バランスの取れたポートフォリオには、高いリターンの可能性をもった資産と、値下がりリスクを緩和する資産の両方が必要である。その両面を持ち合わせているのがダイレクト・レンディングであり、とりわけ昨今の不透明な市場においては、極めて貴重な投資手法になり得るとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では考える。

ダイレクト・レンディングの形で投資をすれば、リスクを調整しながら大きなリターンを享受できる可能性が高めることができると同時に、値下がりリスクを抑える特徴も兼ね備えることができるとABではみている。こうした攻守両面に強い特性は、特に今日のマクロ環境に適しており、分散ポートフォリオにおけるプライベート・クレジット投資の重要性をよく示している。

ダイレクト・レンディングで攻勢をかける良いタイミング

攻めの投資戦略としては、今が投資家にとってダイレクト・レンディングへのエクスポージャーの追加を検討する好機であるとABでは考える。資産の利回り上昇がこの資産クラスの潜在的なリターン向上をもたらしているからだ。

米連邦準備制度理事会(FRB)による一連の積極的な利上げによって、市場全般にわたるベース金利が上昇し、直接組成されたローンの利回りも大きく上昇する結果となっている。有担保のシニアローンは通常変動金利となっているが、この金利は2022年の年央には7%台半ばであったのが、現在ではそれをはるかに上回る12%超となっている。ファイナンスを利用するシニア有担保ローン戦略では、潜在的なネット・リターンが昨今では10-15%台までに上昇し、投資家が想定する長期リターンを大幅に上回っている。また、FRBの金融引き締めは企業の大小を問わず信用を制約し、資本や融資余力のある貸し手に有利に働く競争ダイナミクスを作り出した。非伝統的な貸し手の方が、このようなダイナミクスを上手く活用できる。従来のシンジケート・ローン市場は不安定であるのに対し、非伝統的な貸し手は長期的な資本基盤を有し、借り手に対する柔軟なソリューションを提供することができる。

ダイレクト・レンディングでも守りは重要

投資においても、スポーツと同様、守りは重要である。ダイレクト・レンディングは強力な攻めに加え、ダウンサイド・リスクを軽減する潜在力を備えている。これは、今日の経済環境では投資家にとって重要なことである。何世代にもわたって経験することのなかったインフレ圧力やこれまで以上の不確実性が存在しているためである。

長年にわたって、ダイレクト・レンディングは不安定な経済環境や市場ストレスが大きい時期には安定性を提供する点で優れていた。例えば、市場のピークからボトムまでの下落幅を示すドローダウンは、世界金融危機や新型コロナウイルスのパンデミック時には、パブリック・クレジット市場の方がダイレクト・レンディングに比べはるかに深刻であった。FRBが2022年初頭に現在の引き締めサイクルを開始して以来、ダイレクト・レンディングのリターンはプラスを維持してきた(図表)

強固な守りを実現する戦略

ダイレクト・レンディングが不況期に優れた実績を示すのはなぜか。それは結局のところ、重要な仕組みが上手く機能しているためだとABでは考える。米国の金利は今後も高止まりするものと見られ(以前の記事『Higher for Longer: Getting Comfortable with the New Policy Regime』(英語)ご参照)、経済が不況に陥ったり資本市場のボラティリティが高まったりした場合、こうした守りに強い特徴があることで、ダウンサイド・リスクは軽減され得る。

● バイ・アンド・ホールドのアプローチ:ダイレクト・レンディングは、バイ・アンド・ホールド型(途中売買はせずに満期まで保有する投資手法)の資産クラスである。ほとんどの投資家は、複数年のコミットメント期間または流動性に関する制限や財務制限条項などを有するファンド構造を通じて、ファンドにアクセスする。また、運用マネジャーは通常ポジションの売り買いを積極的に行うことはなく、借り手から返済を受けるまでポジションを保有し続ける。ダイレクト・ローンは一般に販売されることがないため、より伝統的な上場資産市場で下落相場時に発生するテクニカルな売り圧力のようなものとは無縁である。

● エクイティ資本の大きなバッファー:ダイレクト・ローンは通常、資本構造の最上位で取り扱われる。このため、借り手の価値が下落した場合でも、その下にはその下落を吸収する大きなエクイティのバッファーが存在している。こうしたローンでは通常、借り手の事業の株式を含む全資産に対し、貸し手に優先的求償権が付与されている。言い換えれば、貸し手に実損が及ぶことは、通常借り手によほど多くの問題が生じる場合に限られる。

● 貸し手に与えられるその他の構造的な保護措置:ダイレクト・ローンでは、貸し手はレバレッジ(資本に対する借入債務比率)の上限や最低限必要な流動性の水準など、一定の防衛的なコベナンツ(財務制限条項)を交渉することができる。借り手が業績悪化に陥った場合、これらのコベナンツによって貸し手には自らが有利になるようにローン条件を修正する交渉力が付与される。このような修正によって、ダウンサイド・リスクを軽減できる上に、リスクの増加に対して貸し手に補償を行うことになる。

● 強い関係構築:ダイレクト・レンディングの貸し手は、通常、単独または同じ意図を共有する少数のグループで企業に融資を行う。これによって、貸し手、借り手、プライベート・エクイティのスポンサーとの間での定期的なコミュニケーションが促され、それが重要な関係構築の原動力になる。より頻繁で緊密な情報フローが生まれることで、貸し手は借り手の業績や見通しについての最新の状況をより的確に把握することができ、債務不履行が予想される場合でも前もって対応できることになる。50社から80社、場合によってはそれ以上にもなる多くの参加者が関与する広範なシンジケート・ローンの場合、このような連携や協調をすることは困難となることが多い。

ローン利回りの上昇に伴い、ダイレクト・レンディングの貸し手は、借り手の資本構成がここ数年と比較してより保守的になっていることからも恩恵を受けている。借り手の資本構成がレバレッジをさらに抑えたものとなっていることで、足元で進行する高金利の状況下でも、債務返済義務を果たし得るとの安心感が得られている。一方で、質の良い資産が高い需要を維持しているため、企業価値は比較的安定しており、これにより、健全なエクイティ・バッファーの状態が続いている。

ダイレクト・レンディングが守りに強いという特性は、米国が不況に陥った場合に価値を発揮し得る。不況突入は辛うじて免れているが、2024年に向けて労働市場が弱まり、経済全体も鈍化するようなことがあっても不思議ではない。

プライベート・クレジットに対する投資家の需要の高まりによって、ダイレクト・レンディング業者の数は急速に増加している。Preqin社によると、プライベート・クレジットの運用資産は、ダイレクト・レンディングに加えて、ディストレスト・レンディングやオポチュニスティック・クレジットなどの他のプライベート戦略も含めると、今や8,120億米ドルを超えている。そして、ダイレクト・レンディングのビジネスチャンスは拡大を続けている。目下アッパーミドル層の借り手への融資チャンスを求めて、ダイレクト・レンディングの貸し手は投資銀行と真っ向から競争を繰り広げているからである。

さらに、全てのプライベート・レンディングの貸し手は同じではない。投資家は、強力な案件ソーシング能力を備え、引受やポートフォリオ・マネジメントの深い専門知識を持った運用マネジャーを見出すために調査を怠らないことが肝要である。これこそが、経済環境はさまざまであっても、高いパフォーマンスの可能性を見出す常道だとABでは考えている。

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