2022年の環境・社会・ガバナンス(ESG)投資は、規制強化や不安定なパフォーマンスが批判にさらされる中で、困難な1年を乗り越えた。こうした急激な環境変化に伴う混乱は向かい風となったものの、長い目で見ればESG投資がさらに進化し、成長していく兆しとして歓迎したい。

実際、過去にシステムやプロセス、カルチャーが急激な変化を遂げた際にも、こうした局面が訪れるのは自然なことだった。資産運用業界では、上場投資信託(ETF)の急拡大に伴って同じように騒がしい時期を経験したが、やがて今日のように成熟した市場が作り出された。

アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では、大きなアイデアを無視するのではなく、早い段階で関与し、前向きに取り組むことがより建設的な結果につながると信じている。最近の難局はステークホルダーにとって、一致団結してESG投資への取り組みやルールを整備する好機になるだろう。具体的には、規制の策定及び遵守、共通の分類方法と用語の確立、長期的な投資リターンの改善につながり得る様々なESG投資戦略の構築などである。

規制当局はグリーンウォッシング防止に立ち上がる

ESG投資に関する多くの疑問に対し、資産運用会社(以下、「運用会社」)は真剣に応える必要がある。ここ数年はESG投資に対する熱が高まる中で、ESGファンドの新規組成や、既存ポートフォリオをESGに配慮した仕組みに作り替える例が多く見られた。発行体もESGの利点を強調する姿勢を強めている。もちろん、多くの運用会社や発行体は誠実に行動しているが、一部の運用会社にとって、曖昧な解釈に基づいて「ESGインテグレーション」をうたったり、ESG投資に関する体制や実績について誇張することは難しくなかった。

だが、そんな行為はもはや通じない。2021年以降、見せかけだけの環境配慮を装ったグリーンウォッシングに対処するとともに、複雑化する投資商品を投資家が理解するのを助けるための規制が大幅に増加している(以前の記事 『SFDRを読み解く~第8条と第9条のポートフォリオに何を求めるか~』ご参照) 。運用会社にとって、地域や国によって異なる情報開示や報告に関する要件を満たすのは容易ではないが、結局のところ、これらの規制には共通の目標がある。運用会社はやると言っていることを実行し、それについて十分な情報開示を行わなくてはならないということだ。運用会社はESGに関する目標を明示し、これらの目標を支える厳格かつ信頼できる運用フレームワークを開発及び開示し、目標達成に向けた進捗状況について顧客に包括的な報告を行う必要がある。

共通言語の確立で、ステークホルダー間の相互理解を 

規制の波と投資家の意識の高まりを背景に、明確な定義と情報開示の改善が求められている。アセットオーナーや運用会社は、規制当局や政策立案者と協力し、ESGインテグレーションや他の責任投資慣行の定義に関する曖昧さや混乱に対処すべきだ。

まず、ESGを「インテグレーション(統合)した」戦略とESGに「焦点を当てた」戦略を区別しなくてはならない。ESGインテグレーション戦略では、財務的に重要なESG問題を特定し(マテリアリティ)、それが売上高、利益率、キャッシュフロー、バリュエーション、資本コストといった事業や財務指標に与える影響を調査及び評価することが必要になる。投資家は、関連するリスクや投資機会が発行体のバリュエーションに織り込まれているかどうかを見極めなくてはならない。

ESGに焦点を当てた戦略は、ESGインテグレーションをさらに進めたものだ。ESG問題を考慮してリスクとリターンを最適化することに加え、ESG慣行を改善している発行体に焦点を当てたり、気候ソリューションを提供している企業に投資したりするといった、特定のESG目標やテーマを持っている。規制当局は、ESGに焦点を当てた戦略のさまざまなアプローチ(除外、ベスト・オブ・ブリードの重視、テーマ型投資、サステナブル投資、インパクト投資など)を、共通の分類法に整理することを目指している。

ポートフォリオにおけるESGインテグレーションを求める投資家は、ESGインテグレーションが実際どのように行われているかを把握する必要がある。これらのポートフォリオでは、投資プロセスにおける全てのステップにおいて、ESG問題がどう考慮されているかを明確に記録する、厳密なアプローチを取り入れなくてはならない。ESGインテグレーション戦略では、運用チームは投資アイデアを生み出すため、ESGに関する重要なリスクと機会を特定及び評価することから作業を始めることになるだろう。アナリストは、発行体、セクター、ポートフォリオが抱えるESGリスク特性や機会について幅広く理解するため、独自のまたはサードパーティのツールやデータ、リサーチを利用する必要がある。

