2024年は資産の利回りがわずかに低下するかもしれない。しかし、強じんなポートフォリオを運用する規律あるマネジャーにとっては、過去の水準を上回るリターンを獲得できる可能性がある。
2024年は、ダイレクト・レンディング戦略の投資家にとって好ましいトレンドが続きそうだ。高金利の長期化、成長の鈍化、執ようなインフレが一部の借り手を苦境に追い込むかもしれないが、クレジット損失に歯止めがかからなくなる事態は考えにくいとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では見ている。むしろ、金利上昇はポートフォリオにおける懸念要因を上回る恩恵を投資家にもたらし、選別的なスタンスを取る貸し手にとって、新たに魅力的な投資機会が生まれると考える。
2021年と2022年に記録的な水準に達していた取引件数が、2023年は高金利の影響で冷え込んだ。取引額の減少にもかかわらず、ダイレクト・レンディング戦略の投資家のリターンは、クレジット損失がわずかに増加したものの、金利上昇の恩恵と2022年に計上していた評価損の戻し入れによるプラス効果がそれ以上に大きかったことから、過去最高に達したようだ。
今後については、資産の魅力的な利回りと、ミドルマーケットの借り手の底堅い基調的なパフォーマンスが原動力となり、ダイレクト・レンディング戦略は2024年も好調なパフォーマンスを示すと楽観視している。しかも、落ち着いた基準金利の推移となるとの一般的な予想を背景に、取引件数が大きく上向くと予想している。
ここで、2024年に投資家が期待できることについて、ABの見解を詳細に紹介したい。
1. 資産の利回りは(緩やかに)低下するが、リターンは平均を上回る可能性
米連邦準備制度理事会(FRB)は早ければ2024年の年央にもフェデラルファンド(FF)金利を引き下げる可能性がある。しかし、2024年1月のコアインフレ率が予想外に上昇したことを示す最近のデータは、FRBが緩和に着手する時期を従来の予想より若干先延ばしする可能性があることを示唆している。労働市場が引き続き力強く推移し、インフレ率がFRBの目標を上回っていることから、緩和のペースは緩やかなものになる可能性が高いとABでは考えている。
企業向けのダイレクト・レンディングに用いられる基準金利である担保付翌日物調達金利(SOFR)のフォワードカーブは、同金利が現在の5%超から年末までに約4.5%まで低下することを示唆している。しかし、世界金融危機以降に10年以上続いた1%以下の水準に比べれば、はるかに高い水準で推移すると予想される。簡単に言えば、高い基準金利は高いローン金利につながり、それはダイレクト・レンディングの貸し手にとってリターンが押し上げられる可能性が高いことを示唆している(図表)。
2.資産の選択とポートフォリオ構築に焦点
もちろん、投資家が金利や資産利回りの上昇による恩恵を受けられるのは、損失を限定できた場合に限られる。そのことは、厳格な分析や適切なストラクチャーで支えられた健全なポートフォリオを構築し、積極的なポートフォリオ管理を維持することの重要性を強調している。大規模で分散されたポートフォリオを持つ貸し手にとっては、利払い負担の増大に苦しむ借り手が返済に窮し、損失が若干増加する可能性があるものの、金利上昇はそれを相殺する以上のプラス効果が生じるとABでは予想している。
今のところ、景気は底堅く推移しており、ソフトランディングできる見通しは高いと思われる。また、軽い景気後退に陥っても、ダイレクト・レンディング戦略はそれを十分乗り切ることができると考えられる。金利上昇により、借り手にとってストレスや流動性の逼迫が生じる可能性はある。しかし、LTV(借り手の資産総額に対するローンの割合)が低いシニア担保付ローンは、ダウンサイドがしっかり保護されているという安心感がある。
3.M&Aが活発化へ
米連邦準備制度理事会(FRB)が過去1年半に合計5%以上の利上げを行ってきたことを踏まえれば、合併・買収(M&A)が減少したのは意外なことではない。ロンドン証券取引所によると、金融スポンサーがついている企業に対するミドルマーケットにおける融資額は2023年に前年比32%減少した
今後については、金利がここにきて一段と落ち着いていることから、ミドルマーケットでは買い手と売り手によるビッドとアスクのスプレッドが縮小しており、取引が活発化するとABでは予想している。潤沢な資金を持つ金融スポンサーは、ファンドの投資期間が終わる前に資本を投入しようとするだろう。一方、すでに資産を保有しているスポンサーは、投資家に資本を還元するため、投資を収益化しようとすると思われる。その結果、買い手と売り手の提示価格が収れんする可能性が高い。
4.拡大する投資機会
銀行はここ数年にわたり、プライベート・クレジットの成長をけん引してきたミドルマーケット向け融資を縮小しようとしており、その動きは今年も続きそうだ。その結果、ダイレクト・レンディング戦略の投資家にとって、投資機会が拡大すると予想される。
30年前は、米国のレバレッジ・ローンは銀行が75%のシェアを占めていた。その後、その数字は逆転し、現在ではノンバンクの貸し手が75%のシェアを握っている。米国の銀行は、預金残高が減少し、新たな規制の導入が近づく中で、2024年も引き続きプレッシャーにさらされることになりそうだ。
しかし、すべての銀行がレバレッジ・ローンから手を引いているわけではない。一部の銀行は既存の貸し手と手を組み、プライベート・クレジット分野に参入している。これは銀行にとって、資本効率の高いプライベートローンの供給源となるかもしれない。一方、プライベート・クレジットのマネジャーは、案件ソーシングの増加や、場合によっては融資資金の増加による恩恵を受けることができる。適切なストラクチャーが構築されれば、こうしたパートナーシップはダイレクト・レンディング・マネジャーに新たな投資機会を提供することができる。
また、大手企業の借り手がプライベート・クレジット市場を利用して資金を調達するケースも見られる。規模が大きくなれば、こうした借り手は、広範なシンジケートローン市場で借り入れることも、プライベートローンの貸し手から借り入れることもできる。このトレンドはまだ初期段階にあり、ダイレクト・レンディングの貸し手にとって投資機会が広がる可能性がある。
今後の見通し
利回りは2023年のピークから緩やかに低下するだろうが、リターンは過去数年間の水準を上回るとABでは予想している。 もちろん、一部の借り手は金利の上昇で困難に直面する可能性があるため、投資家にとっては、損失を最小限に抑えることができるマネジャーを見つけ出すことが重要になると考える。規律を守り、選別的なスタンスを維持するダイレクト・レンディング・マネジャーが、高いリスク調整後リターンを得ることになりそうだ。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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