投資家は、人工知能(AI)にとってエネルギー効率の高いエコシステムの構築に貢献する企業にもっと注目すべきである。
AIと、それが世界を変える可能性が大きな関心を集めている。だが、そのエネルギーフットプリントについてはあまり話題になっていない。このエネルギー問題の解決に貢献する企業は、急成長するAIの持続可能な未来を実現し、株式投資家にとって魅力的な投資機会を生み出す可能性がある。
「生成」AIと呼ばれる人工知能は、機械学習を利用してテキスト、音声、動画、画像などのコンテンツを生み出す。おそらく最も有名なものは、オープンAIが作り出した「チャットGPT」だ。生成AIの用途は、学術論文からオーディオやビデオの編集、科学研究に至るまで、限りなく広がっている。あらゆる企業が、生産性を向上させ、医療(以前の記事『ヘルスケアにおけるAI導入は、投資家にとってどのような意味を持つか?』ご参照)から投資業務(以前の記事『投資におけるチャットGPTの活用方法:1万人のインターンを使うように』ご参照)までさまざまなビジネス上の利益を生み出すことができるAIアプリケーションを求めている(以前の記事『AI Alone Won’t Magically Unlock Earnings Power』(英語)ご参照)。
だが、難しい問題がある。AIはモデルを学習するのに膨大な計算能力を必要とする。そこで厄介な問題が生じる。つまり、AIがエネルギーに与える影響である。
生成AIは大量のエネルギーを消費
機械学習にはどんな魔法が隠されているのだろうか?主に2つの段階がある。1つ目はトレーニングで、機械がモデルを作成するためできる限り多くのことを学ぶことができるよう情報を収集する。もうひとつは推論で、機械はそのモデルを使ってコンテンツを生成し、新たなデータを分析することで、実用的な結果を生み出す。
これらすべての作業はエネルギーを必要とする。AIモデルが強力で複雑であればあるほど、トレーニングに要する時間とエネルギーが増えることになる(図表)。
オープンAIのGPT-3モデルはその一例だ。米国スタンフォード大学のレポート(「Artificial Intelligence Index Report 2023」(英語)、外部リンク)によると、GPT-3のトレーニングに必要なエネルギーは、平均的な米国の家庭に120年以上供給できる電力に相当するという。一方、米国カリフォルニア州の半導体メーカーであるエヌビディアは、深層学習アーキテクチャの一種であるトランスフォーマーを含むモデルのトレーニングに必要なエネルギーは、2年ごとに275倍に拡大してきたと指摘している。
多くのエネルギー消費源
AIは多くの分野でエネルギーを消費する。大規模なモデルのトレーニングや実行に加え、AI検索やチャットボットなどのAIに支えられた製品の普及が膨大な電力消費につながる。
複雑なモデルが増えるのに伴い、グラフィック・プロセッシング・ユニット(GPU)など、より特殊なハードウェアを使う必要が出てくる。一方、明るい材料としては、GPUは従来の中央演算処理装置(CPU)に比べ1ワット当たりの性能がはるかに高く、AIモデルのトレーニングや実行に必要となる全体的な電力を相殺できることが挙げられる。
こうしたエネルギー消費源は最終的に、大量の電力を必要とするデータセンターの建設を加速させることになる。国際エネルギー機関(IEA)によると、データセンターはすでに世界のエネルギー消費量の1%近くを占めている。一部の研究はAIが普及し始める前から、新テクノロジーのエネルギー需要によってデータセンター建設が急増すると予測していた(Science Directによるレポートご参照(英語、外部リンク))。
炭素排出量の問題も考慮しなければならない。特に、投資家は定量化が困難な「スコープ3」と呼ばれる上流部門と下流部門の排出量を測定するよう企業に求めている(以前の記事『低炭素投資に必要なクオリティ重視の視点』ご参照)。AIの利用が進むのに伴い、従来はカーボンフットプリントが低かった企業も含め、データを利用するすべての企業のスコープ3排出量が増加すると予想される。
企業はAIエネルギーに関する難問にどう取り組んで いるのか?