ESGインテグレーションを効果的に行うためには、ポートフォリオ運用チームは世界の未来を決定づけるESG課題を多面的に捉えなくてはならない。アナリストは、上場企業や非上場企業、また企業以外の組織のリーダーと頻繁にミーティングを行い、具体的なESG課題について議論する必要がある。これらのミーティングで得た情報をもとに、運用チームは、キャッシュフロー割引率、信用格付け見通しや他の関連指標を必要に応じて調整し、ESGに関する機会やリスクを投資意思決定プロセスに落とし込んでいく。

また、真のESGインテグレーションは、投資判断を下した後も終わることはない。運用会社は継続的に発行体を監視するとともに、規制当局や政策立案者と協力し、ESGインテグレーションの定義をより研ぎ澄ましていく必要がある。

論争を超えて先に進む

ESG課題への対処を含め、潜在的な投資リスクやリターンをより包括的に評価することは、より研ぎ澄まされた投資判断につながる。ESGインテグレーションの本質的な目的は、より良いリスク調整後リターン達成を目指して、リスク評価を改善していくことにある。

例えば、ポートフォリオで投資を検討している企業が、製造設備で大量の炭素を排出しているとしよう。これは事業や投資家へのリターンにとって何を意味するのだろうか?運用チームは、炭素税や環境汚染規制によってこの企業が将来、大幅な設備刷新を迫られるリスクや、競合他社が炭素排出の少ない製品を開発した場合に市場シェアを奪われるリスクなどについて、調査し、考慮する必要がある。

ABは、ESGインテグレーションはより優れた情報に基づく投資であるとシンプルに捉えている。ESGインテグレーション戦略に異を唱える投資家はほとんどいない一方で、ESGに焦点を当てた戦略については好みが分かれる。投資家が全ての投資スタイルを取り入れる必要がないように、ESGに焦点を当てたすべての分野を網羅して投資する必要もない。

多様なESGリターン創出源への需要が高まっている   

ESGに焦点を当てた戦略への投資を検討している投資家は、リターンのポテンシャルが犠牲にならないことを確認したいと考えている。実際、ESG投資とアルファ(超過収益)創出の関連性は、データ期間が比較的短いこともあり、散発的なものにとどまっている。

2021年までの数年間、ESGをテーマとしたポートフォリオはおおむね市場全体をアウトパフォームしてきた。その多くが大型成長株をオーバーウェイトとしていたことが理由だ。しかし、2022年はテクノロジー株が下落する一方で化石燃料価格が大幅に上昇したため、多くのESGポートフォリオがアンダーパフォームした。

こうした経験を踏まえ、ABは、単一のベータ創出源に依存しない、複数の補完的なESG戦略を開発する必要があることを認識している。あらゆる資産配分において言えるように、投資家はさまざまな株式投資スタイルやオルタナティブ資産、債券への投資を検討し、ESGに焦点を当てた戦略のリターン創出源を分散する必要がある。さらに、投資家は企業への投資だけにとらわれず、ソブリン債や不動産、証券化資産もESG投資に役立てることができる。

責任投資の成熟化に伴う次のステップ   

2022年は責任投資にとって困難な1年だったかもしれないが、責任投資の重要性が薄れたわけではない。それどころか、ネットゼロへのコミットメントによってESG資産が急速に拡大し、ESGに関する株主の要求(アクティビズム)が高まると予想される中、投資家は成長に伴うこうした痛みに対処するしっかりとした指針と明確さを必要としている。

規制や消費者のし好、競争環境が変化する中、運用会社は、責任投資の根幹を成す規制、共通用語、強靭な枠組み、差別化されたリターン創出源などに関する議論への積極的な関与を続ける必要がある。

気候変動から強制労働、差別や多様性に至るまで、ESGに関する問題は長期的な株主価値創造の阻害もしくは促進につながる、重大な投資リスクと機会をもたらしている。これこそが、ESGに関する問題に対処する最善策、そして顧客の長期的な成功を確保する最良の方法は、よく考え抜かれた、財務的重要性(マテリアリティ)に基づく投資アプローチであるとABが確信している理由である。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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