アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)のリサーチでは、ガバナンスと株式リターンとの相関関係は、有意である、ことが明らかになっている。
コーポレート・ガバナンスの取り組みが不十分な企業は、経営不振に陥りやすく、収益も低迷しやすいというイメージは、投資家にとっても想像にたやすい。さらに詳しく調査するために、ABは委任状による議決権行使に着目した。
具体的には、近年のABの委任状による議決権行使実績を通じて、ガバナンスとリターンの相関関係を調査してみた。委任状による議決権行使とは、企業価値向上ないし少なくとも棄損防止の信念と事前の周到な分析に基づき、株主が企業のガバナンスの良し悪しに関する見方を伝えることが出来る有効な表現手段の1つであると考えられる。いわゆる、単なるゴム印による議決権行使ではない。
議決権行使や企業との直接的なエンゲージメント(企業との建設的な対話)を活用することで、経営そのものが改善し、結果として長期的に優れた成果が得られることが理想である。AB独自の調査結果も含め、いくつかの研究により、この関連性がより明確になってきている。
ガバナンスと収益のつながり
ひとつの研究として、ハーバード・ロー・スクール(英語、外部サイト)の教授らが、6つの主要なガバナンス規定に基づき、定着指数(Eインデックス)を策定した。その結果、1990年から2003年までの米国株式において、Eインデックスの評価が低いほど企業価値が低下し、リターンも低下することがわかった。
さらに最近、S&Pグローバル(英語、外部サイト)は、2000年から2017年の間、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスのガバナンス・スコアの下位4分の1の企業は、年率換算で上位5分の1の企業に比べ約2%パフォーマンスが劣っていることが明らかになった。
このような観察結果や AB自身の経験に基づいて、ABでは社内調査を実施し、委任状によるABの議決権行使の実績と企業収益の間に同じような関連性があるかどうかを調査した。その結果、ABがさまざまな議案で経営陣に反対票を投じた企業の平均的な業績は、ABがより強力に賛同した企業の業績に比し、その後下回っていることが判明した。
ガバナンスを守る、一社ずつの取り組み
ガバナンスの評価は一律に出来るものではない。各企業がABの基本的な期待値と比べどの程度一致しているかを検証するため、AB独自の議決権行使方針を活用し、それに続くアナリストの専門知識やエンゲージメントデータを活用した共同レビューを行っている。この二段階でのアプローチにより、企業ならではのファンダメンタルズに関する知見を取り入れ、さらに建設的な議決権行使戦略を実施することができる。
例えば、企業のガバナンスが、当該顧客の利益を重視していないと推察される場合、または株主利益を棄損していると判断される場合、ABでは経営陣に対して反対票を投じ、異議を表明することがある。管理会計に問題があれば、監査委員会の委員長に反対票を投じるし、役員報酬が業績とかい離していれば反対票を投じるようにしている。ガバナンスの問題によっては、責任を負う特定の取締役会メンバーに対して反対票を投じることもあり、これは「説明責任投票」とも呼ばれるものである。
多数のABによる議決権行使結果をエビデンス化
こうした背景のもと、ABのリサーチでは、2018年から2022年にかけて、グローバル企業全体で266,000件以上の個別議案に対して議決権行使が行われた約34,000件の株主総会を追跡調査した。そして、それぞれの議決権行使を、翌年の当該企業のトータルな株式リターンと対比してみた。
ABでは、経営陣との連携度合いを分類するため、経営陣に対する反対票数(VAM:Votes Against Management)に基づき、各社を均等加重バスケットの形で分類した。例えば、VAMが0の場合は、会社全体に健全なガバナンスや監督が行き届いており、強い連携が反映されていると見なし得る。VAMが1の場合は、資本政策や監査から報酬や取締役選任に至るまで、提案された案件のいずれかに「反対」票が投じられたことを示している。VAMが2の場合は、2つ以上何らかの提案に対し、不賛成を表したことを示している。
ABでは、調査期間中に開催された株主総会の45%でVAMがゼロであったが、問題の大小に関係なく、過半以上のケースで企業側の提案に対して反対したことを意味している。さらに、ABでは、議決権行使の前に、ファンドマネージャーやアナリストによる経営陣との日頃のエンゲージメントを通じて、議案として俎上にあがる前に経営改善を促しているものも含めて、企業価値向上のためよりよい経営体制になるよう微力を尽くしている。会社のガバナンスが数年にわたり問題になっている場合などは、エンゲージメントの強化ならびに株主提案なども検討することがある。
VAMがゼロの企業(ABが議決権行使で賛成した企業)は、他のVAMバスケットに属する企業より年間250ベーシス・ポイント以上高い株価パフォーマンスを示していることが判明した。このような一般的な傾向は、同規模の同業他社間でも、また全てのセクターや地域とは言わないまでも、大半のセクターで確認された。5年間のスパンで見た場合、VAMゼロ企業の平均年間株式リターンは11.5%であったが、この数字はVAMが3つ以上あったバスケットに属する企業に比べ、約2倍となっている(図表)。
企業価値の協創、議決権行使を超えて
議決権行使は単なる投票ではない。企業価値の協創には株主総会での議決権行使のみならず、日頃からの経営者、取引先、顧客などとのエンゲージメントも重要である。議決権行使は、株主提案を除いては、毎期提示される議案に対して賛成か反対か等を問うものであり、株主の対応としては受け身になりがちである。アクティブ運用の根幹は、企業が長期的なパフォーマンスを犠牲にしていないか議決権行使を正しく行使すると同時に、さらにはエンゲージメントを通じて資本戦略や経営戦略などに能動的に関与していくことによって、企業価値を協創することである。特にガバナンスに関しては、熟慮を重ねた議決権行使だけでなくエンゲージメントを行うことで、リーダーシップや情報開示から報酬や資本政策に至るまで、重要な経営判断にプラスの影響を与えることが可能であろう。
*ABは、議決権行使だけでなく、フォーワードルッキングなエンゲージメントにより、企業価値の最大化がより進むと判断する場合、エンゲージメントを積極的に行います。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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