最近のトルコの通貨危機は、新興国市場の株式や債券を保有する投資家を不安に陥れた。米ドルが幅広い通貨に対し全般的に強含んだことがさらに不安を煽った。しかし、新興国の経済や企業は過去と比べ、米ドル高に対する抵抗力がはるかに高まっていることを忘れてはならない。
新興国ファンドから資金が流出
2018年は、米ドルが上昇する中で新興国の資産価格は低迷している。米ドル建ての新興国債券が年初から5月29日までに3.6%下落したほか、新興国株式も2.1%下落した(米ドルベース)。投資家はすでにそれに反応しており、5月は新興国の株式や債券のファンドから資金が流出し、それまで4カ月にわたって続いていた高水準の資金流入が途絶えた。
一般的には、米ドル高は米ドル建て債務のある新興国の借り手に問題をもたらすと考えられている。不利な為替レートで債務を返済しなくてはならなくなるからだ。また、多くのアナリストは米ドル高が全般的な流動性のひっ迫や、「リスク・オフ」指向を示す兆しだと受け止めており、これはいずれも新興国市場にとっては逆風となるものだ。
米ドル高の背景
こうした説明には妥当性もあるが、より広い視野から市場全体の流れを見る必要がある。
米ドル相場は、足元の回復にもかかわらず、他の主要通貨に対して依然として2017年初頭につけたピークを約8%下回っており、過去5年間の平均に近い水準にある。したがって、新興国の借り手にとっても、為替レートによる負担は十分吸収できるものと考えられる。
流動性に関するリスクも誇張されている可能性がある。流動性は確かに世界的にやや引き締まっているかもしれないが、それはかなり緩い水準からの動きであることに留意すべきである。しかも、主要中央銀行の大半は、少なくとも年内は緩和的な政策を維持すると予想されている。
為替相場の影響が過大評価
そもそも、新興国の企業や経済にとって、為替相場の動きはかつてほど大きな問題ではなくなっている可能性もある。各国の内需拡大の結果、多くの新興国企業は今や利益の大半を国内市場で稼いでおり、米ドル建ての負債もさほどない。新興国株価指数への組入比率の高い企業でもそれは当てはまる。例えば中国の大手インターネット企業は、為替相場や金利でファンダメンタルズが影響を受けることはほとんどない。輸出比率の高い企業は、むしろ米ドル高によって米国市場における競争力が高まり、恩恵を受ける。
各国政府にとっても、米ドル高によって信用力が損なわれる可能性は、5年前と比べても著しく低下している。それは2013年に「テーパー・タントラム(米連邦準備制度理事会の量的緩和解除観測を受けた市場の混乱)」に見舞われた後、新興国が着実に課題をこなしてきたからだ。各国の対外収支ははるかに健全になり、対外債務への依存度も低下している。もちろん、トルコなど例外的に脆弱に見える国もある。そのため、投資家は米ドル高の環境下で新興国の債券に投資するにあたっては、選別的な姿勢をとる必要がある。
ヘッジは重要
たとえ米ドル高で新興国市場の長期的な回復が損なわれることはないとしても、短期的には市場に影響が出る可能性があるのは明らかだ。そのため、今日のポートフォリオにおいては、為替リスクを積極的に管理することがとりわけ重要になる。
新興国ポートフォリオの一部を米ドルベースにヘッジすることにはいくつかの利点がある。投資家はファンダメンタルズが強固な資産への投資に集中できる一方でボラティリティが抑えられる上に、米ドルがさらに上昇した場合にはヘッジから利益を得られる可能性もある。
それに加え、ヘッジ・コストは10年以上前と同じくらい低くなっている。米国の金利が上昇している一方、新興国の金利は引き続き低水準にあるからである(図表2)。
もちろん、新興国資産は投資家のリスク許容度の変化に影響を受ける。そして、リスク許容度は今年になってやや後退している。しかし、投資家の不安感を反映して高まっていたボラティリティは、低下の兆しが現れている。例えば、米国株式市場のボラティリティを示すVIX指数は、すでに2月初めのピークから3分の1の水準に低下している。
堅調なマクロ経済と企業収益のトレンド
為替以外の要因を見渡すと、新興国全体で経済や企業業績の拡大トレンドが力強い動きを維持している。それは新興国の債券市場や株式市場の持続的な上昇を支える要因となるだろう。
新興国の資産は最近、米ドルの為替レートへの感応度が高まっている。しかし、アクティブな姿勢で為替のエクスポージャーを管理し、株式や債券の選択を行えば、投資家は長期にわたって個別銘柄要因に基づく魅力的なリターン獲得機会を手にしつつ、為替相場の変動に伴う短期的なボラティリティを抑えることも可能になる。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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