金利の先行きが明確になるということは、プライベート市場全体の投資の見通しや機会も明確になるということである。
資本コストに関して言えば、今では少なくとも1年間、「Higher for Longer(長期間にわたって高水準)」が最大のテーマになっている。そして、複数の中央銀行がこれから数カ月間、数回の利下げを実施することが想定されるとしても、今後も最大のテーマであり続けそうである。
高止まりする借入コストやいつまでも続くインフレにより、キャッシュフローの安定性や一部資産のバリュエーションに圧力がかかるだろう。また、それらにより、中期的な金利やリターンの見通しも明確になり始めている。その結果、プライベート市場全体で取引量が増えるはずである。同時に世界経済は、米国経済の順調な拡大にある程度けん引され、非常によく持ちこたえている。
さらに、変わりゆく規制や資金調達ニーズに対応しなければならない中小銀行に対する絶え間ないストレスを背景に、プライベート市場の貸し手にとっては投資機会が広がり、リターン創出の可能性が高まるはずである。一連の景気サイクルにおける資金調達、引受、クレジット・リスク管理能力を有する経験豊富な貸し手にとって、これは朗報だとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考えている。
つまり、「Higher for Longer」の金利環境にもプラス面があるのだ。そして銀行融資が減少し、パブリック市場が縮小するにつれ、プライベート市場のユニバースは拡大し続ける。あらゆるリスク・リターン領域で魅力的な機会が生まれるとABは予想している。
急速に拡大する投資機会
プライベート・クレジットの持続的な成長は注目に値するものである。2008年より前には明確な資産クラスとして存在していなかったが、資産総額は2023年までに約1兆6,000億米ドルになった。これはおおよそ米国ハイイールド債の市場規模である。データ・プロバイダーのプレキン社によれば、かかる資産総額は2027年までに2兆3,000億米ドルに達する見通しである。
投資家が新たに参加する市場としてはかなり大きく、そしてこれは企業向けの債券・ローンのみに限った規模である。商業用不動産、インフラストラクチャー、スペシャルティ・ファイナンス(住宅・自動車・消費者ローン等の消費者向けローン)など、他の種類のプライベート・クレジットを加えると、一連の投資機会はなお一層大きくなる。
とはいえ、投資家は投資する資産クラスを厳選することが重要である。高金利が重荷になる可能性の有る借り手も存在し、貸し手にとってさらなるリスクになりかねないためである。
アクティブ運用の極み
このように相反する傾向に悩まされる市場に参加するには、積極的なアプローチが必要である。そして、プライベート市場には、とりわけ効果的な形態のアクティブ投資機会があるとABは考えている。貸し手が市場の現状や具体的な借り手の特徴に合わせたローンを組成できるのだ。これには現在、リファイナンス時の資産価値に対して保守的なローン資産価値(LTV)比率で行う融資や、貸し手自身を守るコベナンツを付与する交渉能力も含まれている。
さらに、プライベート・クレジットの取引は直接組成され、交渉し、法的な枠組みが決定される。そして取引に必要なのは、貸し手、借り手のほか、ダイレクト・レンディングの場合はプライベート・エクイティのスポンサー間の、定期的なコミュニケーションである。そのため、借り手に関与したり、起こりうる問題に積極的に対処したりすることが容易になる。
銀行からの資金供給の不足
商業用不動産デットを考えていただきたい。商業用不動産セクターはそれなりの課題やメディアの悪評に直面している。しかし、市場ストレスや規制変更にせき立てられ、銀行が商業用不動産向けの融資を減らしているため、プライベート市場の貸し手の方が優位な力関係になっている(以前の記事『攻守に活きるダイレクト・レンディング』ご参照)。彼らは優良な担保を差し入れる健全な貸し手を選別し、高いリターンが見込めるほか、ダウンサイド・リスクから自身を守る内容の取引を交渉することができる。そして、損失を吸収するのに十分なエクイティをバッファーとして含めることにより、クレジット投資家が寝る間も惜しんで市場タイミングを見計らう必要はなくなる。
高金利は今後数カ月間にわたって問題になるだろう。そして、ローン条件を修正する動きはさらに困難なものになる可能性があろう。しかし、投資家が豊富な手元資金を抱えているほか、キャップ・レートが上昇していることから、買い手と売り手の価格差が縮小するにつれて取引が回復するとABではみている。また、2024年に見込まれている満期ローンの増加も、ローン条件に関して貸し手に有利なものになると考えられ、資金需要を生み出すと予想される(図表1)。
