【ESGに関する取り組み】
ブラジルでは大規模な山火事や政府の環境保護政策の後退を受け、森林破壊が国際的な注目を集めている。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)の株式・債券ポートフォリオはブラジルの牛肉生産会社に積極的に投資しており、環境リスクや投資リスクを軽減しながら、熱帯林の保護に寄与しうる持続可能な活動を促す機会を提供している。
ブラジルでは2019年1月にジャイル・ボルソナロ氏が大統領に就任して以来、森林破壊のペースが急激に加速している。熱帯林は大量の炭素を貯蔵し、温室効果ガスの排出削減に寄与するため、気候変動を緩和する上で重要な役割を果たしている。牛の放牧は、広大な土地を手に入れるため森林を違法に焼き尽くすケースが多く、森林破壊の主な原因の1つとなっている。
環境保護団体、企業、投資家は、商業目的の土地の保護を妨げるような政策の見直しを政府に求めてきた。ブラジル政府に対しては、特に牛の放牧や大豆栽培を目的とする森林伐採を防ぐための規制強化を求める圧力も高まっている。一方、最大規模の牛肉生産会社は、サプライチェーン全体で森林破壊防止策を講じることを約束している。しかし、なすべきことはまだ多く、投資家は企業に働きかけることで、サステナビリティを推進することができる。
科学が証明する森林破壊の拡大
科学的な証拠については議論の余地がない。ブラジル国立宇宙研究所(INPE)によると、2019年8月から2020年7月までの1年間にアマゾンの森林9,200平方キロメートル以上が破壊された。それは、2019年7月までの1年間を34%上回る規模である(図表1)。また、INPEの報告によると、世界最大かつ最も生物多様性に富んだ氾濫原(洪水などによって河川が氾濫し、運ばれてきた土・砂・小石などが堆積して生じたほぼ平坦な土地)の1つであり、ユネスコ世界遺産に指定されたブラジルのパンタナール湿地帯では、2020年1月から8月までの間に、2019年の同時期と比較して3倍以上の火災が発生した。パンタナールは、ブラジルの牛の推定25%が生息する2つの州にまたがっており、火災の多発により、食肉加工コストの約80%を占める牛の不足が深刻化する恐れがある。
INPEによると、2004年から2014年にかけて起きたアマゾンの生物群系における森林伐採の65%は、新たな牧草地の開拓が原因だった。多くの場合、放牧者は森林に火を放ち、新たに作り出した牧草地で収入を得るために牛を育て、最終的には農家に土地を売却して利益を得ようとする。
加速するブラジルの森林破壊ペースに対する国際的な監視の目は著しく厳しくなっている。2020年5月には40社を超える欧州企業が、ブラジル政府が森林伐採を取り締まれない場合、ブラジル製品をボイコットすると警告した。その1カ月後には、合わせて3兆7,000億米ドル以上の資産を持つ金融機関29社が、こうした状況はブラジルからの投資引き揚げにつながりかねないとブラジル政府に警告した(関連記事「Global investors demand to meet Brazil diplomats over deforestation」(英語)ご参照)。
なぜブラジルの牛肉に投資するのか?
森林破壊の深刻さの度合いを考えると、ブラジルの食肉加工会社への投資は直感に反する行動かもしれない。しかしABでは、企業や政策当局者と建設的なエンゲージメントを行う投資家は、持続可能な政策を推進する上で重要な役割を果たすことができると考えている。ブラジルの牛肉生産会社への投資を単に回避または売却すれば、森林破壊リスクに対するポートフォリオのエクスポージャーは縮小するが、森林破壊を減らすことにはつながらない。
ABの株式及び債券のポートフォリオの一部は、ブラジル最大規模の食肉会社であるミネルバとマルフリグのポジションを保有している。ブラジルの牛肉生産会社は世界最大級の規模を誇り、成長をけん引する強力な要因を持っている。ABは、これらの企業への選別的な投資には説得力があると考えている。アジアでは牛肉消費量が増加している一方で、供給は制限されている。また、ブラジル企業は世界の主要国の中で生産コストが最も低い。
これらの企業にとっての課題は、極めて複雑な牛のサプライチェーンを監視しながら、世界的な牛肉需要の拡大に対応していくことである(図表2)。牛のサプライチェーンには、繁殖業者から、若い牛の飼育を専門とする牧場、食肉処理場に直接販売する「最終肥育」業者(ダイレクト・サプライヤー)まで、数多くの段階がある。
サプライチェーンの監視:環境・社会・ガバナンス(ESG)の大きな課題
ここ数年、食肉業界では、大規模で専門性の高い直接的な牛のサプライヤーに対する監視が著しく進展している。大手の肉牛生産会社は政府のデータベースや衛星データを利用し、森林破壊につながる放牧を特定している。また、グリーンピース(非政府の自然保護・環境保護団体)が立ち上げた森林破壊ゼロを目指すプロトコルや、独立した監査やサプライヤーの調査を義務付ける地元検察当局とのコンプライアンス協定など、重要な取り組みにも参加している。例えば、2017年と2018年にグラント・ソーントンが実施したミネルバの公式なサードパーティ監査では、大規模なサンプルにおいて、規定に従っていない牛の直接購入がほとんどなかったことが確認された(図表3)。BDOが2019年に実施したミネルバの監査でも同じような結果が得られた。
