2022年秋の国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)はいくつかの重要な議題について、さまざまな結果を残して閉幕した。今回の会合は、世界の気候変動をめぐる議論に変化をもたらしたという点で記憶に残ることになるだろう。
COP27では、ここ数年で初めて新興国が中心となって議論を主導したことで、世界が気候変動に対処する上で新興国が重要な役割を果たすことが明確に認識された。あるスピーカーは「気候変動との戦いで勝敗を決するのは、アジア、中東、中南米になるだろう」と述べた。
最大の成果は、2つの重要なトピックを議題に盛り込んだことかもしれない。そのひとつは気候変動への「適応」で、国家や業界、そして消費者が、気候変動がもたらすさらなる物理的現象に備える必要があることだ。もうひとつは「損失と損害」で、気候変動の悪影響に対するアカウンタビリティ(説明責任)を問うことだ。実際、新興国はCOP27の合意文書に「損失と損害基金」の設立に向けたロードマップを盛り込むことに成功した。
「適応」はささやかな勝利だが、「損失と損害」は大きな勝利
「適応」と「損失と損害」に関する議論は、気候変動がもたらす影響の大きさやそれらに対処するコストに直接関わってくる。気候変動対策として調達した資金のうち、適応に充てられるのはわずか7.5%で、残りは炭素排出の削減に振り向けられている。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンスがCOP27で発表した レポートによると、新興国が2030年までに脱炭素移行への取り組みに必要と推定される年間2兆4,000億米ドルのうち、半分以上は外部から調達することになりそうだ。
適応に関するささやかな成果として、各国は早期警戒システム構築のため、5年間で総額31億8,000万米ドルを拠出することに合意した。これは比較的少額だが、適応が議題となったのが初めてであることを踏まえれば、この合意は心強い。さらに大きな成果として、貧しい国々が気候変動による被害から復興する取り組みを支援する「損失と損害基金」の設立に合意したことで、これも初めて議題となった。
この基金設立に向けた進展は順調に進むわけでも、直ちに実現するものでもないかもしれないが、この合意には、資金調達を先進国だけでなく、金融機関や他の組織にも広げることを目指す文言が盛り込まれている。その第一歩は、基金の運用方法を検討するための移行委員会の設立で、2023年のCOP28で見直される予定となっている。
緊急のアクションが求められる炭素排出削減
COP27で発表されたデータでは、気候問題の緊急性が浮き彫りになった。米国政府が作成した第5回年次気候評価の草案によると、歴史的に最大の炭素排出国である米国では、過去半世紀の間に地球全体よりも温暖化のペースが68%速かったことが判明した。
世界気象機関は「2022年の地球気候に関する暫定的状況」 と題する報告書で、海面上昇、記録的な海洋熱波、厳しい気象現象の発生頻度が異例なほど高まっていると指摘した。世界の気温は摂氏1.15度上昇し、(産業革命前からの)気温上昇幅を1.5度に抑えるというパリ協定で定められた目標を達成するための余地はほとんどなくなっている。
こうした緊急性を背景に、排出削減に取り組むための行動に対しては全般的に失望感が漂っていた。COP27の最終合意では、すべての化石燃料を段階的に削減するのではなく、「稼働している石炭火力発電の段階的削減と、非効率的な化石燃料補助金の段階的削減に向けた努力」を加速させるよう各国に求めた。この文言は、石炭よりはクリーンとはいえ大量の二酸化炭素(CO2)とメタンを排出する天然ガスの利用拡大への道を開いたままにしている。さらに、これまで毎年見直していた目標を、5年ごとに行うように変更している。今回の合意には、これまでのCOPでの議論とは異なり、炭素排出量を2025年までにピークアウトさせるという要求は盛り込まれなかった。
パートナーシップ:資金調達に関する効果的なソリューションのカギに
資金調達の課題については、特に適応への取り組みや低炭素プロジェクトを支えるため、新興国に資金をうまく振り向ける方法について焦点が当てられた。重要なのは、エネルギー転換に向けた政府のコミットメントや、投資可能なプロジェクトが安定的に提供されることに対し、投資家が確信を持てるかどうかということだ。
そのためには、従来の開発金融機関と政府との関係を超えた、公的機関と民間セクターによる新たなパートナーシップの構築が重要になる。予想可能で適切な規模のプロジェクトを供給するには、より幅広いステークホルダーを巻き込んだ革新的な仕組みを構築しなくてはならない。
