新型コロナウイルスの大流行以来、米国経済は暗中模索の状態が長らく続いてきたが、その輪郭がようやく見えるようになってきた。昨今の各種進展を踏まえ、短期、中期、長期の3つの時間軸にて今後の経済見通しを描くこととしたい(図表)。
 
米国経済の短期・中期・長期見通し.png
 

短期見通し(2020年12月~2021年3月):顕著な低成長、低インフレ

新型コロナウイルスの感染状況は年末年始の連休に悪化する可能性が高く、大規模ロックダウンにまでは至らずとも、各種の活動制限による成長への悪影響は不可避の様相だ。欧州のような大幅減退とまではいかないまでも、リスクが高まっていることは明白だ。少なくとも、今後数カ月間の時間軸においては成長鈍化と低インフレが予想される。ワクチン開発の進展は確かに光明であるが、それによって職をはじめとした人々の生活が一夜にして元に戻ることはないだろう。
 
緩和的な金融政策と財政政策の停滞: 米連邦準備制度(FED)は緩和的な金融政策を当面維持するだろう。アライアンス・バーンスタイン(以下「AB」)では近い将来、米連邦準備制度理事会(FRB)が50%以上の確率で追加緩和の一手を打つとみている。具体的には量的緩和(QE)における資産買い入れの調整によって長期金利抑制を図るとみており、早ければ2021年1-3月期に実現する可能性がある。
 
2021年にかけて大きな財政政策が出てくる蓋然性の低さから、FEDは当面金融政策の一本足打法にならざるを得ないと感じているかもしれない。ねじれ議会は財政出動の重い足かせとなり、仮に実施にこぎつけたとしても昨今の経済損失を一部相殺するのがせいぜいであり、成長を力強く押し上げるものとはならないだろう。
 
低金利: 財政政策に関する今後の暗い見通しを踏まえると、FEDは金利の大幅上昇を許容せず、10年国債利回りは0.75%~1.25%のレンジで推移すると見込む。株式市場は、ワクチン楽観論、高バリュエーション、財政政策行き詰まりの狭間で揺れる展開となろう。米ドルは、バリュエーション上やや割高であることに加え、次期バイデン政権の政策の方向性から、低下方向で見ている。
 

中期見通し(2021年4~12月):成長加速と一時的なインフレ圧力

2021年中に有効なワクチンが広く浸透するとの前提を置くと、最も被害が深刻な産業においても2021年4-6月期頃には活動が再開し始める見込みだ。夏にかけて、旅行や対面イベントへの参加など2020年に制限された各種活動に人々が戻り始めるにつれ、景気が活況となるかもしれない。不確定要素は大きいものの、中期的には人々の活動再開が経済成長加速の要因になるとABではみている。
 
物価の観点で見ると、2021年春には2020年前半に発生した急激な物価下落の影響が前年比の計算から剥落するため、経済成長加速に伴いインフレ率はFEDの目標を一時的に上回る可能性が高い。コアインフレ率は依然として目標を下回る見込みだが、総合インフレ率は2020年半ばには2.0%に達し、その後再び低下基調となるだろう。
 
緩和的な金融政策と緊縮財政: FEDは新型コロナウイルスの打撃を和らげることはできるが、「平常」に戻せるわけではない。また、パンデミック発生以前から既に経済の先行きには懸念があり、今後経済活動が再開したとしてもそれ自体は変わらない。FEDの金融緩和手段が限られてきている点を考慮すると、これ以上の金融緩和は実施されないかもしれない。ただ、それでも引き締めに転じることもないだろう。ABでは各国中央銀行はいずれQE終了を宣言すると予想しているが、この動きはどんなに早くても2021年後半まで顕在化せず、2022年まで持ち越される可能性が高いと見ている。
 
(FEDが望んでいる)インフレ期待の高まりは、QE終了などの大規模金融緩和からの脱却時期を早める可能性がある。財政政策の成否によって時間軸は変わり得るが、景気悪化時に議会が景気刺激策を可決できないのであれば、景気回復時にも可決できないと考えるのが自然だろう。ABの見通しでは、良くて財政支援は限定的なものにとどまり、2021年の財政政策は緊縮方向に働く可能性が高い。
 
低金利と米ドル安: ABの予想どおりに成長が加速した場合、FEDの金利上昇に対する許容度は 高まるため、2021年の金利上昇余地は2020年に比べ大きいと見ている。ただし、FEDは長期金利急上昇への警戒は緩めず、QE継続を通じて緩和姿勢を維持すると見られることから、2021年における10年国債利回りのレンジは1.0%~1.5%程度を見込む。
 
株式市場は高バリュエーションと景気回復の綱引きが続くが、FEDの政策動向が大きな市場変動を生み出す可能性がある。投資家が金融引き締めを懸念し始めれば、株式市場には逆風が吹くことになろう。米ドルは中期的に減価する可能性が高く、数カ月間はリフレの様相が強まるだろう。
 

長期見通し(2022年以降):成長とインフレの鈍化

新型コロナウイルス発生前に、低成長の原動力となっていた要因(債務膨張、ポピュリズム、反グローバル化など)は依然として残存しており、その多くがパンデミックによってむしろ加速の動きを示している。これらの長期トレンドは、過去10年そうであったように、今後も長期にわたって成長押し下げの要因となるだろう。パンデミック発生以前の5年間における名目国民総生産(GDP)成長率の平均はかろうじて4%台であったが、今後に関しては現状維持または若干低下となる可能性が高い。
 
金融政策の限界、財政政策がカギを握る: FED単独で持続的にインフレを生み出すことはできず、財政政策が長期的なカギを握る。成長とインフレを持続的に押し上げるには、金融政策と財政政策の協働が不可欠だ。FEDは既にその方向に舵を切っており、ジャネット・イエレン次期財務長官は大規模財政支援の実施に何の躊躇もないと思われるが、財政政策を掌握しているのは議会であり、ねじれ議会に代表される政治バランスが巨大な障害として立ちふさがるだろう。
 
歴史をひもとくと、FEDが実質的に行っている中央銀行による財政ファイナンスが成されている時代、インフレは継続していた。これは当局が財政ファイナンスを利用して財政支出を拡大していたために他ならない。もし今回、米国に同様のことができるのであれば、長期停滞からの脱却に成功する可能性がある。逆に言えば、これが成されない限り、FEDの使命であるインフレ目標の持続的達成は実現できないだろう。すべては財政政策にかかっているのだ。
 
低金利、米国の成長優位が失われる可能性: 米国が低成長・低インフレに悩まされる限り、FEDは低金利政策を維持し、市場が主導する形での金利上昇を抑止するだろう。10 年国債利回りが常に 1%を下回るとまでは言わないが、かつての2.5%や3.0%といった水準に戻る展開は当面見込まれない。
 
今後、財政政策が停滞または緊縮的になり得るのは主要国の中では米国くらいだろう。このような環境においては、米国の名目GDP成長が有意に上昇する見通しは描けず、むしろ他国より早期に頭打ちを迎える可能性の方が高い。これは他国対比での成長優位性を背景に、米国が享受してきた自国株式市場への追い風が止む可能性を示唆している。また、他の地域がリフレに向かう中で米国が取り残された場合、長期的な米ドル高展開も視野に入ってくるだろう。 
 

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