世界の金利は急上昇している。ボラティリティや銘柄間の格差もあらゆる市場で拡大している。市場ベータに依存せずにリターンを創出できるヘッジファンド戦略やオルタナティブ戦略へのエクスポージャー拡大を検討すべき時期かもしれない。

投資家は2023年、超低金利の時代は終わったという厳しい現実に直面している。2022年初め以降、主要国では借り入れコストが過去40年で最も速いペースで上昇している。インフレ率は沈静化しておらず、金利はしばらく高止まりするとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)ではみている(以前の記事『Higher for Longer: Getting Comfortable with the New Policy Regime』(英語)ご参照)。

このニューノーマルは企業の業績見通しを押し下げ、市場のボラティリティを高め、多くの投資家に資産配分の再考を促している。ABでは、公開市場には考慮すべき解決策が数多くあると考える。例えば、株式に対するより厳選して銘柄選択を行うアプローチや、利回りの上昇に伴うインカム収入やリターンの獲得の可能性に着目した債券への再配分などが考えられる。

しかし、「Higher for Longer(より高い金利をより長く)」は、市場の方向性よりもボラティリティを収益機会とするオルタナティブ戦略の重要性も浮き彫りにしている。ABでは、現在の環境下でリターンを高めるため、3つのアプローチがあると考えている。ファンダメンタルズを重視するプロセ スでリターンを生み出すものもあれば、定量的なアプローチもあるが、いずれも伝統的な株式投資を補完し、市場全体との長期的な低相関性を利用して、更なる分散等を図ることが出来る。

高金利下におけるロング/ショート戦略

ロング/ショート戦略のヘッジファンドは、上昇すると見込まれる株式を買い持ち(ロング・ポジションを構築)し、下落しそうな株式を売り持ち(ショート・ポジションを構築)することによって利益を得ようとするもので、世界金融危機後の数年間は苦戦を強いられた。その戦略の中核をなすのは適切なタイミングで適切な銘柄を選び出すことであるが、歴史的な低金利下でほぼすべての銘柄が上昇していた時期であったため、それが難しかった。

だが、今日の市場環境は大きく異なっている。この1年半に金利上昇に伴ってボラティリティが急上昇し、株式リターンのばらつきが拡大している。それは銘柄選択を重視する投資家にとって好都合だ。最近の歴史を振り返ると、高金利の時期が長期化すれば、ロング/ショート戦略に多くの投資機会がもたらされてきた。

ここ数十年で少なくとも6カ月にわたり金利が5~6%で推移していた3度の期間を調べたところ、S&P 500指数のリターンの3カ月平均インプライド・ボラティリティが1979~2023年までの全期間平均よりも高く、3カ月平均の株式相関は低いことが判明した(図表)。金利は2024年、おそらくそれ以降も高水準で推移する可能性が高く、こうした市場環境は持続するとABでは予想している。

そのことは、投資家にとってロング/ショート戦略への投資機会が多くあることを物語っている。高金利下でも、潤沢なフリーキャッシュフローを抱えるキャッシュリッチな企業は債務返済を続けながら、買収や戦略的投資など、株主の利益となる行動をとることができるかもしれない。一方、キャッシュ創出に苦しむ企業にとっては選択肢が少なくなる。また、債務の返済期限が迫っている企業は、より高い金利での借り換えを強いられる結果、資本コストが上昇し、経営にさらなる負担がかかることになる。

ロング/ショート戦略はヘッジファンドが最も利用する戦略の1つであるため、マネジャーの選択が重要になる。ABでは、マルチ・ポートフォリオ・マネジャー戦略はリターンの分散とリスク管理という貴重な利点をもたらし、下値リスクの軽減に役立つ可能性があると考える。一方、現在はキャッシュレートが高水準にあるため、多額のキャッシュバランスがリターンに寄与するかもしれない。