ダイレクト・レンディングが高いリターンを創出する可能性
世界の企業向け債券・ローンにおけるプライベート市場の約半分を占めるダイレクト・レンディングでは、高金利を受けて2023年の取引活動が冷え込んだ。しかし、同年の平均利回りは12%を超えており、投資家にとってみれば高いリターンを創出した。
2024年初めには新規取引のスプレッドが縮小したが、企業向けのダイレクトローンの値付けに用いるベース金利は、2024年末には4.5%前後になるとABは予想している。これは、世界金融危機後の数年間主流だった1%未満をはるかに上回る水準である。それにより、プライベート・クレジットの新規発行利回りも過去実績を上回る水準を続けるだろう。つまり、投資家にとっては高いリターンを創出する可能性につながるはずである(以前の記事『ダイレクト・レンディングの見通し~豊富な投資機会と高いリターンの可能性~』ご参照)。
高金利に苦しむ借り手もいるだろう。そのため、事前の精緻な分析、適切な法的枠組みによる組成や、既存のポジション全体にわたる積極的なポートフォリオ管理に根差した、安定的なポートフォリオを構築する運用マネージャーの能力が重視されるだろう。一方で、金利が相対的に安定し、ビッド・アスク・スプレッドが縮小することで、全体の取引量は増加すると考えられる。
エネルギー源の転換が続く
プライベート市場の貸し手は引き続き、クリーンエネルギーへの転換に資金を供給する最前線におり、ABの見解では、太陽光発電や蓄電設備に対する融資は特に魅力的である。
もちろん、世界中のエネルギー転換の道筋はこれまでも紆余曲折を経ており、それが変化するとはABは考えていない。そうしたプロジェクトの資本集約的で複雑な性質や、高い借入コストが近年引き起こしているボラティリティを受け、創出されるキャッシュフローや強力なコベナンツによる管理により一層の重要性を置く、選別的なアプローチが必要になっている。
資本構成の最上位であることを選好する投資家は多い。これには、実物資産を担保にしたローンや借地用の土地に対するファイナンスも含まれ、投資家はそれらのプロジェクトでは、キャッシュフローに対する第一求償権を付与されている。米国では、インフレ抑制法が連邦税控除の拡大を通してクリーンエネルギー関連施設の建設を促進し、それに伴って新たな投資機会が生まれている。銀行が世界的な資本要件の強化を受けてそうした資金供給から手を引きつつあることも、投資機会拡大のサポートとなっている。
銀行の撤退を受けた消費者向けローンへの投資機会を重視
損益計算書や貸借対照表への圧力とともに、一連の世界的な銀行規制の強化により、中小規模の銀行は消費者向けの融資を削減せざるをえなくなっている。米国では2022年以降、1兆米ドルを超える家計預金が銀行システムから流出した。
プライベート市場で資金を運用する投資家は、銀行と提携して新規ローンを組成するための新規資金を供給するか、消費者ローンや商業ローンで構成される銀行の正常債権及び不良債権をディスカウントで取得するかのいずれかにより、次第にそうしたギャップを埋めるようになっている(図表2)。
スペシャルティ・ファイナンスと呼ばれることもあるそうした資産担保戦略には、キャッシュフローを創出する資産のプールに対する融資や、消費者・住宅・自動車ローン等の融資も含まれている。プライベート・クレジットのなかの見過ごせない成長領域だが、プライベート市場への資産配分という点では依然として過小評価されている。
また、旅行する資力や意欲がある中間層が世界的に増加するといった形で、新たな資産クラスや戦略における機会を後押ししている。これには航空機リースが含まれ、同リースは航空機供給の制約からも恩恵を受けている(以前の記事『航空機ファイナンスへの投資機会』ご参照)。
以上のような戦略のすべてにとって、長期間にわたって高水準にとどまる金利はいくらかのハードルになるだろう。しかし、経済全般の見通しは明るい。利回りはコロナ禍前の水準をはるかに上回ったままになりそうである。同時に、プライベート・クレジット市場は非常に速いスピードで成長し続けている。ABの見解では、それらは貸し手にとっても投資家にとっても同様にポジティブなニュースである。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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