伝統的資産クラスとは無相関のリターン源泉を通じた分散効果の追求は果てしなく続く。気づかぬうちにリスクを増大させてしまったり、相場の下落局面において期待外れの結果となったりしないように適切な分散効果を得るために重要なのは、相関性という概念を多面的に掘り下げることである。
 
株価バリュエーションが高水準で推移しているうえ、国債投資に不利な金利上昇が視野に入って来るなか、向こう数年にわたり伝統的な資産クラスが大きなリターンを生み出す見込みは低い。大半のポートフォリオにおいて株式(上場・非上場)が依然としてリスクの大部分を占めるため、投資家は株式と無相関で安定したリターンを模索する姿勢を強めている。
 
ポートフォリオの分散度を高めるために、多くの投資家が伝統的な株式リスク・プレミアムや債券の期間プレミアム、信用プレミアムの枠を超えて投資の範囲を広げている。もちろん、非伝統的なリスク・プレミアムを活用するという考えは決して新しいものではない。多くの運用機関が、コモディティやヘッジファンドなどのオルタナティブ資産・戦略への資産配分を通じて非伝統的なリスク・プレミアムを利用している。
 
「無相関」という言葉は、さまざまなヘッジファンドの戦略やスタイルを説明する際に使用されることが多いが、留意すべきなのは、このラベルの妥当性が実際には投資家によって異なるさまざまな目的や考慮すべき状況に幅広く関わっていることである。また、一部の非伝統的なリターン源泉は表面的には無相関に見えるが、真の意味で無相関なリターンを生み出すことは見掛け以上に複雑である。
 

時間軸は重要な要素

資産配分においては、リターン源泉を株式と無相関にさせたい期間を慎重に検討する必要がある。すなわち、相関度は日次ベースで計測するのか、週次なのか、四半期ベースなのか、あるいはそれよりも長い期間なのかといったことを検討する必要がある。相関性というのはもとより動的なものであり、評価する期間によって結論は変わり得る。
 
主要なオルタナティブ戦略のうちでも、例えばマージャー・アービトラージなどでは、株式市場の下落時に株式との正の相関が生じて短期的に損失が発生するが、その後は相関度が平均回帰する傾向を示してきた。このような戦略を評価する際は、時間的要素が極めて重要である。
 
日次データに基づくと、株式市場に対するマージャー・アービトラージの長期ベータは0.20の水準にあり、またこの値は市場下落局面においては上昇し得る。しかし、これよりも長い時間軸である四半期ベースのリターンで測定すると、2007年以降の実績ベータはゼロと、まさに無相関のリターン源泉となっている。これはどのように説明できるだろうか。マージャー・アービトラージが投資するディールはいずれ合併成立でクローズされる可能性があるため、より長い時間軸で見ると株式市場と明確に異なるリターンを生み出し得るということである。
 
マージャー・アービトラージ戦略において株式市場への感応度を減らすために重要なのは、友好的かつ戦略的な性質の「より安全な」合併案件を重視するということである。株式市場のボラティリティの高低にかかわらず、マージャー・アービトラージ取引は今後も高い水準でクローズされるであろうことがアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)のリサーチからもうかがえる。
 

無相関でもテール・リスクを伴うことも

無相関だと考えられるオルタナティブ投資のリターンは、何らかのプレミアムを捉え、リターンを生み出すために意図的に特定のリスクを引き受けている場合がある。株式市場の下落局面では、モメンタムやボラティリティ、低流動性など、そうした戦略の根底にあるリスクが浮き彫りになる場合がある。
 
これらのリスクが表面化したとき、運用者はポジションの縮小やヘッジを余儀なくされる。その結果、想定している時間軸にかかわらず損失が生じる場合がある。株式市場が下落するまでは目に見えない重大なテール・リスクだと言える。例えば、レバレッジ比率の高いレラティブ・バリュー戦略などはこうしたリスクにさらされる可能性がある。というのも、レバレッジ比率が極めて高い市場参加者は、複数の資産クラスにまたがってレバレッジを効かせており、混乱時に同時にレバレッジ解消することで相関が高まるからである。
 