マージャー・アービトラージ戦略:金利上昇でスプレッド拡大

マージャー・アービトラージ戦略は、被買収企業の株式を購入し、現在の株価と買収完了時点の株価の格差(スプレッド)を利用してリターンの獲得を狙う。金利が上昇する環境では、投資家は高水準のアービトラージ・スプレッドを求めることができ、全体のリターンを増大できる可能性がある。

もちろん、2023年のように金利が上昇すれば、合併の動きが鈍化する可能性がある。しかし、今日のような高金利環境では、潤沢なフリーキャッシュフローを抱えた競争相手が少ない企業にとっては、それが有利に作用するかもしれない。買収に際して、高金利で多額の債務を新たに借り入れる必要がない限り、合併は経営陣にとって市場シェアと営業収益を拡大する好ましい方法となる可能性がある。

マージャー・アービトラージ戦略がもたらす潜在的なリターンは、長期的な市場の方向性とは相関性が低い。大半の案件は最終的に成立し、スプレッドは取引が成立しないリスクを受け入れるためのプレミアムとして実現する。簡単に言えば、株式市場の動向はあまり重要ではないことになる。ディールが完了する限り、被買収企業は提示された金額を受け取り、投資家はリスク・プレミアムを手にすることになる。

ここでもマネジャーの選択が重要で、特に米国と英国の規制当局によるディールの監視が厳しくなっている中ではそう言える。一部のマネジャーは、成立する確率が最も高いと判断した案件のみに投資する裁量的なアプローチを採用している。一方、より広範に投資するものの、リスクに応じてポジションの規模を変えるマネジャーもいる。そうしたアプローチは、1つまたはそれ以上の案件が不成立に終わった場合のリターンのボラティリティを抑えるのに役立つ可能性がある。投資家は資金を投じる前に、マネジャーの実績、経験、デューデリジェンス・プロセスを慎重に吟味する必要がある。

システマティック・マクロ戦略:全天候型のアプローチ

高金利は、先進国か新興国かを問わず、世界の経済を圧迫する。それはシステマティック・マクロ戦略という、大規模で確立されたもう1つのヘッジファンド・カテゴリーを活用するのに適した投資機会を生み出す可能性がある。

システマティック・マクロ戦略は、さまざまな資産クラスや地域における市場の方向性やレラティブ・バリューに着目した取引を行う異種のカテゴリーである。どちらも、市場が不安定な場面で分散効果をもたらしてくれる。

実際には、マネジャーは株式市場や債券市場全体とは相関性のない、明確なリターン創出源を利用しようとする。これらのシグナルは数多くあり、マネジャーによって大きく異なっていて、「キャリー」や「トレンド」といったよく知られたカテゴリーや、個々のマネジャー独自のカテゴリーもある。

マネジャーはデリバティブを利用して、株価指数、債券市場、通貨、コモディティ、株式セクターなど、幅広い資産クラスでロング・ポジションやショート・ポジションを構築する。

高金利の環境では、システマティック・マクロ戦略ポートフォリオ内のさまざまなシグナルが、さまざまな形で反応する。例えば、「キャリー」は金利の分散から直接恩恵を受けるが、「バリュー」にとっては金利の分散が逆風となるかもしれない。しかし、通常はシグナル・カテゴリー間のリスク分散が、ポートフォリオ全体のパフォーマンスが特定の市場動向や経済環境と連動するのを防ぐ役割を果たす。

これらの戦略は実物資産ではなくデリバティブに依存しているため、資金効率が高い。株式ロング/ショート戦略と同様、概して余剰な手元資金を保有しているため、現在のような高金利環境においてはトータル・リターンを押し上げる効果が期待できる。

ABは、強力で耐久性のあるポートフォリオとは、分散されたものだと考えている。どんな市場環境の下でも、ヘッジファンド戦略はより伝統的な株式や債券への資産配分を補完する可能性があるが、市場環境が変化している場面では、とりわけその価値が高まるだろう。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら
 

本文中の見解はリサーチ、投資助言、売買推奨ではなく、必ずしもアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)ポートフォリオ運用チームの見解とは限りません。本文中で言及した資産クラスに関する過去の実績や分析は将来の成果等を示唆・保証するものではありません。

