投資家は、環境分野への取り組みに特化したグリーン・ボンドへの投資に熱心だ。しかし、正しい銘柄選択を行うためには、発行企業の財務状態ばかりでなく、当該債券に関するガバナンス体制や、発行企業の全般的なサステナビリティに寄与するものであるかどうかを分析する必要がある。

環境・社会・ガバナンス(ESG)に連動した債券がより好ましく、より持続可能な世界を作り上げる可能性について、我々は楽観視している。しかし、最近は異なるタイプのグリーン・ボンドの発行が増えているため、投資家はその違いを理解しなくてはならない(図表)。

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グリーン・ボンドは調達資金の使途を定めており、特定のプロジェクトや環境の改善を目指したプロジェクトのために発行される債券という、明快な概念に基づいて誕生した。それ以来、企業は環境に優しく、社会に貢献し、サステナブルな幅広いプロジェクトを遂行する資金を調達するため新たなタイプの債券を発行してきた。

最新のイノベーションであるKPI連動債は、発行企業に特定プロジェクト向けの資金調達よりも、ビジネス全体にわたる高いESG基準の達成を促している。そうしたイニシアティブは発行企業に対し、ESGに結び付いた資金調達において著しい柔軟性を与えている。

ESG連動債の普及は、投資家がそれぞれ異なるESG連動債のカテゴリーにおけるテクニカルな特性を認識し、それらが投資にもたらす意味合いを理解する必要があることを意味している。

プロジェクトベースの構造

グリーン・ボンドは依然としてESG関連の資金調達手段として最大かつ最も人気のある資産クラスで、2020年6月末時点の発行総額は約5,750億米ドルとなっている。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)はこのようなストラクチャーを非常に好ましいと考えている。なぜなら、それは資本投資と環境改善の関係を明確に関連付け、多くの業界でうまく機能しているからである。

それでも、投資家が留意すべきいくつかの複雑な問題がある。それぞれの債券発行で調達した資金は定められたフレームワークやスケジュールに沿った環境プロジェクト(または一定範囲内のプロジェクト)に振り向けられるが、債券保有者は発行体に対して調達資金を特定のプロジェクトに用いたり、スケジュールどおりに配分したりすることを強いることはできない。実質的に、グリーン・ボンドの投資家は発行企業の評判を頼りに、彼らの行動を信頼せざるを得ない。

さらに、投資家は発行企業のプロジェクトが真に環境に好ましい影響を与えるもので、その事実が歪められていない(「グリーンウォッシュ(環境配慮をしているように装いごまかすこと)」されていない)ことを確かめる必要がある。つまり、プロジェクトの影響に関するレポートの基準が具体的で、実体があり、信頼できるかどうかを検証しなくてはならない。例えば、CO2の排出削減を目指すプロジェクトが実際にそれなりの量を削減しているかどうかを投資家が判断することになる。

主要な指数プロバイダーは、債券が本当の意味で環境保護の役割を果たす「グリーン」なものであるかどうかを判断するため、独自の検証手法を確立しているが、それらは主観的で、必ずしも包括的なものではない可能性がある。債券がグリーン・ボンド指数に組み入れられていても、それが真にグリーンなものであるという証明にはならないとABが考えているのは、それが理由である。

ソーシャル・ボンドはグリーン・ボンドと同じような仕組みを持っているが、社会に影響を与えるプロジェクト向けの資金調達を目的としている。その例としては、地域社会に役立つ新たな建築、恵まれない人々向けの教育プログラム、低所得地域における病院のベッド数拡大などが挙げられる。

グリーン・ボンドと同じように、投資家は発行体やプロジェクトの信頼性についてデューデリジェンスを行う必要がある。2020年にはソーシャル・ボンドの発行が急増し、イタリアの政府系機関である預託貸付公庫などが、新型コロナウイルスの感染拡大に対処し、イタリア経済及び地域社会の回復を支えるため、この仕組みを利用して資金を調達した。

調達した資金をプロジェクトに用いる構造としては、ほかにもサステナビリティ・ボンドや、国際連合が掲げる「持続可能な開発目標」(SDG)に基づく債券などがある。サステナビリティ・ボンドで調達した資金は社会及び環境の両分野に振り向けられるが、SDG債の場合は、適格とされる資産の範囲は幅広く、1つ以上の国連SDGに沿っていることが条件となる。

目標ベースの構造

2020年には初のKPI連動債が発行された。当債券における調達資金は特定のプロジェクトではなく、企業の汎用的な事業目的のために用いられる。

KPI連動債はフレームワークの構築や、その影響に関するレポートの作成を目的とするものではない。むしろ、企業レベルの測定可能なKPIをベースとしている。企業が定められた期間内にKPIを達成することができなければ、ペナルティとして債券のクーポンが引き上げられる。そのため、投資家は企業の全般的なサステナビリティ戦略をリサーチし、KPIがその目標達成にかなうものであるかどうか判断する必要がある。

KPI連動債は、発行体に評価リスクだけではなく、成果目標の達成に向けた直接かつ強制的な金銭面のインセンティブをもたらす。こうしたタイプの構造は、企業が単に一連のグリーン資産を特定して他資産と分けて考えながらも、他の活動については「いつもどおりのやり方」を続けるのではなく、ビジネスのサステナビリティを著しく変えるトップダウン型戦略を執行する責任を発行企業に求めることになる。

そうした理由から、ABはKPI連動債の構造を非常に好ましいと考えている。例えば、気温上昇を2度未満に抑えることを目指した「The 2 Degrees Investing Initiative」に沿った温室効果ガス(GHS)連動KPIは、エネルギー、セメント、一部の化学メーカーといったCO2排出量の多いセクターに大いに適していると考えている。

KPI連動債の構造について1つ問題があるとすれば、発行体が目標を達成できなかった場合に、クーポン引き上げによって投資家が恩恵を受けることだ。それについてはインセンティブの不一致だと指摘する向きもあるが、ABではそれを信用格付の引き下げに伴うクーポン引き上げのようなものだと考えている。格付の引き下げは好ましくないが、そうなった場合でもいずれ埋め合わせられることになる。将来的には、投資家の目的とさらに合致するさまざまなインセンティブを発行体にもたらすようなKPI連動債の構造が開発される可能性がある。

今のところ、KPI連動債は、調達資金の使途を純粋に定めた債券にフォーカスした投資家(資金使途に関する顧客への詳細な説明も必要となる)の投資対象とはなりにくい。しかしいずれこうした問題は改善され、KPI連動債の構造はもっと一般的になると思われる。

それでも、我々はKPI連動債の構造を監視していく必要がある。投資家は発行企業と積極的にエンゲージメントを行い、KPI目標の達成に向けた進捗状況を把握するほか、企業がそれを達成するために用いているツールについてよく理解する必要がある。

進化するESG債市場では、徹底した分析が鍵を握る

投資家は今や、幅広い種類のESG連動債から投資対象を選ぶことができるが、それぞれの構造が持つ特性を分析し、それが発行企業の全般的なサステナビリティ戦略をどのように支えているかを理解するためには、徹底したデューデリジェンスを行う必要がある。投資家がどのような目的を持ってその投資を行い、どのようにESGにアプローチしているのかも、適切な投資対象を選択する上で重要な要素となるだろう。

ESG債の市場は進化を続けており、投資家により幅広い選択肢を与えるとともに、発行企業の説明責任をより強めている。真剣にESGに取り組む投資家にとって、今後とも有力な投資手段の1つとなるだろう。

 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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