これまで英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)交渉においてお互いが納得できる妥結は遠い彼方にあった。新型コロナウイルスが猛威を振るっている今、英国とEUは互いに歩み寄れるのだろうか?
前回ブレグジットに言及した2020年1月以来、新型コロナウイルスによって世界は大きく変わった。当時アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は、2020年末に世界貿易機関(WTO)ルールあるいはごく基本的な貿易協定のみ結ぶ形でブレグジット移行期間を終える(かつてのハード・ブレグジット(合意なき離脱))可能性が高く、これは英国の景気後退の可能性を高めるため、英ポンドはぜい弱な通貨であり続けると見ていた。
それから約半年が経過した今、ブレグジットが「破壊的」な結果となる可能性は一層高まっている。英国とEUの貿易協定に関する交渉にほとんど進展はなく、ブレグジット移行期間の延長期限も既に過ぎている。
以前より交渉は友好的な雰囲気を帯びてきたように見えるが、最も争点となっている公正な競争環境、漁業権、欧州司法裁判所の役割などについては、まったく意見の一致が見られない。加えてEUは北アイルランド/アイルランド間の厳格な国境管理を回避する条項(いわゆるバックストップ)の実施有無について懸念を示している状況だ(バックストップなしでの合意は事実上不可能)。
交渉における緊張は悪化する可能性
破壊的な結果になる公算大
ABは、4シナリオのうちネガティブな「合意なき離脱」か「限定的合意」となる可能性が高いと見ており、2020年1月時点よりもさらにその様相が強まったと考えている。なぜなら、英国とEUが「密接な協力」に至るには、英国政府の有権者に対する公約破棄またはEUの単一市場維持に対する妥協が必要となるが、これらの実現可能性はいずれも低いためだ。移行期間の延長の可能性は依然残されているが、英国政府はこの選択肢にさほど興味を示しておらず、7月1日の期限が過ぎた今、実現は一層難しくなっただろう。
「合意なき離脱」か「限定的合意」についてはどうだろうか? 英国政府とEUが双方妥結を望んでいるという前提は自然な一方、残された時間は短い。加えて、今ある交渉の隔たりをどのように埋めていくかはいまだに不透明なままだ。ブレグジット交渉に対する英国・EU双方の意欲と制限に対する誤解が広がる中、交渉決裂の可能性はいよいよ無視できない段階に入ってきている。実際、新型コロナウイルスの影響により、EUと英国にとってのブレグジット対応の優先順位は大きく下がっている。特にEUにとっては、新たに設立した復興基金を通じた欧州の統合深化の方が、足元のブレグジットよりもはるかに重要な課題となっている。
図表2では4つのシナリオの実現確率を1月時点と足元で比較している。英国が年末に移行期間を終えるにあたっては、最小限の形ばかりの協定に過ぎない「限定的合意」か「合意なき離脱」のいずれかになる可能性が上昇している。現時点でわかっていることからは、この両者の違いは、何らかの合意が得られるという希望的観測が入っているかどうかという程度に過ぎない。また、希望的観測はブレグジットの行方を占う上で今まで有益でなかったことは周知のとおりだ。
むしろ重要なことは、いずれのシナリオにおいても、英国-EU間の貿易関係は崩壊、すなわちサービス貿易への手当ては成されず、財の貿易については税関や規制当局の検査が再び導入されるという点だ。英国は自国国境側の検査・管理を緩めるだろうが、EU側がそれに応じる保証はない。そのため、2016年のブレグジットを巡る国民投票時点では、いずれの結果もハード・ブレグジットと見なされており、合意無き離脱(WTOルール)はほとんどの人々にとって俎上にすら載っていないシナリオだった。
英ポンドは交渉決裂の犠牲となるか?
これは英ポンドにとって何を意味するのだろうか? 前回ブレグジットに言及した2020年1月から英ポンドは既に下落しており、当時よりも判断は難しくなっている。
ただ、ファンダメンタルズの観点から英ポンドの好材料を見つけにくいことは確かだ。ブレグジットを巡るリスクが高まっただけでなく、英国は新型コロナウイルスへの対応も上手くいっておらず、他の欧州諸国に比べてロックダウンからの回復は明らかに鈍い(図表3)。ここ数カ月の英国政府の財政対応は目を引くものであったが、他の欧州諸国や米国においても同様であり、英国の相対優位とまで位置づけられるかは定かでない。以上から、既に下落したとはいえ、ABでは引き続き英ポンドをネガティブに見ている。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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