当資料は、2023年11月9日現在の情報を基にアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーが作成したものをアライアンス・バーンスタイン株式会社が翻訳した資料であり、いかなる場合も当資料に記載されている情報は、投資助言としてみなされません。当資料は信用できると判断した情報をもとに作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。当資料に掲載されている予測、見通し、見解のいずれも実現される保証はありません。また当資料の記載内容、データ等は作成時点のものであり、今後予告なしに変更することがあります。当資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、当該指数等の開発元または公表元に帰属します。当資料中の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。アライアンス・バーンスタイン及びABはアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーとその傘下の関連会社を含みます。アライアンス・バーンスタイン株式会社は、ABの日本拠点です。
 

当資料についてのご意見、コメント、お問い合せ等はjpmarcom@editalliancebernsteinまでお寄せください。

「オルタナティブ」カテゴリーの最新記事

「オルタナティブ」カテゴリーでよく読まれている記事

「オルタナティブ」カテゴリー 一覧へ

アライアンス・バーンスタインの運用サービス

アライアンス・バーンスタイン株式会社

金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第303号
https://www.alliancebernstein.co.jp/

加入協会
一般社団法人投資信託協会
一般社団法人日本投資顧問業協会
日本証券業協会
一般社団法人第二種金融商品取引業協会

当資料についての重要情報

当資料は、投資判断のご参考となる情報提供を目的としており勧誘を目的としたものではありません。特定の投資信託の取得をご希望の場合には、販売会社において投資信託説明書(交付目論見書)をお渡ししますので、必ず詳細をご確認のうえ、投資に関する最終決定はご自身で判断なさるようお願いします。以下の内容は、投資信託をお申込みされる際に、投資家の皆様に、ご確認いただきたい事項としてお知らせするものです。

投資信託のリスクについて

アライアンス・バーンスタイン株式会社の設定・運用する投資信託は、株式・債券等の値動きのある金融商品等に投資します(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)ので、基準価額は変動し、投資元本を割り込むことがあります。したがって、元金が保証されているものではありません。投資信託の運用による損益は、全て投資者の皆様に帰属します。投資信託は預貯金と異なります。リスクの要因については、各投資信託が投資する金融商品等により異なりますので、お申込みにあたっては、各投資信託の投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等をご覧ください。

お客様にご負担いただく費用

投資信託のご購入時や運用期間中には以下の費用がかかります

  • 申込時に直接ご負担いただく費用…申込手数料 上限3.3%(税抜3.0%)です。
  • 換金時に直接ご負担いただく費用…信託財産留保金 上限0.5%です。
  • 保有期間に間接的にご負担いただく費用…信託報酬 上限2.068%(税抜1.880%)です。

その他費用:上記以外に保有期間に応じてご負担いただく費用があります。投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等でご確認ください。

上記に記載しているリスクや費用項目につきましては、一般的な投資信託を想定しております。費用の料率につきましては、アライアンス・バーンスタイン株式会社が運用する全ての投資信託のうち、徴収するそれぞれの費用における最高の料率を記載しております。

ご注意

アライアンス・バーンスタイン株式会社の運用戦略や商品は、値動きのある金融商品等を投資対象として運用を行いますので、運用ポートフォリオの運用実績は、組入れられた金融商品等の値動きの変化による影響を受けます。また、金融商品取引業者等と取引を行うため、その業務または財産の状況の変化による影響も受けます。デリバティブ取引を行う場合は、これらの影響により保証金を超過する損失が発生する可能性があります。資産の価値の減少を含むリスクはお客様に帰属します。したがって、元金および利回りのいずれも保証されているものではありません。運用戦略や商品によって投資対象資産の種類や投資制限、取引市場、投資対象国等が異なることから、リスクの内容や性質が異なります。また、ご投資に伴う運用報酬や保有期間中に間接的にご負担いただく費用、その他費用等及びその合計額も異なりますので、その金額をあらかじめ表示することができません。上記の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。