中国経済の減速をめぐる懸念は、不動産や製造業に影響を与える問題に焦点が当てられている。しかし、それは全体の一部に過ぎない。リスクや投資機会をより深く理解しようとする投資家は、広い視点で考える必要がある。
 
特に2008年の金融危機以降の世界経済を支えた「世界の成長エンジン」としての中国のイメージは依然として多くの人々の心に刻まれているが、中国自身はもはやそう考えてはいない。
 
そのことは、中国の景気減速、政策、成長見通しについて誤解を招く要因となっているかもしれない。例えば、2021年7-9月期の成長率は4-6月期よりも大幅に低下する見込みだが、本当に注目されるのは10-12月期や2022年の経済成長率への疑問符だ。
 
こうしたリスクを理解するためには、現在の中国が高成長だけでなく、金融システムの安定や環境問題など、他の目標にも配慮していることを認識しておくことが重要である。それを知っている投資家でも、その意味合いや、全体的な政策の枠組みを構成するさまざまな要素がどう絡み合っているのかについては十分に理解していない可能性がある。
 
まず手始めに、中国の成長見通しを形成している幾つかの要因と、それらが政策の観点からどう見えるかについて考えてみるのがいい。
 

中国経済の内部成長にも勢いが出ない局面

ここ数カ月の成長減速には、洪水や新型コロナウイルスの感染再拡大など、幾つかの要因が影響している。しかし、成長見通しをめぐるリスクに関しては、市場は主に2つの問題に注目している。それは不動産セクターに対する規制当局の介入と、電力供給の制限が製造業に及ぼす影響である。
 
これらのセクターは、中国経済がひたすら成長していた時期にはそのけん引役だったが、現在では、成長と同時に金融の安定や環境も重視する、より広範な政策フレームワークの中で考えるべきである。
 
このようなフレームワークへ移行した結果、国内総生産(GDP)の成長目標はより現実的なものとなり、かつてGDP目標がトレンドを超えた硬直的なものであった時期のように、政策当局者が一部のセクター(不動産やインフラなど)に望ましい水準以上の成長を促す必要もなくなっている。
 
重要なのは、このフレームワークの下で、政策当局者が現実的な方法で目標間のバランスを取り、政策を積極的に調整しようとしていることである。彼らは1つの目標に固執して他の目標を犠牲にする必要がなくなっている。
 
こうした状況においては、不動産や製造業とともに家計消費や民間投資など、内部的な成長のけん引役について検討することが重要になる。これらはいずれも、理由は異なるものの、短期的には成長見通しが抑えられている。
 
不動産と製造業は、金融システムの安定と環境という政策目標に関する政府の措置によって抑制されている。これらの措置は、全体の成長に与える短期的な影響を和らげるため調整されるかもしれないが、これらのセクターの回復は、今後も全体的な政策バランスに沿って調整されそうだ。
 
2022年の幅広い成長見通しは、家計消費と民間投資に大きく左右されそうだ。しかし、貯蓄率が依然として高いことが示すように、家計の消費意欲はいまだに低迷している。また、コモディティ価格の上昇は企業利益を圧迫し、民間投資の行く末に不確実性を生み出している(図表)。
 
家計消費と民間投資は依然として低迷.png
 
政策当局者はこれらの課題にどう対処しているのだろうか?
 

成長率目標は依然として重要

中国の経済政策の独特な点は、通常は明確な成長目標を掲げることである(2020年は例外で、パンデミックの影響で経済活動が減速したため目標が取り下げられた)。上半期の実績を見ると、6%以上としている2021年の成長目標は優に上回った。そのことは、政策当局者が2021年の残りの期間について、低成長が続くのを受け入れることを意味するのだろうか? 
 
そんなことはない。なぜなら、まさしく成長目標があるからだ。2021年7-9月期と10-12月期に低成長が続けば、2022年はトレンドを大幅に上回る成長を続けない限り、政策当局者にとって年間の成長目標を達成するのが難しくなる。
 
成長目標の重要性は、中国政府が2035年までに国民1人当たり所得を倍増させることを目指しているという事実が裏付けている(アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は、2022年のGDP成長率目標が5.5%前後、あるいは5~5.5%になると予想している)。
 
問題は、政策当局者が成長を支援するか否かではなく、どのように支援するかということである。
 
彼らは不動産セクターに頼ろうとはしないだろう。不動産セクターについては規制を通じて活動を抑制し、安定性を高めることに政策の重点を置いている(抑制されていた初回住宅購入者の需要喚起や、銀行による若干の住宅ローン提供拡大といった地方レベルでの柔軟な対応によって、不動産企業の破綻リスクは軽減されている)。
 
その代わり、成長を支える数多くの政策が講じられそうだ。最も重要なのは、予算支出の加速や公共投資を支える地方政府による特別債の発行など、拡張的な財政政策となるだろう。
 
また、中国人民銀行(PBOC)は現在の低い政策金利を据え置き、中小企業に的を絞った流動性供給を継続すると予想される。循環的な政策をより重視すれば成長を後押しするだろうが、大規模な刺激策が講じられるとは考えにくい。
 
こうした環境を踏まえ、ABでは2021年10-12月期にGDPが着実に回復し、2022年は潜在成長率(過度のインフレを招かずに中期的な経済成長を維持できる成長率水準)に近い成長を遂げるという合理的な見通しを持っている。
 
2021年は幾つかの業界に規制当局が介入したことを考えれば、短期的な成長に対するABの見通しは楽観的すぎるのだろうか?
 

単なる成長ではなく、質の高い成長

ABが中国の成長見通しに楽観的な理由は、最近の中国政府による規制強化や「共同富裕」を推進する政策がむしろ誤解されていると考えているからである。これらの動きは、政府が質の高い成長を目指しているという文脈で捉えるべきである。
 
例えば、最近起きた教育やテクノロジー分野への介入は、クレジット市場や株式市場、そして目先の経済成長に悪影響を与えると受け止められてきた。しかし、それは市場のゆがみを取り除くことによって質の高い成長を促すという長期的な戦略の一環として理解することが望ましい。
 
それは今の中国にとって、とりわけ重要なことである。なぜなら、中国経済は発展に向けた重要な段階にあり、国内外で急速な変化が進む中で(例えば、グローバル化の後退が中国の輸出に与える長期的な影響など)、付加価値の高い製造業を中心に一段と国内を重視する姿勢を強めているからである。
 
中国はより持続可能でバランスのとれた成長を実現するため、これまで以上に積極的に構造改革を推進している。
 
最近になって復活させた共同富裕政策も同様で、この政策は成長を犠牲にして社会的平等を優先するのではなく、国民1人当たり所得の拡大と格差の縮小を目指すものである。例えば、中国の消費比率が相対的に低い理由の1つに、格差の拡大が挙げられる。
 
いずれは共同富裕政策が格差縮小に寄与し、家計消費を押し上げる要因となるだろう。それは前述した内部成長をけん引する役割を果たす。それは、中国のさまざまな政策がお互いに影響を及ぼし合うことを示す一例となる。
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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