世界中の企業が炭素排出量の削減を競っている。しかし、野心的な目標を達成するには実際に何が必要なのだろうか? 2040年までに炭素排出量をネットでゼロにするという、フェデックスが最近掲げた約束は(フェデックスのニュースページ(英語)ご参照)、投資家が考えるべき問題を浮き彫りにしている。
炭素排出量の削減目標達成に向けて努力することは、地球の気候にとって重要な意味を持つ。企業にとっては、気候変動問題に関する信頼できる持続可能な行動計画は、ビジネスがしっかり管理されていることを示す証しで、株主と顧客の双方に向けたポジティブなシグナルとなる。
フェデックスの大胆な約束
フェデックスは速達便などを手掛ける世界最大の運送会社である。事業を運営する上で同社以上に化石燃料に依存している企業は、世界にほとんどない。その結果、カーボンニュートラル(排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素が同じ量であること)な事業運営を目指すフェデックスの決断により、さまざまな業界における炭素排出量の多い企業にとって、ハードルが引き上げられる形となった。
もちろん、20年というコミットメント期間は、現在の経営陣の在任期間をはるかに超えている。そのため、しっかり検討された計画が非常に重要となる。投資家は、企業がネットゼロを目指す過程で直面する現実的な障害を理解する必要がある。また、特に企業によって情報開示のレベルが異なるため、先行する企業と出遅れる企業を見分けるには綿密なリサーチと経営陣との対話が欠かせない。
ネットゼロへの道のりを理解する
企業は炭素排出量を緩和、削減、または相殺するため、さまざまな戦略を講じることができる。まず、排出権の購入によるカーボンオフセット(自社の活動で排出される二酸化炭素などの温室効果ガスを、その削減のためのプロジェクトに投資することで相殺(オフセット)しようとする取り組み)は、事業の変革よりも先に行うべき合法的なアプローチかもしれない。なぜなら、事業資産をアップグレードするための大規模な変革は、先に多額の炭素コストを発生させ、収益の悪化につながる可能性があるからだ。
しかし、長期的に見れば、気候に好ましい影響をもたらすことができるのは、事業のやり方を本質的に変えた場合に限られる。排出削減よりもオフセットすることに焦点を当てた企業は、結果的に解決策ではなく、問題を生み出す可能性がある。特に、オフセットのため排出枠を購入することは、森林の獲得競争に拍車をかけることになりかねない。カーボンオフセットを通じてネットゼロを目指す企業と、脱炭素化に真摯にコミットメントしている企業の間には大きな違いがある。
フェデックスは手始めに、車両の電動化、持続可能なエネルギー、炭素隔離という3つの主要分野に20億米ドルを投資しようとしている。これは長期的な目標に向けた大きな一歩である。この投資は車両から航空機、施設に至るまで、同社のあらゆる事業活動に振り向けられている。
炭素利用の全体像を把握する
フェデックスのような物流会社では、化石燃料がどのように使われているかは明確になっている。しかし、他の間接的な温室効果ガス(GHG)排出源についてはそれほど明確になっていない。GHGプロトコル(GHGプロトコルのページ(英語)ご参照)は、事業活動の全領域(スコープ1、2、3)における炭素の使用を把握及び説明する上で役立っている。さらに、世界資源研究所(同研究所ページ(英語)ご参照)は、回避された排出量(一般的にスコープ4と呼ばれる)の評価手法を定めており、それは気候変動開示基準委員会(同委員会のページ(英語)ご参照)の支持を得ている(図表)。これらの組織は、排出量の削減と防止に焦点を当てた技術を生み出しており、それらは他の企業が事業活動を通じたGHG排出量を削減する上でも役立つ可能性がある(以前の記事『Beyond Renewables, Low-Carbon Investing Eyes Energy Efficiency』(英語。日本語版作成予定)ご参照)。
例えば、テクノロジー企業はスコープ1(直接)の排出量が最小限にとどまるかもしれない。しかし、化石燃料で発電された電力を大量に使用していれば、スコープ2(間接)の排出量が大きくなる可能性がある。ビジネスサービス企業はスコープ1とスコープ2のGHG排出量が少ないかもしれないが、収益を上げるために依然として従業員の出張に依存しており、それはスコープ3に分類される。
スコープ1の排出量は最も多くなりがちだが、将来的な排出量の削減余地は最も大きい可能性がある。スコープ3の排出者は、事業に支障を来さずに排出量を削減するのが難しいかもしれない。多くの企業や業界では、サプライチェーンが最大の炭素排出源となっている。多くの場合、それらのサプライチェーンは物品の輸送を必要としている。そのため、物流業者は企業のスコープ3の主な排出源となっている。フェデックスはそのことを認識し、カーボンニュートラルな輸送サービスや持続可能な梱包ソリューションを通じてサプライチェーンにおけるエンド・ツー・エンド・サービスのサステナビリティを高めるため、顧客と協力する考えを表明している。
ネットゼロの目標は企業にとって望ましいか?
