世界の炭素排出量の60%以上は新興国から排出されており、世界銀行は、気候変動により2030年までに6,800万人から1億3,200万人が貧困に追いやられる可能性があると推測している。環境・社会・ガバナンス(ESG)問題への取り組みを進める必要があるのは明らかである。実際、サステナビリティに関する国際連合(国連)の目標は、新興国に対し、2030年までにESGや経済問題の解決に向けて著しく前進することを求めている。

しかし、こうしたサステナビリティ目標に注力している国際的な開発銀行にとって、年間2.5兆米ドルの資金が不足している。では、国連の目標に忠実に従っていながらも資金難に直面している多くの新興国は、この問題にどう取り組むことができるのだろうか? ESGに関する問題について投資家と対話を通じてエンゲージメントを行い、ESGに配慮したプロジェクトに資金を提供するソブリン債を発行すれば、新興国と投資家はどちらも大きな利益を得ることができるだろう。

新興国では、調達資金を環境や社会に配慮したプロジェクトに振り向けるグリーン・ボンド、ソーシャル・ボンド、サステナビリティ・ボンドといったESG債の発行を通じて問題に取り組むための資金を確保するケースがますます増えている(以前の記事『進化するESG債市場』ご参照)。新興国におけるESG債の発行は過去1年間で倍増した。

新興国におけるESGの恩恵とコスト

ESGに関する取り組みを前進させることは重要な意味を持つ。投資家や格付機関はESG基準を評価に組み入れており、利用できるデータやツールが増えるのに伴い、分析の精度を高めている。ESG課題への取り組みが進んでいる新興国は高い格付けを得るとともに、資金調達コストを引き下げ、貸し手を分散することができる。

一方、ESG問題に背を向ける道を選んだ国は、その代償を支払わなくてはならない。例えば、環境フットプリントを無視している国は炭素税を課される可能性がある。それに加え、一部のESG債では、ESGを巡る状況が改善している国のみに優遇金利が適用される。また、ESG債を重視する方針を掲げた投資が増えれば、ESGスコアが低い国は投資対象から除外され、資本フローが減少し、資金調達コストが上昇する可能性がある。

ESG債の発行の急増は発行体と投資家の双方に恩恵をもたらすもので、ESG基準を遵守することの重要性を反映している。ESGを重視する投資家は、ESGに関する改善を理解及び促進するため新興国当局者とのエンゲージメントを求めている。一方、新興国の当局者も資金提供を受けるため、投資家との対話を持ちたがっている。

厳しい予算でESG課題に取り組む

責任ある投資への関心が世界的で高まる中、国連のサステナビリティ目標達成に向けた新興国の進捗状況を精査しようとする動きが強まるとみられる。投資家がこうした評価を行うために用いるツールは常に進化しており、選ばれる借り手になりたいと考える国にとっては、オープンな姿勢やコミュニケーションが重要になりそうだ。

我々は多くの国でリソースが限られていることや、サステナビリティに関する多くの課題に取り組むには資本が必要であることを理解している。しかし、各国はそれほど資金を投じなくとも大きな影響をもたらす措置を講じることができる。

第一に、ステークホルダーからの質問への対応や、ESG指標の進捗状況の公表を専門に担当する特定の機関やオフィスを開設することは、資金調達コストの改善を通じて採算が取れる可能性があるとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では考える。また、透明性の向上につながるほか、目標の数値化や進捗状況の測定にも役立ちそうだ。

第二に、資金を呼び込める借り手になりたい国は、破産法の整備など、債権者の権利を強化する措置を検討する必要がある。ブラジルやインドでは最近、新たな破産法が導入されたが、債権者は依然として新興国全体にわたる面倒なプロセスに不満を抱いている。これらのプロセスを合理化すれば、債券市場と株式市場の双方にとってキャッシュフローの増大につながる可能性がある。

新興国における優れたESGエンゲージメントとは?

サステナビリティや環境の問題に対処することは、政府や投資家にとって正しい行いである。さらに、新興国がESGに関する対策を通常の公共政策に組み入れれば、借り入れコストの低下や経済成長の改善といった効果を得ることもできる。

+ 男女格差などの社会的問題は、各国の長期的な経済見通しに直接的な影響を与え得る。例えば、国連アジア太平洋経済社会委員会の報告書は、女性の就業機会が制限されていることで、同地域に年間420億~460億米ドルのコストがかかってしまっていると指摘した。

不平等は貧困や食糧不安の一因となり、放置すれば社会不安やポピュリズムの拡大を招く恐れがある。大規模な抗議行動はストライキにつながり、経済活動に影響を与える可能性がある。また、いったんポピュリストが政権を取れば、財政赤字や対国内総生産(GDP)債務比率が拡大するケースが多く、将来の借り入れ能力が損なわれかねない。

+ ガバナンス問題とは、権力の分立や透明性など、政府構造に関する問題への取り組みを指す。例えば、中央集権的な権力は、将来的なリスクが潜んでいることを示唆している可能性がある。政府の構造は財務状況に直接的な影響を及ぼしうるもので、格付けとESGのガバナンス・スコアの双方に影響を与える。公正で効果的な司法制度は、ビジネスや経済活動を促進し、犯罪を減らす効果がある。また、国家のガバナンスの質は、紛争からパンデミックまでさまざまな危機の管理能力にも反映される。

+ 環境問題の中心となっているのは気候変動で、物理的な損害の防止、保険制度等による金銭的な損失の保護、進行ペースの抑制なども含まれる。例えば、建築基準を改善することで、実際の金銭的リスクを軽減することができる。また、自然災害に見舞われた際には保険や災害に備えたファンドが国家に貢献し、債券のリスク・プレミアムを押し下げる効果をもたらす。最後に、各国は行動を通じて環境に関する評判を守らなくてはならない。自然保護や気候変動への対応に失敗すれば、資金の流出や、自国通貨の相場下落、インフレが引き起こされる可能性がある。

+ サステナビリティに関する幅広い目標も重要である。エネルギー生産能力の拡大を目指す国は、初期コストが高くても、再生可能エネルギーに投資した方が望ましいとABでは考える。運営の限界コスト低下や排出量の削減による大気や飲料水の質の向上など、長期的にはすべて好ましい成果が期待できる。また、責任を持って管理された資源は、将来的に国家の耐性を高めることもできる。

最後に、各国にはサステナビリティの目標達成に向け、迅速な行動を積極的に検討するよう促したい。新型コロナウイルス感染症は未知の病気から、一夜にして世界的なパンデミックに発展した。気候変動はそれ以上に急ピッチで雪だるま式に進展する可能性が高く、準備を怠った場合のコストは飛躍的に膨らみかねない。

ESGの課題が放置されれば経済的コストがかかるほか、最も必要な外部からの投資を制約する要因になりかねない。一方、これらの課題に積極的に取り組んでいる国は、将来のサステナビリティが高まるだけでなく、有利な金利で投資資金を呼び込むことができるかもしれない。

かつては新興国にとって、ESGに関する課題に取り組むことは、検討する余裕がないと考えられていた。だが、今では無視できないものに一変しつつある 。

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