近年では、例えば2018年2月にこうした事態が発生した。より最近では、2020年3月にも生じた。債券のベーシス取引や株式指数先物の配当ロール&キャリーなど、高いレバレッジを用いた戦略が大きな打撃を受けた。2018年のときは、ショート・ボラティリティ戦略が大きな損失を被った。投資家の不安が高まると解約や追加証拠金要求が増加するが、そうした状況になるとレバレッジを効かせたエクスポージャーは手仕舞いを余儀なくされ、損失を確定させられる恐れがあるのだ。
 
オルタナティブなリターン源泉を介して株式との相関のないエクスポージャーを模索する投資家がそのリターンの根底にあるパフォーマンスの決定要因を理解するには、調査とデューデリジェンスが欠かせない。
 

無相関の「平均」は誤解を招くことも

平均は誤解を招く場合がある。これは投資のあらゆる要素について古くから言われていることであり、相関も例外ではない。
 
例えば、クオンツやファンダメンタルズ分析に基づき頻繁にポジションが変更されるディレクショナル・エクスポージャーは、長期的な時間軸で見た場合、株式市場と無相関に見え得る。しかし、そうしたエクスポージャーは、株式市場の大幅下落局面など、特定の時点で市場と大きく相関する結果になる場合がある。この問題が顕著なのは、コモディティ・トレーディング・アドバイザー(CTA)のエクスポージャーである。現在、グローバル株式のロング、米ドルのショート、コモディティのロング、グローバル債券のショートなどは、いずれも明らかに「リスク・オン」的なエクスポージャーであり、そうしたポジションを取っていれば株式市場と無相関ではない。
 
こうしたさまざまな動きを、投資家はどのように管理できるだろうか。例えば、幅広いマクロ資産クラスにわたるシステマチックなアプローチを導入すれば、シグナルや戦略において中立性をより適切に実現でき、相関の低いユニークな資産になり得ると考えられる。
 

テール・リスク・プロテクション

投資家によっては、ポートフォリオの中核部分における無相関を目指すことに伴う面倒を回避したいと考えるだろう。そうした投資家は、しばしばポジティブ・コンベクシティを用いることでポートフォリオの株式リスクを相殺することを選択している。つまり、テールリスク・プロテクションを利用することで全体のバランスを取ろうとするのである。
 
しかし、従来型のテール・ヘッジはコストが高くなる恐れがあり、タイミングによっては一段と高くなりかねない。場合によっては、実際のテール・イベントが発生しないうちに投資家のヘッジ予算が枯渇することもあり、ヘッジ・プログラムのベーシス・リスクとヘッジしたいリスクの間のギャップが許容できないほどに広がりかねない。
 
カスタマイズ性が年々強まってきているプロテクション用のエクスポージャーを適切に構築するためには、流動性、想定元本、仕組みの多様性、シグナルなどさまざまな要素を考慮に入れるべきである。また、このプロテクション自体の損益の考慮やリバランスのための綿密に練られたプロセスを策定することが不可欠である。
 

結論

多くの投資家が、ポートフォリオにおいて依然として大きな部分を占める株式と無相関のリターン源泉を模索し続けている。そして、伝統的資産のリターンの先細りが予想される現在の環境におけるリスク調整後リターンの管理には分散が不可欠であり、オルタナティブ投資への資産配分は必要性を増している。
 
投資の世界では、既成の誰にでもすぐに使えると思われているソリューションが無効になってしまうような微妙な違いや複雑性が表面下に数多く存在する。基準とする時間軸によって相関度は大きく変わる場合があるし、頻繁にポジションを反転させる戦略は平均の効果によって真の相関度が見えにくくなっているだけかもしれない。そして無相関のリターンの源泉は、個々のポートフォリオの設計に応じて適切なサイズに調整して組み入れる必要がある。
 
非伝統的なリターン源泉は、効果的に取り込み、利用し、管理すれば、株式に対するベータを分散させることでポートフォリオの体質改善に寄与できる。今後、伝統的資産のリターン低迷が予想される中で引き続き下振れリスクも抑制しなければならないことを考えると、こうした地道で手間のかかる努力も、十分苦労の価値があるかもしれない。
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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