新興国の社債市場は最も急速な成長を遂げている債券セクターの1つとして、無視できないほど規模が大きくなっている。社債を発行している企業は600社を超え、発行残高は2兆7,000億米ドルと新興国のソブリン債市場全体を上回り、米ドル建て及びユーロ建てのハイイールド市場を合わせた規模に匹敵している。魅力的な利回りと潜在的なリターンを得る投資機会を見つけ出すのに苦しんできた債券投資家にとって、これは明るいニュースである。

だが残念なことに、多くの投資家は古い考え、特に新興国企業は環境・社会・ガバナンス(ESG)リスクが高いという考えに囚われているため、新興国社債の購入をためらっている。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では、投資家が魅力的なリスク・リターン特性を伴いながら成長しているこのセクターにアクセスするには、新興国におけるESGに関する混乱を打破する必要があると考える(以前のリサーチペーパー『ゴルディアスの結び目を断ち切る』をご参照)。

本稿では、ひどい環境汚染から手の施しようがない複雑な問題まで、新興国企業のESGに関する4つの最もよくある誤解を解いていきたい。

誤解1: 新興国企業は環境に悪い

まず、よくある誤解は、新興国企業はどれも古い業界に属しており、環境に悪いという見方である。かつては新興国企業が環境汚染の大きな原因だったことは間違いないが、もはやそうではない。この5年間で、新興国社債のユニバースは石油・ガス生産会社のような伝統的な汚染企業から、よりESGに配慮したセクターにシフトした。その中には、多くの企業が再生可能エネルギーへの移行を進めている公益事業セクターや、ヘルスケア及び一部の電子商取引企業を含む消費セクターも含まれている(図表1)。

新興国社債市場は石油・ガス・セクターにとどまらず多様化している.png

また、全ての新興国企業がESGの面で後れをとっているわけではない。排出削減に向けて世界をけん引している企業もある。例えば、メキシコの化学会社であるオルビア・アドバンスは、業界で最も炭素排出量が少ない企業の1つで、最も野心的な炭素削減計画を掲げている。実際、それは欧米の多くの大手化学企業の計画よりも優れている。

さらに、新興国企業は、クリーンエネルギーの未来への移行を推進するために必要な資源を開発する上で、世界をリードしている。例えば、国際銅協会によると、新興国企業は世界の銅の80%を生産しており、その需要は今後20年間に50%増加すると予想されている。リチウムについては新興国企業が半分以上を生産しており、その需要は2024年までに倍増するとみられている。この2つの金属はバッテリーや他のグリーンテクノロジーに使用されている。

最後に、新興国社債ユニバースは、グリーン・ボンドやサステナビリティ連動債といったESG債の発行が急増しているおかげで(以前の記事『進化するESG債市場』ご参照)、サステナビリティに関する指標が劇的に改善している。グリーン・ボンドは一定のフレームワークや時間枠の中で環境に配慮したプロジェクトに資金を提供し、サステナビリティ連動債は発行企業が特定のサステナビリティ目標を達成するための財務的インセンティブをもたらしている。

これらを総合すれば、新興国社債は、実際に環境の改善に向けたソリューションの一翼を担っている。

誤解2: 新興国企業のガバナンスに関する実績は劣悪

2つ目のよくある誤解は、新興国のコーポレート・ガバナンスが先進国に比べて大きく遅れているというものである。全体的に見れば、新興国企業は先進国企業に比べガバナンスがわずかに劣っているが、どちらにも大きなばらつきがある(図表2)。

新興国企業はガバナンス・スコアが低い.png

投資を成功させるためには、良いガバナンスと悪いガバナンスを見分けることが非常に重要であり、それによって大きな影響が生じうる。アラブ首長国連邦の民間医療会社であるNMCヘルスケアは、ガバナンスに関するリスクがいかに投資家に打撃を与える恐れがあるかを示す事例である。同社は数年間にわたって借入金を40億米ドル過少に計上していた。2019年に劣悪なガバナンスが明るみに出たことで、同社は管財手続きに入り、債券保有者は80%の損失を被った。

しかし、好ましい影響も考えられる。例えば、誠実な企業によるガバナンスの改善に向けた取り組みは、投資家に大きな利益をもたらす可能性がある。ブラジル、ブルガリア、アフリカで事業を展開する英国の発電会社であるコントゥアグローバルは株式公開を通じて厳しい調査を受け、透明性の基準を高めることでガバナンスや環境に関するリスク特性を改善したほか、石炭プラントを新たに建設しないことを約束した。その結果、同社の資金調達コストは大幅に低下し、この期間に同社の債券がアウトパフォームしたことから、投資家は大きな利益を得ることができた。

このように、新興国企業のガバナンスは先進国企業に比べそれほど悪いわけではない。しかし、ガバナンスの良し悪しを見極めるのは実際に難しく、そのことが3つ目の誤解につながっている。

誤解3: 新興国社債の評価にESGを取り入れるのはあまりに複雑

新興国社債のESGリスクは極めて不明確で複雑なものに見えるため、多くの投資家は新興国企業を差別化するために必要な徹底したデューデリジェンスを行っていない。しかし、十分に強力なリサーチ手法や投資プロセスを用いれば、新興国企業に関するESGリスクや他のリスクを把握及び管理することができる。

特に、エコノミスト、アナリスト、ポートフォリオ・マネジャー、責任投資の専門家で構成するチームが協力して360度のアプローチを取り入れれば、関連する情報をタイムリーに収集及び分析することが可能になる。

そうした能力はリスクだけでなく投資機会も把握できるため、責任投資の成果に関する目標を明確に定めている投資家だけでなく、優れたリスク調整後リターンの獲得を主な目的としている投資家にとっても、新興国社債は適切で魅力的な投資対象となる。

誤解4: ESGは新しくニッチすぎるため、新興国企業には効果をもたらさない

ESGという言葉は新しいかもしれないが、ESGリスクはそうではなく、紛れもない信用リスクである。ABの調査によると、過去10年間にアンダーパフォームした新興国社債の約3分の2は、重大な環境問題や会計上の不正など、ESGに関する問題を抱えていた。その一方で、ESG課題に積極的に取り組んでいる企業は収益が拡大し、資金調達条件も改善する可能性がある。

それは、ESGが投資家にとって最大の関心事ではないとしても、ESGは全ての新興国社債の発行体の収益に影響を与えるため、ESG要因を分析に取り入れる必要があることを意味している。ESGが最大の関心事だとすれば、新興国企業に投資すれば、世界が社会的エンパワーメントの拡大と環境のサステナビリティ向上を目指すための資金調達を手助けすることができる。

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