はたして現在はコロナショック状態から通常の投資環境へ戻ってきているのか? 足元の環境を把握するために、投資家は幅広いデータを観測する。いわゆる昔からある経済統計とビッグデータ、それら両方を駆使する必要がありそうだ。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)の2020年6月26日時点の定点観測表をまとめてみた。
ABの定点観測表は、主に3つの分野からのシグナルを使っている。まずは公衆衛生、次に生活及び消費、そして金融市場だ。ビッグデータをお馴染みのデータソース(例えば企業業績の利益成長やGDP成長率)のみならず、最近台頭しているデータソース(グーグルトレンドやグラスドア(企業の口コミサイト))からも集めることで、定点観測の質を高めることができる。特に公衆衛生部門の現状把握は重要だ。新型コロナウイルスのワクチンが開発されるまで、感染状況の変化が経済・社会に影響を及ぼす状況が続くからだ。
定点観測表では、「色」で現在の状態の評価を示す一方で(赤が危険、黄色は注意、緑が安全)、「矢印の向き」で評価のトレンドを示す(改善、横ばい、悪化)。
足元の傾向としては、公衆衛生の分野で大きな変化が出ている。新型コロナウイルスの感染者数は増加を続けており、基本再生産数(自然状態で1人の感染者から生じる感染者数)は上昇している。現在は経済活動の多くが新型コロナウイルスの抑制状況に依存する部分が大きいことから、こうした傾向には注意が必要であり、定点観測表では公衆衛生は「赤」の評価で、矢印は下向きとなっている。
公衆衛生
+世界全体で見ても、新型コロナウイルスの感染者数は増加を続けている。特に、ブラジルや、米国での再加速が注目される
+基本再生産数は世界全体で見ると「1」を超えており、かつ上昇している。米国では現在「1.15」程度である
生活及び消費
学校の閉鎖状況
+多くの学校がいまだに閉鎖しており、米国だけで約12万校がこうした措置をとっている。行政機関は適切な安全・衛生面の措置を講じた上で秋から開校に向かうことを目指している
+高等教育機関(大学・専門学校)の状況は厳しい。多くの学校は秋以降もオンラインでの運営を前提としており、高額な授業料を払う意欲のある学生の減少を招くリスクがある
旅行及び余暇
+移動に対する制限は広く行われているが、5月中旬からは緩和されてきている。米国運輸保安庁によると、緩やかながら着実に米国発の飛行機の運行量は増加している
+世界的には航空機の運行量は4月中旬を底として回復の途上にある。ただし、感染再拡大が懸念される中国など、地域によって移動は制限を受ける
+「オープンテーブル(レストランの予約アプリ)」の予約量は、通常状態の半分以下の水準であるものの、6月に入った数週間でかなり回復している。ただし、新型コロナウイルス感染再拡大の影響がこのデータに現れるかが注目される
+グーグルでの「旅行」に関連する検索はアジア地域以外では減少している。中国では2019年に劣らない水準の検索がなされているが、米国では2019年の70%程度の検索量にとどまる。ただし、これも6月に入ってからはかなり改善している
+AirbnbとVRBO(民泊の予約サイト)の検索量は2019年比で20%程度増加しており、ソーシャル・ディスタンシングを意識した旅行への関心が高まっている
+グーグルのモビリティデータ(グーグルが提供する、匿名の移動データを集計した分析)によると、世界中でも人の移動量そのものは増えているが、公共交通機関の利用は控える傾向にある
住宅購入及び住宅ローン
+金利が低下したため、住宅ローンを借り換える動きに増加の兆しがみられる
+ジロー(米国の不動産検索サイト)の検索状況や住宅ローンの検索件数は、3月に急激に下落したものの、現在は通常と同程度の水準まで回復している。したがって、今後は住宅購入意欲の回復が見込まれる
雇用及び家計
+求人件数は2019年と同程度まで回復した。米国では過去14週間で4,700万人もの失業申請があったものの、新規の申請件数は減少している
+欧州と英国では依然として6,000万人程度が失業のリスクを抱えている
+クレジットカード利用状況は2019年の水準にやや届かない程度まで回復したが、その後の回復は頭打ちになっている
+米国人が可処分所得のうち貯蓄に回す割合は、4月は32.2%の高水準であったが、5月には23.2%まで低下した
+欧州連合統計局の集計によると、欧州では家計が収入を貯蓄に回す割合が4-6月期は過去から20%近く上昇して36%に到達した
+トレーディング・エコノミクスの分析によると、中国の純貯蓄率は2020年末には34%まで低下すると見込まれる
金融市場
投資のフロー
+シムファンド及びICIの分析によると、6月に入りMMF(マネー・マーケット・ファンド。外国投資信託の一種)から債券ファンドへの資金シフトがあった。緊急退避から投資に資金を戻すものの、株式ファンドへのフローには大きな変化がなく、リスクを大きく取り増す動きには至らない
金融環境
+ハイイールド債券は6月には若干売られ、対国債のスプレッドは6月に入りワイド化した
+債券の新規発行は6月の月間で506億米ドルに達し、2013年9月(469億米ドル)を超えて市場最高額となった。年初来の新規発行額は2,050億米ドルとなり、前年同月比で71%もの上昇となり、2019年通算の金額に迫る水準である
+年初来で、51社(合計923億米ドル)の債券・ローンがデフォルトや債務交換に至った。この段階ですでに2020年のデフォルト金額は2009年(2,050億米ドル)に続く第2位の規模となっている
+米国国債の金利水準は前月から大きな変化がみられない
コモディティ関連
+中国の石炭消費量は緩やかに上昇しており、2019年比で10%程度増加している
+原油価格は1バレル当たり40米ドル近辺まで上昇し、ようやく落ち着く兆しをみせている
+銅価格も1ポンド当たり2.64米ドルで安定化しつつある
企業業績
+2020年の1株当たり利益(EPS)予想は大きく低下した。しかし市場の注目は2021年業績にあり、株価収益率(PER)は19倍程度となっている
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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