エネルギー源としての水素の可能性が改めて注目されている。実用化には20年ほどはかかるかもしれないが、その影響はほとんどの長期投資家の投資計画期間内に実感できる可能性が高い。今のうちに投資にどのような影響を及ぼし得るか、しっかり考えておくべきだろう。
「水素経済」への関心が急速に高まっている。日本は 30カ国と協力し、2030年までに10,000箇所の水素ステーションを設置しようとしている。フランスとドイツは、新型コロナウイルスのパンデミックからの復興計画の一環として、水素への移行に数十億米ドル規模の投資を行っている。また、オーストラリア政府は2020年に水素関連産業の発展を支援するためのファンドを立ち上げた。
水素は、すぐには脱炭素の特効薬にはならないが、20 年後には世界のエネルギー・ミックスの重要な構成要素になると考えられる。水素について投資家が知っておくべきことは何だろうか。
従来の燃料よりもクリーンで軽量
投資のフレームワークを明確にする5つのポイント:
1. 水素は新しい技術ではない。水素を製造する最も単純な方法は、水に直流電流を流し、水素と酸素を分離することだ。水の電気分解は1800年頃に始まっており、1869年にはベルギーの電気技師ゼノベ・グラムが、安価に水素を製造するためのグラム機械を発明している。化学反応としてはシンプルなもので、技術的には十分研究されてきた。
再生可能エネルギーを用いた水素の製造は、1930年代にノルウェーのティン湖にあるノルスク・ハイドロ社の工場で水力発電を利用して水素を作り、肥料としてのアンモニアを製造したことから始まった。現在、アンモニアは水素の貯蔵・輸送手段として注目を集めているが、再生可能エネルギーを用いたアンモニアの製造は、世界の産業の「グリーン化」の次なるステップの1つと考えられており、年間1億7,500万トンにのぼる化石燃料由来のアンモニアを代替する可能性を秘めている。また、船舶の燃料や石炭火力発電所の代替燃料としても実用化の可能性が高い。
2. 重さは重要。水素は周期表の中で最も軽い原子である。1キログラムの水素に含まれるエネルギー量は、1リットルのディーゼル燃料に含まれるエネルギー量の約3倍もあり、輸送用機器向けの燃料として非常に有用だ。また、現在テスラ社が製造しているバッテリーと比べても、重量当たりのエネルギー量は100倍以上になる。
重量が重要な場合、水素は理想的な燃料となり得る。NASAがアポロ11号の月面着陸ミッションで使用したサターンV型ロケットの燃料に水素を選んだのもそのためだった。最近では、現代自動車の市販水素燃料電池自動車「ネッソ」は、わずか6キログラムの水素燃料で600キロ以上の航続距離を記録している。
この重量の優位性から、エアバス社は、将来のカーボンニュートラルな航空機は主に水素を動力源とすると発表している。地上でも、自動車やトラックの次なる革命は、水素燃料電池(航続距離用)とバッテリー(高出力用)の組み合わせになるかもしれない。
3. 現時点では、再生可能エネルギー由来の水素は経済的ではない。再生可能エネルギーを用いて製造された「グリーン」水素には明るい未来があると信じているが、現時点では、経済性は概して厳しい。輸送用機器の燃料として直接比較する場合、水素はエネルギーの貯蔵・輸送手段として最も安価なエネルギー媒体の2倍から4倍のコストがかかる。また、水素を原料として使用する化学産業プロセスでは、「グリーン」水素は、天然ガス由来で炭素排出量の大きい「グレー」水素には勝てない。
しかし、先行きは明るい。今後は経済性が飛躍的に向上する見通しであるためだ。
4. グリーン水素の経済性を向上させる4つの要因。第1に、産業の成長に伴いプラントの大型化が進み、スケールメリットにより単価が低下する。第2に、プラントの建設が増えることで、技術的な進歩が期待できる。例えば、電解槽に高分子電解質膜を用いることで、すでにコスト面での成果が表れている。第3の要因は、再生可能エネルギーの断続的な性質によって、エネルギー市場において一次的な電力余剰が生じていることだ。風力や太陽光発電の電力網への統合が進むにつれ、一部の国々では気象条件などによって再生可能エネルギーによる発電が供給過剰となる時間が増えており、そうした時間帯はスポット電力価格がゼロまたはマイナスになることもある。このような形で供給過剰となった電力は、水素に変えることができる。電気は水素の最大の変動コストであるため、短期的な損益分岐点を劇的に減少させることができる。
第4の要因は、政府による支援が進んでいることだ。「グリーンバンク」と呼ばれるクリーン・エネルギーに投資を行う金融機関からの資金提供は増加しており、水素製造の資本コストをカバーし、上述の3つの要素を加速させるのに役立っている。また、炭素価格制度が導入された市場では、水素と化石燃料のコスト格差が縮まるだろう。
5. 水素が成長ドライバーになり得る企業は数多い。投資家にとって、現段階での課題は、投資機会を見極めることである。水素がもたらす影響は広範にわたり、世界中でさまざまな企業に影響を与える可能性がある。
どの企業が最も恩恵を受けるかはまだわからないが、この機会を捉えるために必要な属性を列挙することは可能である。これらの属性を図表のように水素産業のバリューチェーンに沿って並べることで、投資機会を見極める指針とできよう。
どのような企業が水素投資の対象となるだろうか? 例えば、将来的に水素販売ステーションに転換できる施設のネットワークを持つ燃料小売業者が挙げられる。また、水素供給システムに転換できるパイプライン・ネットワークを持つ天然ガス業者、水素製造設備を追加したり水素製造に転換できる天然ガス処理工場を運営する会社なども含まれる。
投資家はどう備えるべきか
水素経済の構築は、まだ基礎工事が始まったばかりである。しかし、水素が産業や消費者のライフスタイル、投資ポートフォリオに与える影響を考えれば、投資家は20年といった時間軸で考えることが必要だ。そして、さまざまな企業がどのように水素のバリューチェーンに関わるのかを理解することで、今から準備を始めることができる。また、水素の技術やビジネスが成熟するにつれ、技術的・財務的な評価には、より専門的な知識や研究が必要になるであろうことも認識しておくべきだ。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら。
