2060年までにカーボンニュートラルの実現を目指す中国の構想は、中国による気候変動問題への取り組みだけでなく、同国政府が経済の将来像をどう描いているかをおぼろげに示している。より持続可能な成長に向けた取り組みが進む中で、環境に配慮した経済への移行は、多様な投資機会を新たに生み出すと予想される。

中国の習近平国家主席は2020年9月の国際連合(国連)総会で、環境に関する2つの大きなイニシアティブを発表した。第一に、世界第2位の経済大国である中国は、2030年までに二酸化炭素(CO2)の排出量がピークを打つことを目指す方針だ。第二に、2060年までにカーボンニュートラル(CO2の排出量をネットでゼロにすること)に移行しようとしている(図表1)。

中国は2060年までにカーボンニュートラルの実現を目指している.png

その政策の詳細はまだ固まっていない。しかし、着地点を定め、数十年に及ぶ時間軸を発表したことで、中国は地球温暖化と闘うために拡大する国際的な取り組みに参加したことになる。中国は世界のCO2排出量の3分の1以上を占めているため、環境保護を推進する人々はこのニュースを歓迎している。中国が参加しなければ、世界の温室効果ガス排出削減はより困難なものとなるからだ。

投資家にとって、その影響は無視できないほど大きい。2060年に向けた中国のキャンペーンは、今後40年間に製造業をどのように発展させていくかに関する中国政府の考え方を示している。しかし、これらのグリーン・イニシアティブをどう展開していくのか、現時点では明確にされていないため、投資家は今後の詳細な動きを注視していく必要がある。

似て非なるもの

中国に批判的な人々は、環境に関する中国の約束はこれまで守られてこなかったと警告している。中国による炭素強度(経済活動量当たりの炭素排出量)の緩和に向けた過去の試みは、経済危機の中で目標を達成できないケースが多かった。実際、新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われた2020年は、中国政府は昔のやり方に逆戻りし、大規模なインフラ支出を推し進めたほか、大量の雇用喪失を防ぐために汚染規制を撤廃し、工場の操業を継続させた。

懐疑的になるのも無理はない。一方、中国が環境汚染と闘うのは目新しいことではないとはいえ、選択した武器は新しいものだ。今回、中国政府は目標を達成するため、入念に計算された政治的課題を設定しているように見える。2060年に向けたキャンペーンは中央省庁だけでなく、省や市の官僚にも意思決定の範囲を広げており、この環境保護キャンペーンが政治的な深みを持っていることを物語っている。

カーボンニュートラルを目指す中国の取り組みは、テクノロジーの自給自足を目指す政治的な野心とも合致している。中国では賃金上昇と労働力の減少に伴い、発電を環境に配慮した構成に再構築することの重要性が一段と高まっている。こうした野心は産業界全体に浸透する見通しで、より価値の高い製造業や欧米からの革新的な独立を表す代名詞として「メイド・イン・チャイナ」が再定義されつつある。

カーボンニュートラルを目指す政策はどのように実行されるのか?

詳細はまだはっきりしないが、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では2030年までに実施される可能性のある措置の概要はつかめている。経済成長が引き続き優先課題となるが、経済成長に伴う炭素強度を引き下げる政策が強力に推進されると思われる(図表2)。

中国はどのようにしてカーボンニュートラルを実現するのか?.png

ABの見方では、現在進められている以下の措置が、今後数十年にわたる戦略の構築に役立ちそうだ。

+ 工場からの排出量削減:中国はすでに、最も環境汚染の激しい産業による排出量を削減し、小規模で効率性の低い工場の閉鎖に着手している。

+ グリーンパワーの推進:現在の発電インフラを置き換えることで、太陽光、風力、水素など、より持続可能なエネルギー源を取り入れようとしている。

+ クリーンな輸送手段の導入:電気自動車の導入は急速に進んでいるが、特に石炭を主な発電源としている限り、内燃エンジンからの移行が中国における炭素排出問題の完全な解決策とはならない。

