす可能性があろう。ABでは、政策金利が今後数カ月間にわたって現在の水準にとどまり、今年末にようやく利下げが始まると予想している。
労働力のプールが拡大して米国経済を支えている
過去数四半期間の力強い経済成長をけん引したのは何か、そしてそれは今後の見通しにどのような影響を及ぼすのか。経済刺激策、コロナ禍の過剰貯蓄、インフレ率の急速な低下などの2023年の成長をけん引した多くのファクターは、今では弱まっている。しかし、移民の純流入が2023年に急拡大した(米議会予算局のサイト(外部)、英語)ことが、就労可能な労働者の供給が著しく増加した(ブルッキングス研究所のサイト(外部)、英語)背景にあるようである。新規労働力人口が過去3年間にわたり、1980年代初め以降で最も高い水準となっているのだ(図表1)。
就労可能な労働者が増えたことから、企業は賃金を徐々に上げなくても採用を行うことができている。現実には、総賃金はコロナ禍前の期間より速いペースで上昇し、インフレと歩調を合わせているが、企業の採用活動が活発であるにもかかわらず、賃金の上昇率は鈍化している(図表2)。そうした状況は、インフレ率を上昇させかねない賃金・物価上昇スパイラルについてあまり懸念することなく、米国経済が高成長するのを促している。
経済成長率が高まり、賃金・物価上昇スパイラルに陥る懸念は小さい
移民の純流入は2024年も再び経済成長率を押し上げる可能性があるようであり、ABはそれを踏まえて、上述のように実質GDP予想を1.5%に上方修正する。これは米国のほとんどの長期潜在成長率予測より若干低い水準である。そしてABの予想が正しければ、米国経済は綺麗なソフトランディングを果たすだろう。
もちろん、経済成長率は考慮すべき事項の1つにすぎない。労働力の供給が増えれば長期インフレ期待の抑制を促す。また、賃金上昇率の鈍化が続けば、賃金・物価上昇スパイラルについて長期的に懸念する理由はほとんどなくなる。ABの従来想定よりは緩慢だったものの、2024年1-3月期のインフレ率は引き続き低下した(図表3)。コア・インフレ率が再び2.0%まで低下するのは2025年になるとABは考えている。これは投資家にとって懸念するようなシナリオではない。2025年より前に2.0%に戻るには、厳しい景気後退を想定する必要があり、そうした展開を歓迎する投資家はほとんどいないためである。
FRBが慎重に政策判断するということは、利下げを先延ばしにするということである
この金融政策サイクルでこれまでそうであったように、インフレ期待が抑制され続けている限り、FRBには長期的な視点に立つ余裕があるとABは考えている。それはつまり、インフレ率を直ちに低下させることなく現状を維持するということである。しかし、現状維持は諸刃の剣である。2024年1-3月期にそうであったようにインフレ率の低下ペースが緩慢な場合には、FRBは利下げを先延ばしにして対応する可能性がある。
このシナリオはまさにABが予想しているものである。具体的には、現在ABでは0.25%の利下げ1回のみが2024年10-12月期に行われると予想している(以前は合計4回の利下げが4-6月期から始まると予想していた)。積極的な緩和を期待していた向きはそのような保守的な利下げシナリオに失望するかもしれないが、ほとんどの投資家にとっては大きな違いは生じないはずである。インフレ率が低下したり経済成長が揺らぐ局面において利下げの余地をFRBが持ち合わせていることの方が、利下げの正確な開始時期を投資家が知ることよりも重要である。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら
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