本文中の見解はリサーチ、投資助言、売買推奨ではなく、必ずしもアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)ポートフォリオ運用チームの見解とは限りません。本文中で言及した資産クラスに関する過去の実績や分析は将来の成果等を示唆・保証するものではありません。
当資料は、2021年2月24日現在の情報を基にアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーが作成したものをアライアンス・バーンスタイン株式会社が翻訳した資料であり、いかなる場合も当資料に記載されている情報は、投資助言としてみなされません。当資料は信用できると判断した情報をもとに作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。当資料に掲載されている予測、見通し、見解のいずれも実現される保証はありません。また当資料の記載内容、データ等は作成時点のものであり、今後予告なしに変更することがあります。当資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、当該指数等の開発元または公表元に帰属します。当資料中の格付けは特に記載のない限りABの定義に基づきます。当資料中の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。アライアンス・バーンスタイン及びABはアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーとその傘下の関連会社を含みます。アライアンス・バーンスタイン株式会社は、ABの日本拠点です。
当資料についてのご意見、コメント、お問い合せ等はjpmarcom@alliancebernstein.comまでお寄せください。
「責任投資」カテゴリーの最新記事
「責任投資」カテゴリーでよく読まれている記事
アライアンス・バーンスタインの運用サービス
アライアンス・バーンスタイン株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第303号
https://www.alliancebernstein.co.jp/
- 加入協会
-
一般社団法人投資信託協会
一般社団法人日本投資顧問業協会
日本証券業協会
一般社団法人第二種金融商品取引業協会
当資料についての重要情報
当資料は、投資判断のご参考となる情報提供を目的としており勧誘を目的としたものではありません。特定の投資信託の取得をご希望の場合には、販売会社において投資信託説明書(交付目論見書)をお渡ししますので、必ず詳細をご確認のうえ、投資に関する最終決定はご自身で判断なさるようお願いします。以下の内容は、投資信託をお申込みされる際に、投資家の皆様に、ご確認いただきたい事項としてお知らせするものです。
投資信託のリスクについて
アライアンス・バーンスタイン株式会社の設定・運用する投資信託は、株式・債券等の値動きのある金融商品等に投資します(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)ので、基準価額は変動し、投資元本を割り込むことがあります。したがって、元金が保証されているものではありません。投資信託の運用による損益は、全て投資者の皆様に帰属します。投資信託は預貯金と異なります。リスクの要因については、各投資信託が投資する金融商品等により異なりますので、お申込みにあたっては、各投資信託の投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等をご覧ください。
お客様にご負担いただく費用
投資信託のご購入時や運用期間中には以下の費用がかかります
- 申込時に直接ご負担いただく費用…申込手数料 上限3.3%(税抜3.0%)です。
- 換金時に直接ご負担いただく費用…信託財産留保金 上限0.5%です。
- 保有期間に間接的にご負担いただく費用…信託報酬 上限2.068%(税抜1.880%)です。
その他費用:上記以外に保有期間に応じてご負担いただく費用があります。投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等でご確認ください。
上記に記載しているリスクや費用項目につきましては、一般的な投資信託を想定しております。費用の料率につきましては、アライアンス・バーンスタイン株式会社が運用する全ての投資信託のうち、徴収するそれぞれの費用における最高の料率を記載しております。
ご注意
アライアンス・バーンスタイン株式会社の運用戦略や商品は、値動きのある金融商品等を投資対象として運用を行いますので、運用ポートフォリオの運用実績は、組入れられた金融商品等の値動きの変化による影響を受けます。また、金融商品取引業者等と取引を行うため、その業務または財産の状況の変化による影響も受けます。デリバティブ取引を行う場合は、これらの影響により保証金を超過する損失が発生する可能性があります。資産の価値の減少を含むリスクはお客様に帰属します。したがって、元金および利回りのいずれも保証されているものではありません。運用戦略や商品によって投資対象資産の種類や投資制限、取引市場、投資対象国等が異なることから、リスクの内容や性質が異なります。また、ご投資に伴う運用報酬や保有期間中に間接的にご負担いただく費用、その他費用等及びその合計額も異なりますので、その金額をあらかじめ表示することができません。上記の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。