また、パートナーシップは、他の形態の資金を呼び込むために譲許的融資、慈善的融資、(公的資金や慈善資金と民間の投資・融資を組み合わせた)ブレンデッド・ファイナンス等の開発資金を用いて、革新的な官民連携の資金アプローチを促進すべきである。そのためには、現地のパートナーとの連携を図り、国際的な銀行及び金融サービスと同様に現地の銀行や金融サービスの利用も不可欠である。例えば、南アフリカは、石炭火力発電の廃止と再生可能エネルギーの開発などのために、富裕国から供給される85億米ドルの資金パッケージの利用を計画している。一方、米国や日本などは、インドネシアに対し、石炭火力発電からの脱却のために200億米ドルの資金を提供している。
COP27では、適応とそれに関連する物理的リスクによって、保険会社の役割が浮き彫りになった。この分野で最も先進的な企業は、政府と連携して、気候変動への耐性や将来にわたる保全を重視し、資産の修復を目指すネットワークを構築している。これらのネットワークは、移行期に重要な資産のリスク軽減から生まれる商業的機会についても検討している。保険会社は、適応した資産はリスクが低いと認識している。早期警戒システム、モニタリングなど、より優れたデータの活用も不可欠である。
カーボンオフセットと生物多様性の役割
当初は、カーボンオフセットとカーボン市場が COP27の主なテーマになるとみられていたが、「適応」と「損失と損害」によって脇役に追いやられた。しかし、気温上昇幅を1.5度に抑える目標を達成するには炭素価格を 1トン当たり75米ドル にする必要があるという国際通貨基金(IMF)の指摘は大きな関心を集めた。
米国は、新興国における再生可能エネルギー・プロジェクトの加速や回復力の強化を促す投資に基づき新たなクラスのカーボンオフセットを作り出す「エネルギー・トランジション・アクセラレーター」と呼ばれるイニシアティブを発表した。しかし、政府や企業による実際の排出量の削減や低減への推進力を損ないかねないと懸念する声もある。
カーボンオフセットに関する議論の多くは、植林、農業プロジェクト、森林破壊からの保護といった、自然をベースとしたソリューションや、この分野における新興国の潜在的なチャンスに焦点が当てられた。また、気候変動がもたらす物理的リスクに対処する上で、自然や生物多様性が果たす役割についても重要視された。
変化する機会と公正な移行の必要性
移行に伴う商業的機会についての議論は、気候ファイナンスのいわゆる「第二の時代」の到来を告げる可能性がある。
第一の時代は、先進国市場における基準の設定、コミットメントの策定、再生可能エネルギーの拡大に焦点が当てられた。第二の時代はその導入と行動を目指しており、持続可能な消費パターン、食料システムや建築物の脱炭素化、新たなテクノロジーや素材の開発、新興国における自然や再生可能エネルギーの役割拡大などが対象となる。企業は、自然をベースとした気候に好ましい影響を与えるプロセス、システム、製品、サービスに対する消費者の需要を認識している。一方、政府に対しても、消費支出を促し、環境に安全な製品やサービスを提供する企業を支援する取り組みを強化するよう求めている。
もうひとつの重要な課題は、一部のグループが取り残されないような公正な移行を確保することだ。しかし、サステナビリティや気候問題に関するスキルを持った人材は不足している。公的機関は起業家やスタートアップ企業の育成とともに、教育やトレーニングへの投資を優先しなくてはならない。それは企業、先進国市場、金融サービス会社にも当てはまる。
投資家はコンフォートゾーンを脱却すべき
何人かのスピーカーは、投資家にとって発行体の適応リスクを理解及び管理する必要があると指摘し、これらのリスクを調査するため、排出削減に向けたこれまでの取り組みと同じレベルのコミットメントを示さなくてはならないと訴えた。
「損失と損害基金」の構造と資金調達メカニズムに関する議論は、クレジット投資家にとってとりわけ興味深いものとなりそうだ。それは特に低所得国にとって、気候変動とカントリーリスクを結びつける主な要因のひとつとなる可能性が高い。
機関投資家は、パートナーシップ・ファイナンスやブレンデッド・ファイナンスを強化するには、インフラへの直接投資や、上場企業ではなく非公開企業への投資、政治リスクの度合いが異なる新たな市場やカウンターパーティとの取引など、新たな試みを数多く取り入れ、コンフォートゾーンから脱却する必要があることを認めている。
総括すると、正式なCOP27は終わったが、投資家にとっては、その教訓をリサーチや戦略に取り入れるという作業は、まだ始まったばかりだと言える。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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