シリーズ「責任投資の現場から」

近年、より良い社会を創出するために企業や投資家の果たすべき役割を問う声が高まり、責任投資(RI)に注目が集っています。本シリーズでは、責任投資に関するアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)の経験から、現在実務の最先端ではどのように投資が行われ、どのような課題に直面しているのかをご紹介します。

国連の責任投資原則(PRI)への署名機関が年々増加し、運用会社の中でもESG(環境、社会、ガバナンス)評価を運用プロセスに取り入れる動きが広まりつつある。特に株式投資の世界ではさまざまな取り組みが進んでおり、メディアでも多くの事例が紹介されている。一方、社債投資の分野においては、資産特性上リターンのアップサイドが限られていること、議決権行使ができないこと、償還期限の長短があることなどを背景に、ESG評価への取り組みは株式ほどには進んでいないように見える。しかし、債券は株式とともに資産運用の両輪をなすものであるため、本稿では、従来ESGへの取り組みがあまり知られていなかった債券運用に注目することで、今やいかに運用会社やアセットオーナーにとって責任投資が普遍的な課題となりつつあるのかをお伝えしたい。

社債のアクティブ運用においても、信用力のダウンサイド・リスクを分析する上で、ESGの各要素を的確に把握することは重要である。古くはBPによるメキシコ湾原油流出事故、鉱山会社ヴァーレの所有していたダムの崩壊事故、セメント会社ラファージュホルシムのシリアにおけるイスラム過激派組織ISISとの取引など、ESGに関連する事項が信用力ひいては社債価格に大きく影響を与えた例は数多くある。したがって、債券運用においても、ESG評価を運用プロセスに組み込み、将来にわたり信用力や社債スプレッドに与え得る影響を適切に把握する重要性は高まってきていると言えよう。

ESGを統合したリサーチとエンゲージメントによる相乗効果.png

さて、ESG評価の運用プロセスへの統合(インテグレーション)には多様なアプローチがあり、一言でインテグレーションと呼んでいたとしても、運用調査の現場ではかなり異なる手法が取られていることが少なくない。以下、ESG評価を誰が行うのかに焦点を当て、主なアプローチの違いや運営上の留意点について考えたい。

運用プロセスにおいてESG評価を行うのは、①セクター担当のクレジット・アナリスト、または、②独立チームのESG専任アナリスト(株式と社債を兼務しているケースもある)、のいずれかに大別されると考えられる。

1. セクター担当のクレジット・アナリストがESG評価を行う場合

最大のメリットは、発行体やセクター動向への深い理解を基にESG評価を適用できる点である。セクター担当アナリストは、日々の信用力分析を通じて発行体の収益構造や経営体制、セクターの規制動向や競合状態について既に一定の理解を有していると考えられ、こうした知識に基づいて一貫したESG評価を行えることは大きな強みと言えよう。さらに、単なるESG評価に終始するのではなく、その評価内容が将来的な信用力に与えうる影響を的確に結びつけ、投資判断へのインプリケーションについて運用担当者に対し明確に説明する能力を有するという点でも、クレジット・アナリストには強みがあると考えられる。

一方、各クレジット・アナリストのESGに関する知識・理解が不十分であったり、アナリスト間でばらつきがあったりする場合には、信用力評価へのESG項目の反映が適切に行われないことも想定される。アクティブ運用において債券の魅力度を相対評価する上で、「共通の物差し」は不可欠であり、ESG評価においても十分かつ共有された理解に基づく分析が行われる必要があろう。

2. 独立チームのESG専任アナリストが評価を行う 場合

上述の裏返しともなるが、評価をする上での「共通の物差し」が比較的機能しやすい点がメリットである。評価・分析の下地となるESG関連の知識水準についても一定基準以上を満たす可能性が高く、バラつきは少なくなると考えられる。

一方、ESG専任アナリストは必ずしも対象の発行体やセクターに関する十分な分析経験や知見を持っているわけではない。ESG評価に当たって不可欠な、最新の規制・技術動向や競合状況、収益構造、経営体制等に関する理解が十分ではない場合、ESGに関する評価が対象発行体の実態を適切に反映しないものとなってしまう可能性がある。こうした問題は、分析対象の企業数が増え、1つの発行体に割けるリソースが少なくなるほどリスクが高くなると考えられる。さらに、専任アナリストによる独立したESG評価を、最終的にどのように信用力評価に組み込むのか、クレジット・アナリストの見解とどのようにバランスをとるのかといった点も議論の対象となりえよう。こうした点がクリアにならない場合、せっかくのESG評価が適切に投資判断に反映されず、結果的に、インテグレーションとは程遠いプロセスとなってしまうリスクが残る。

いずれのアプローチも完全ではないが、運用プロセスに合わせた形で対策をとることは不可能ではない。例えば、セクター担当のクレジット・アナリストがESG評価を行う場合は、トレーニング・プログラムを通じてESGに関連する最先端の研究成果等をアナリストに習得させ、信用力評価に反映させることが考えられる。このように、ひとことでインテグレーションと言っても、運用調査の現場で実際に起きていることはアプローチの仕方によって大きく異なる場合もあり、アセットオーナーの観点からはしっかりとした見極めが必要であろう。

 

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