中国が2060年に向けた目標の達成を目指す上で、投資家はいくつかの手段を目にするだろうが、実現に直接つながる手段はほとんどない。多くの政策はそれぞれ独立して実施される見込みだが、炭素排出量の削減に向けた中国の広範なコミットメントを反映する形で、中央政府による全般的なグリーン・アジェンダは他の経済政策にも波及することになるとABでは見ている。

環境汚染が目立つ産業の炭素排出量を抑制することは、その最初の試金石となりそうだ。中国ではCO2排出量の40%を工業部門が占めており(図表3)、石炭、アルミニウム、鉄鋼などの生産削減は、中国政府が今後数十年にわたる2つの環境目標を達成するためにどんな計画を立てているかを示す初期の兆しとなろう。

最初の試金石:環境汚染が目立つ産業における排出量の削減.png

生産削減は決して容易に実現できる政策ではない。既存の施設を閉鎖すれば大量の失業者が出る恐れがあるため、実施には政治的な困難を伴うことが多い。しかし、政策当局者は、炭素排出量の削減を遅らせれば、必然的に将来の課題が大きくなるだけであることを認識しているとABでは見ている。

工業生産の削減と、2020年の新型コロナウイルスによる景気低迷からの世界的な需要回復により、コモディティの供給コストが上昇している。鉄鋼、アルミニウム、ポリエチレンは、メーカーがより効率的な研究開発の活用方法を探る中で、価格が上昇している。その結果、規模が大きく生産効率の高い大手企業に市場シェアが集約されることになりそうだ。

環境に優しいインフラの構築

環境汚染の激しいエネルギー産業からの移行が成功するかどうかは、現実的な代替エネルギー源が手に入るかどうかに左右される。成功すれば、国内の送電網への投資が活発化し、循環的な需要急増に対応しうる強力な電力産業の基盤を構築するという歴史的課題に取り組むことができる。

炭素排出量の80%以上が発電や工業生産に起因していることを踏まえれば、太陽光発電は現実的な手段になると思われる。太陽光発電のコストは現在、多くの地域で石炭火力発電と同水準になっており、変化を促す経済的なインセンティブを生み出している。中国は太陽光発電装置の最大の消費国であるだけでなく、世界の太陽光発電サプライチェーンの約4分の3を支配している。その結果、中国の太陽光発電産業は、カーボンニュートラルを目指す他の国々をサポートできる立場にある。

環境に配慮したインフラの構築は、よりクリーンな交通手段の導入など、他の政策と同時に進められている。中国は世界最大の電気自動車(EV)市場であり、2025年までに新車の4分の1をエネルギー効率の高いモデルにしたいと考えている。一方で、石炭で発電した電力で電気自動車を走らせても、炭素削減目標の達成には至らないことも認識している。実際、現在のインフラでは、中国の電池式電気自動車は従来の内燃エンジン車よりも多くのCO2を排出している(図表4)。

中国では内燃エンジン車よりも電池式電気自動車の方が大量のCO2を排出する.png

EVは今後数年間に大量の新型モデルが発売される見通しで、中国や世界全体で普及に弾みがついている。自動車メーカーの競争が激化し、利益率が低下する中で、EVのサプライチェーンにはより魅力的な投資機会があると考えている。

水素もいずれはグリーンエネルギー生産の一翼を担うことになりそうだ。現在はリチウム電池の重量とエネルギー密度が最適な水準ではないものの、水素発電は商業輸送のソリューションとなる可能性がある。中国ではすでに多くの企業が水素の実験を行っており、大規模な国有企業が水素補給ステーションを展開している。

世界的なコミットメントへの注力

中国が国内の課題に取り組んでいる一方で、世界的な協力が進んでいる。米国がパリ協定に復帰したことで、米国と中国の双方の政府にとって、気候変動への取り組みが共通の基盤を生み出している。ここ数年は世界的に不安が広がっていたが、地球の問題に対処する多国間のアプローチは世界中から歓迎されそうだ。

中国の数十年にわたるカーボンニュートラル計画は、まだ極めて初期の段階にある。だが、その規模の大きさを考えれば、世界で最も野心的な脱炭素計画から利益を得る企業を見極めるために政治及び産業の側面で政策がどのように実施されるかを積極的に注視することは、投資家にとって時宜を得た準備となろう。

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