幸いなことに、企業はAIが消費する膨大なエネルギー問題に取り組み始めている。その中には、AIの中核を担う企業もあれば、その周辺に位置するだけの企業もある。投資家は、次に挙げる主な3つの分野に注目すべきだとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考えている。
ハードウェアとソフトウェア:AI関連のエネルギー使用量を削減するには、新たなプロセッサー・アーキテクチャが必要になる。アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)やエヌビディアのような米国の半導体メーカーは、よりエネルギー効率の高いパフォーマンスを実現することに注力している。実際、AMDはAIのトレーニングや高パフォーマンスのコンピューティングに使用されるプロセッサーやアクセラレーターのエネルギー効率を5年間で30倍引き上げるという目標を掲げている。エヌビディアによると、大規模言語モデルのトレーニングなど、一部のアプリケーションにおけるGPUベースのサーバーのエネルギー消費量は、CPUベースの代替製品よりも25倍少ないという。AMDやエヌビディアなどのGPUがデータセンターにおけるCPUのシェアを奪えば、エネルギー効率はさらに向上すると思われる。
エネルギーを節約するには、最先端のトランジスタ・パッケージ技術も必要になる。機械学習の効率性を高めるには、ダイナミックな電圧周波数スケーリングや熱管理などの技術が必要となる。台湾の半導体メーカーTSMCやオランダのASMLなど、半導体チップの製造・検査を手掛ける企業は、こうした新たなイノベーションを市場に投入する上で重要な役割を果たすと予想される。
AIサーバーやデータセンターの電源管理の改善に役立つパワー半導体も、投資家の関心を集める見通しだ。パワー半導体は電流を調整し、より小さなフットプリントでより多くの機能を統合することで、全体的なエネルギー使用量を削減することができる。米国ワシントン州カークランドを拠点とするモノリシック・パワー・システムズやドイツの半導体メーカー、インフィニオン・テクノロジーズなどは、その開発を目指す最前線にいるとABは考えている。
データセンター設計の改善: AIの導入でデータセンターの処理能力が拡大するのに伴い、データセンターに部品を供給する企業が恩恵を受ける可能性がある。それらの主な部品としては、電源、光ネットワーク、メモリーシステム、ケーブル配線などが挙げられる。アマゾン・ドット・コム、グーグル、マイクロソフトなど、データセンターを利用するテクノロジー企業も、データセンターの設計とエネルギー消費の改善を続ける強いインセンティブを有している。
回りまわって、AI自体がデータセンターの運営を最適化するために利用されている。2022年に、グーグル傘下のディープマインドは、グーグルのデータセンターの冷却手順を最適化するため、「BCOOLER」と呼ばれる学習エージェントを3ヵ月にわたり実験的に訓練し、その結果を公表した。それにより、BCOOLERはエネルギー消費を約13%節約し、データセンターの数が増えてもエネルギー効率が改善されていることが判明した。
再生可能エネルギー: 米国エネルギー情報局によると、2022年には米国の発電量のうち再生可能エネルギーが21.5%を占めた。米国の送電網の80%は再生可能エネルギーを利用できないため、当面は従来の化石燃料で電力が生産されることになる。
しかし、時が経てば、AIの需要が再生可能エネルギーの利用拡大につながる可能性がある。特に、排出ネットゼロのポリシーが業界で最も進んでいるマイクロソフトやグーグルの親会社アルファベットなどによってAIデータセンターが運営されるとみられることを考えれば、その可能性は一段と高まる。その結果、AIの導入が加速すれば、再生可能エネルギーのエコシステム全体に対する投資見通しが改善する可能性がある。
エネルギー・ソリューションへの投資
これらすべての分野において、投資家は技術的優位性、長期的な価格決定力、健全なフリーキャッシュフロー創出力、持続性のあるビジネスモデルを持つ質の高い企業を探し出さなくてはならない。エネルギー効率の高いAI能力に対する需要増の恩恵を受けることのできる、強力なファンダメンタルズを持つ企業は、サステナビリティに焦点を当てた株式投資家や絶対ベースのリターンを重視する投資家に、魅力的な投資機会をもたらす可能性がある。
AIの導入が加速し、チャットボットが検索エンジンに取って代わりつつある中、この革命的な機械学習がエネルギーに与える影響から目をそらすわけにはいかない。よりエネルギー効率の高いAIエコシステムの構築を目指す取り組みは、今はまだそれほど注目されていないかもしれないが、いずれは潜在的なソリューションを早期に察知できる投資家に魅力的なリターンを得る可能性を提供するかもしれない。
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