水不足のような問題は、地域社会に深刻な影響を与える。だからこそ、地方自治体により発行される債券は、こうした課題の解決に向けた使命を負っている。

米国において、地方自治体の債券発行体は、より包摂的な社会を実現し、住民の経済活動への参加を促すよう、物理的なインフラや公共財・サービスなどを構築・支援する役割を担う。このため、約4兆米ドルの米国地方債市場は、インパクト投資には格好の投資対象となっている。クリーンな水の供給や質の高い医療へのアクセスの改善といった課題は、いずれも、環境的・社会的・財政的に優れたコミュニティや機関への投資によって実現することができる。

低所得地域における水不足への対処

ここ数年見られるように、水へのアクセスは決して当たり前に得られるものではない。米国では、西部をはじめとした地域で過去に例を見ないような干ばつが発生している。例えば、リオグランデ川は、米国南西部の無数の地域社会が依存する河川であるが、長く続く干ばつと水需要の増加に直面している。

こうした課題は、とりわけ低所得者層に偏って悪影響を及ぼしている。ある調査では、回答者の14%が、水道料金が毎月12米ドル上がるだけで、食料品や基本的な医療への支出を減らさなくてはならないと答えている1。水源を幅広く拡大するプロジェクトに長期的に投資するとともに、節水戦略を組み合わせることで、干ばつへの耐久性を向上させながら、地域社会が直面する財政負担をも軽減することができる。

エルパソ・ウォーターは、テキサス州エルパソとその周辺地域の67万8,000人以上の住民に上下水道、再生水、排水サービスを提供している。エルパソの世帯所得(中央値)はテキサス州全体の世帯所得(中央値)の76%の水準にとどまり、貧困率は18%で、州全体の貧困率に比べ3割近く高い。

1990年代初頭にエルパソが節水条例を採択して以来、一人当たりの水消費量は約35%、ピーク時の水需要は17%それぞれ減少した(図表1)。こうした改善の背景には、漏水検知などの取り組みを通じて公益事業での水の無駄遣いを減らすことや、節水を奨励する料金体系を続けるといった戦略がある。また、教育・啓発は、住宅や商業施設の顧客に、より効率的な水利用を促すための要となっている。

エルパソは当該地域の世帯所得が州全体より低いことなどを受けて、利用料金を全国水準に比べて割安に設定している。また、直近の予算では、エルパソの最も少ない水利用者に対しては給水設備更新料が免除されている。2018年から2019年の会計年度には、エルパソが購入した商品やサービスの約50%が、小規模企業、マイノリティ企業、女性が経営する企業から調達され、また建設プロジェクトの支出の約34%が、こうした企業に振り向けられている。エルパソ・ウォーターのような自治体の発行体は、サービスを提供する地域社会特有のニーズを十分に把握し、それに対応する長期的な戦略を導入することで、これまで以上に公平で持続可能なシステムを構築している。このようなモデルは、医療機関にも当てはまるものである。

医療へのアクセス改善

患者の健康状態の約20%は、医療提供者による医療の質によって決まると言われる。残りの80%は、しばしば健康の社会的決定要因(SDoH)と呼ばれる要因に起因するものである。すなわち、基準を満たさない住宅、劣悪な教育システム、近隣の治安、薬物中毒、暴力、食糧不安などである2

このことを認識した多くの医療機関は、病気治療に加え、予防支援もミッションとして注力し始めている。例えば、(地域医療の底辺を支える)セーフティネット病院としてのテンプル大学ヘルスは、もともと所得の低い患者をケアし、フィラデルフィアの周辺地域の医療へのアクセスを確保するために設立されたものである。同病院が対応する地域のうち、実に45%の世帯が連邦貧困レベル以下3 であり、これは隣接するモンゴメリー郡の7%を大きく上回る。テンプル大学ヘルスの総収入の約33%はメディケイド(低所得者向けに連邦および州から提供される医療保険)によるものであるが、これはムーディーズ(図表2)が追跡調査している非営利病院の平均シェアの2倍以上である。

テンプルヘルスの影響は医療現場だけにとどまらない。2014年に設立された地域保険サポートセンターには、患者の満足度を重視した医療滞在施設、看護師の指導によるハイリスク者向けの慢性疾患管理プログラム、入院患者と外来患者の地域医療プログラム、相互指導、スケジューリングとフォローアップの中央コントロールなどが備わっている。

複雑な社会的・医療的健康問題を抱える患者支援に向けて、テンプルヘルスの地域保健ワーカー・チームは、家庭訪問、医師との面会予約、交通手段の調整、その他の社会的サポートとの連携を行い、QOL(生活の質)と治療成績の向上を図っている。

2020年、テンプルヘルスは、救急外来の受診率が高く、入院頻度が高い患者に対して、継続的なケアを提供するため、「高頻度来院患者向けクリニック」を立ち上げた。退院時には、地域の医療従事者が患者をフォローアップ医療につなげ、食事や交通手段を提供し、家庭を訪問し、その他の社会的支援につなげるようにしている。クリニックの利用により、患者は救急外来の利用が40%、入院が21%それぞれ減少し、その一方で通院サービスの利用が50%増加し4、より適切な医療手段の選択につながっている。

テンプルヘルスはまた、地元の非営利団体と協力し、病院の救急外来を頻繁に訪れるホームレスのメディケイド患者25人を支援する2年間のプログラムを開始した。患者には無料の住居とケースワーカーが提供され、医療サービスや社会サービスと繋がるようになっている。ケースワーカーは、アパートの家具を用意したり、ヘルシーな食事を提供したり、社会保障などの所得支援申請を手助けすることで、患者をサポートしている。

このプログラムの規模は大きくないが、その影響は大きい。参加者が入所した最初の5ヵ月間をプログラム開始前と比較すると、救急外来の利用が75%減少、入院が79%減少する一方、外来サービスの利用が50%増加した5

明確で測定可能なインパクト

地方債市場とインパクト投資戦略は、資金を財政的生産性の高い用途に振り向けるとともに、社会から疎外されたコミュニティに大きな影響を及ぼしている環境問題や社会問題に対処する上で、極めて有益な役割を果たすことができる。重要なのは、意味のあるデータを駆使し、関連性のある主要業績評価指標を提示するような戦略を打ち出すことである(以前の記事『Municipal Impact Investing: The First Step Is Identifying the Need』(英語)ご参照)。これらの指標は、投資に関する優れた洞察力を養い、投資の効果を判断する上で重要な役割を果たす。投資家は、地域社会にプラスのインパクトをもたらしている地方債発行体を支援することで、重要な役割を担っている。資本を有効に活用することで、全ての人々にとってより公平で持続可能な未来を築くことができるのである。

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0160017620942812, https://www.nature.com/articles/s44221-022-00009-w
https://www.uclahealth.org/sustainability/our-commitment/social-determinants-health
https://cph.temple.edu/about/news-events/news/temple-commits-1-million-immigrant-and-vulnerable-populations-healthcare
4 https://www.templehealth.org/sites/default/files/2022-06/FY22-CHNA-Temple-University-Hospital.pdf
https://www.templehealth.org/about/news/program-aimed-at-providing-housing-support-services-for-people-experiencing-homelessness-sees-75-decrease-in-emergency-department-visits-and-79-decrease-in-admissions

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