しかし、直接的なサプライヤーを監視する業界のシステムは全面的に信頼できるのだろうか? 例えば、コンプライアンスを遵守しているサプライヤーを通じて意図的に「ロンダリング」された牛は、監視システムに引っかからない可能性がある。また、セラード地帯など、アマゾン以外の生物群系にも監視システムを拡大する必要がある。こうした改善の余地は依然として大きいが、大手食肉メーカーは、充実した情報や技術システムを通じて直接的な牛のサプライヤーのコンプライアンス遵守を監視する仕組みをほぼ整えつつあり、これは投資家にとって心強い材料である。
間接的なサプライヤーの監視はより大きな課題であり、大手の牛肉生産会社がコンプライアンスを確認するための道のりはまだ遠い。全米野生生物連合によると、牛に関連した違法な森林破壊の60%近くは、食肉加工業者の直接的なサプライヤー以外で発生している。大きな障害となっているのは、サプライチェーン内部で牛が売買された場合に、それを追跡する情報システムが限られていることである。そのため、食肉加工業者にとって、購入する牛がどこかの時点で森林破壊に関連する牧場で飼育されていないことを保証するのは難しくなっている。
全米野生動物連合は、間接的なサプライヤーを監視する上で必要な情報システムのギャップを埋めるため、数年かけて「Visipec」と呼ばれる新たなツールを開発した。ミネルバは現在、このシステムを試験運用しており、このツールが間接的なサプライヤーを監視するためのギャップを埋めてくれると期待している。ProForest、世界自然保護基金(WWF)、Amigos de Terraなど他のいくつかのNGOも、間接的なサプライヤーの監視に関する課題に対処するツールの開発や政策提言を行っている。
ABの取り組み: 変化を促すためのエンゲージメント
ABはブラジルの牛肉生産会社に投資していることで、森林破壊リスクについて企業の経営陣と効果的に対話することができる。2012年以降、ABはそれぞれの企業の取り組みを調査し、頻繁に開かれるエンゲージメント・ミーティングで企業に改善を求めてきた(図表4)。
ABはミネルバとの議論を通じ、同社がESG問題に強くコミットしていることを理解した。同社はサプライチェーンにおける森林破壊リスクに対処するため、強力な措置を講じてきた。ミネルバは、直接購入した牛の監査における不適合率が大手食肉業者の中で最も低いだけでなく、外部プロバイダーであるナイスプラネットに対し、コンプライアンスに従っていない地域を認定する権限を同業他社よりも多く与えている。
ABは2020年7月にミネルバの経営陣に書簡を送り、経営陣の報酬プランの一部としてESG目標が組み込まれているかどうか質問した。同社は、その時点において報酬プランにESG目標は含まれていないと回答したが、ABはこの書簡について、ミネルバに一段と持続可能な調達慣行を促すため、明確なESG目標の採用を経営陣に働きかける対話の始まりになると考えている。
政府やNGOとのエンゲージメント
政府とのエンゲージメントも重要である。ABのクレジット・アナリストはブラジル財務省の代表者との会合で、森林破壊に関する懸念を強調した。ABではESGに関する問題を重要なリスク要因とみなしており、ソブリン債のファンダメンタルズの評価に取り入れている。
ABの投資チームは、進捗状況を評価する重要な指標を特定することに焦点を当て、企業へのエンゲージメントを深める計画である。また、国内の主な販売チャネルである食品小売業者や他のタンパク質生産業者など、関連する企業や業界にもエンゲージメントを拡大していきたいと考えている。
一方で、EMインベスターズ・アライアンスや、全米野生動物連合といった関連のNGOなどの非営利団体と連携し、ブラジルの牛サプライチェーンの監視に関する理解を深めている。これらの団体は、どの企業が約束を守り、どの企業が守っていないかについての情報を提供してくれる。また、彼らは森林破壊に焦点を当てている他の投資家との対話の場を提供し、情報共有やベストプラクティスを促進している。
ESGインテグレーション: 森林の救済は潜在的なリターンを後押し
エンゲージメントに関するこうした取り組みは、ABの投資リサーチにとって重要な要因である。投資家や消費者は、世界的な排出削減目標に合致した製品やサービスを企業に求める姿勢を一段と強めている。森林破壊への適切な対応ができない牛肉生産会社は、顧客や契約を失うことで市場にアクセスしにくくなるほか、信用格付けの引き下げや訴訟など、多くの潜在的なリスクに直面することになる。さらに、そうした圧力はバリューチェーン全体に広がっている。例えば、フランスのスーパーチェーン運営会社のカジノは2020年9月に、森林破壊との関わりがある牛肉を販売し、ブラジル産食肉の調達先を十分に監視していないとしてNGOから非難された。
森林破壊への世界的な関心は時間と共に高まる見通しで、食肉業者に対し、この問題にどのように対処し、事業のリスクをどう縮小しているかを開示するよう求める圧力が高まるとABでは考える。
ブラジルに対する世界的な圧力が高まる中、投資家は森林破壊を防ぐ上で重要な役割を担っている。ABの運用チームは、ブラジルの牛肉生産会社とエンゲージメントを行うことで、魅力的な投資リターンの獲得に寄与することができるだろう。それは、牛肉会社の利益だけでなく、アマゾンの熱帯雨林が地球の肺として機能し続ける能力にも影響を与える大きな変化を促すことになる。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら。
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