地球温暖化を抑えることは重要である。しかし、ネットゼロへのコミットメントは、企業の収益向上につながるのだろうか?
アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では、排出量の効果的な管理は好ましいサインであると考えている。第一に、それは経営陣が効率的な事業運営を重視していることを示すもので、事業コストの低下につながる可能性がある。フェデックスの場合、最新プランは燃費効率の改善に成功した実績に基づいて構築されている。2012年以降 、同社は「FedEx Fuel Sense」と「Aircraft Modernization」の両プログラムを通じ、合わせて14億3,000万ガロンのジェット燃料を節約した。それは環境にもフェデックスの収益にもプラス効果をもたらす。フェデックスの収益力は輸送ルートの最適化で支えられており、それは炭素排出量の削減にも寄与している。
また、ネットゼロへの取り組みは競争上の優位性を高め、限界収益を押し上げる可能性もある。気候変動に敏感な顧客がフェデックスのカーボンニュートラルな輸送サービスやサステナブルな梱包ソリューションについて知っていれば、調達プロセスにおいて同社を優先的に利用しようとするかもしれない。
最後に、ネットゼロの目標達成に向けた健全な戦略は、その企業が優れたガバナンスと将来を見据えた戦略的思考を備えていることを表している。
ネットゼロへの道のりは変化し続ける
2030年以降の目標を設定するのは時期尚早に見えるかもしれない。しかし、実際は今すぐ始めなくてはならない。その理由の1つは、炭素排出源となる資産の耐用年数がかなり長い場合が多いからである。
フェデックスの車両について見てみよう。同社は全車両の入れ替えには何年もかかることを認識した上で短期的な購入目標を定めている。同社は2025年までに購入する車両の50%、2030年までに100%を電気自動車にする計画を立てている。それにより、2040年までにすべての配送用車両の炭素排出量をゼロにする道が開かれる。
また、企業が理論上ネットゼロの世界で活動するには、筋肉の動きを脳に記憶させる「マッスルメモリー」を身につけることも重要である。ネットゼロを達成するには、今はまだ存在しないテクノロジーが必要になる。気候変動に関する野心的な目標を設定することで、企業は事実上、そうした新テクノロジーへの投資に同意したことになる。
例えば、フェデックスは炭素隔離ソリューションに関する学際的な応用研究を支援するため、「Yale Center for Natural Carbon Capture」に1億米ドル拠出すると表明した。同センターでは、研究者らが生物の生態系や地質学的な炭素循環など、自然の炭素貯蔵システムに基づいたソリューションの開発を目指す。彼らの使命は、炭素の吸収速度、吸収量、貯蔵期間を可能な限り改善することにある。当初は、航空機による現在の排出量に匹敵する温室効果ガスの排出を相殺することに焦点を当てる予定だが、最終的には、世界に及ぼす影響を最大化するため研究範囲を拡大することを目指している。
ABは、科学者や学者を含む幅広いステークホルダーの協力が、気候変動に対処する戦略を加速させる上で重要なステップになると考えている(以前の記事『Improving Climate Change Models for Investments』(英語)ご参照)。
もちろん、技術の進歩は予測不可能である。いずれはそれが大きな利益をもたらすかもしれないが、それまでは社会や企業にとって、炭素排出を抑制するため、あらゆる賢明な措置を講じることが重要だ。投資家はすべてのセクターについて、脱炭素化プランが業界にもたらす具体的なビジネス上のメリットと同時に、行動しない場合のリスクを理解する必要がある。フェデックスの野心的な計画は、気候変動と戦うことによって事業を強化する確固たる計画を持つ企業を見極めるための重要な指針を投資家に提供している。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら。
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